百合の匂い

青埜澄

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6-2話

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「なあ、佑……暴露大会しよーや」
 修は缶を指先で揺らしながら、薄く笑った。まぶたのあたりが赤い。酔いがじわじわ出てきている。
 佑は修のベッドに横向きで寝転び、腕を枕にして顔だけそちらへ向けた。
「暴露って、例えば?」
「例えば……俺、笠松さん苦手やねん。今日あの人来れんで、正直ほっとしてる」
「なんで?いつの間に?」
 思わず上体が少し上がる。修はあくまで気だるそうにスルメを噛みながら、けれどどこかこちらの様子を窺うようにして答えた。
「いつの間って、最初から。あの人、俺ら以外にはあんまり優しくないやろ」
「でも今日、誘ってたやん」
「あれは……言ってみただけ。本気で“行くわ”って返ってきた時は“マジか”って思った」
「お前……」
 その言い方は腹の奥の本音がつるりと滑り出てきたみたいで、佑はぞくりとした。
 “そんな風に思っていたんだ”という驚きより、
 “それを俺には言うんだ”という妙な高揚が胸を撫でた。
「でも偉いと思う」
「え?何が?」
「苦手でも、職場では普通に話すやん。……そういうの、凄いよ」
 修は目を細め、なんとなく照れたように鼻の頭をかいた。
「佑は?佑の暴露」
 促されて、佑は一瞬言葉を探した。
 加川と連絡先を交換した話は違う。
 父が不在がちなことも、母が百合を玄関に飾る理由も、ここに出す話じゃない。
 修が求めてる“暴露”は――どれ?
 頭の中が渦のようにざわつく。
 何を渡せば、修は満たされる?
 何も浮かばなかった佑は頭の隅にこびりついた昔の記憶を話した。
「……俺、小さい頃に父親のエロ本、絵本と一緒に読んでたことある」
「は?どゆこと?」
 修が前のめりになる。その反応に、佑は少しほっとして続きを話した。
「父親が出かけてる時に勝手に引き出しから取って読んでてさ。ちょっとエグいやつ。縛ったりとか。で、読み終わった後、絵本棚にしまって母親にバレた」
「やば…。ってかお前のおとんヤバいな。怒られた?」
「ううん、俺は怒られた記憶はない。父親はめちゃくちゃに怒られたみたいやけど。でも、その後数日間、俺はそのエロ本が気に入ったのか父親の部屋を漁ってたって。母親に捨てられたみたいやから全然見つけられへんかったけど」
「やば……お前…」
 修は机に顔を伏せて笑い、佑もつられて笑った。
 しばらく二人で笑っていたが、急に修はぽつりと言葉を落とした。
「佑の周りって、ゲイとかおる?」
「どうやろ……わからん」
「俺の大学にはいてさ。課題見せたるって言って目当ての男、家に呼んでるって噂もある。パンツ脱がされかけたとか、そういう話も聞いた」
 言いながら、修の目が泳いだ。
「やばいよな」
 そう言って缶に目を落とし、酒を飲む。それ以上話さない。
 佑には、その言葉が暴露なのか、ただの噂話なのか判断できなかった。
 ただ――修が何かを差し出した。
 なら、自分も何か返さなきゃいけない気がした。
 求めているものを、渡したいと思った。
「……俺、友達に首絞められたことある」
「はあ?」
 修は眉をひそめつつ、佑の続ける気配を感じ取って黙った。
「仲いい友達やってん。でも別の子と仲良くしてるのが腹立つって言われて……首絞められて。でも俺、それが……嬉しいなって思ってもうたんよ」
 言い終えると、部屋の空気が少しだけ沈んだ。
 修はスルメを噛む手を止め、ゆっくりと顔を上げる。
「その友達ってさ、前に言ってた“手ぇ繋ぐの好きな子”?」
「そう」
「お前ってさ……なんか、ちょっとおかしいよな」
 修はそう言って佑が横になるベッドに近づき、佑の目の奥を見るように顔を寄せた。
「修、知ってた?この世界も人間もどっか必ずおかしいところがあるんやで」
 だからお前が何をしても、俺は驚かんよ──その言葉を言いかけた佑の首元に修の手が伸び、心臓がばくばくと動いた。
「はあああーー」
 修は大きく息を吐き、そのまま佑の上に上半身をどさりと倒れ込ませた。
「……俺らさ、彼女作らなヤバいって。彼女作ろう。もうすぐさ、この辺で花火上がるやん。それまでに絶対作ろう」
 顔を佑の胸に伏せたまま、修はかすれた声で言った。
「……でも、もし二人とも出来んかったら、二人で花火見に行こう」
 上目遣いで顔をあげる修と目が合う。
「いいよ」 
 佑は笑って答えた。でも笑った瞬間、自分がどんな顔をしているのか分からなくなった。
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