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しおりを挟む「待ってたよ」
「・・・・・・どうして、戻って来ると思ったんです?」
誰もいないと思っていた、家の門のすぐ外に、女神は立っていた。
誰もいない夜の闇を見つめながら。
「戻って来なかったら、私が今から行っちゃうところだったから。かのんくんちに」
「あの、時間は」
「一旦家に帰ってから、また出てきたの。みんな、私は自分の部屋にいると思ってるよ」
「・・・・・・」
「ちょっと話がしたいよ。かのんくんも、でしょ?すぐ近くに公園あるから。そこいこ」
公園についた。
隣り合わせに、ブランコに座る。
キーコ。キーコ。錆びた金属の音。
ブランコなんていつ以来だろう。小学生、それも低学年の頃だろうか。
だが、言葉が出ない。
会いたい。会って、思いを伝えたい。そう思って引き返してきたのに、せっかく会えたのに、言葉が出ない。
言葉は、難しい。
生まれて初めて、そう思った。
順序立てて言わなければ、全てを気持ちは伝わらない。
でも、その順序が、整頓が難しい。
口を開けば、どちらの自分が出て来るか分からない。どの気持ちが先に、吐き出されてくるのか分からない。
言葉はとても困難だ、そんな歌詞が昔あったような気がした。
心の言語化はとても難しい。
彼女に心を知ってもらいたい、そう強く願った。
「かのんくん、私ね、今から」
「ダメです」
「え?」
「僕が先、です。絶対に」
「・・・・・・うん」
「言いたい言葉は山ほどあります。そこには、プラスの感情も、マイナスの感情も、あります」
「うん」
「女神には知って欲しくない、気持ちもあります。言いたい気持ちも。女神のことも、前から学校で知っていたことも、モンバスの中で知ったことも、つい最近知ったことも、今日初めて知ったことも」
「うん・・・・・・うん」
「金曜日に知ったことも、あります。帰りの電車の中で気づいたこと、チャリ漕いでて気づいたことも。たぶん、すごく上手に言えば、頭の中を整理して言えば、言葉の上手な人が言えば、後から思い出して、ゆっくり言えば、もしかしたら今から僕が言うことの結末が、変わるかもしれない」
「うん」
「でも、だめなんです。全部いっぺんに、全部言いたい。いい所だけ取り出せないんです。後で後悔するとしても、もう一生後悔しながら生きるとしても、全部を一度に伝えたいんです、センパイに」
「うん」
もう、途中から誰が何を言っているのか、すでに分からなくなりつつあった。同じことを何度も言っている気がする。才女を前に、なんて失礼なヤツだ。
でも、もう止まらない。止められない。
「僕は、いろんなことを考えました。でも、結局全て、自分を守りたかっただけでした。センパイに拒絶されたらとか、他に人にどう思われるかとか、自分が傷つきたくない、ちっぽけな自分を守りたい、今まで通りに過ごしたい。それでいい。そんな風に」
「私だって、そうだよ」
「だから、言います。僕は」
ブランコから立ち上がった。
せめて、この想いだけは、真正面から伝えたい。
「あなたを、心から愛しています。好きなんじゃない、愛しています。姫神センパイ」
人の気配の無い、闇の中の公園。
道沿いにある暗い街灯は、女神の表情を教えてはくれなかった。
静かな住宅街はしん、と静まり返っている。時折聞こえるのは、遠くの道を通って行く車の音。
一言に、全てを込めたつもりだった。
これ以上の余分な言葉は、付け足せばあとから後から湧き出して来る。
でも、それはそのコトノハの表面一つ一つでしかない。
見上げるような大樹に、葉っぱ一つ一つの説明は要らない。飾り立てた甘い言葉を期待するような、そんな女性ではない。
目の前に座るのは、そんな女性。だから、その言葉になった。
沈黙は、彼女の思考の混乱を意味しているのかもしれない。
けれど、もう返事がなくても分かっていた。僕には分かっていた。彼女は、僕の事を待っていたんだから。気持ちは、通じている。間違いなく。
あとは、その心を彼女が受けれるか、それだけ。
「・・・・・・わたし、いろんな事を考えちゃった。昨日から。いいこと、悪いこと、たくさん」
「・・・・・・」
「その中に、かのんくんが私の事を好きになってくれる、告白してくれる、ってのもあったの」
「ええ」
「それに対する返事、言い訳、それもたくさんあったはず。それも、その場で直接言っちゃうとか、あとで返事をします、とか、お手紙を書くとか、LIME送るとか」
「・・・・・・」
「ねえ、かのんくん。いま、完全に思考が繋がってるよね」
「ええ。そう思います」
「言葉って」
「伝えにくいですね」
「返事は、聞かなくても」
「分かってます」
「あたしは、受け入れるのかな」
「間違いなく」
「どうしてそう思うの?」
「いまさっきあそこで会えたから。24時の、魔法が解ける前に」
ふー、という、深いため息が聞こえた。
「やっぱり・・・・・・こうなっちゃうんだね。最終的に」
「そうですね。最初から分かってた気がします」
「全部、思考が一致しちゃってるね、今」
「今だけかもしれません」
「いっぱい、言いたいことあるね」
「一晩では終わりませんね」
「何か、一つの事を互いにあげて、さ」
「延々議論して、自分なりの説明をして、言い分を聞きます」
「そこでまた反論して、笑って、泣いて、愛しあって」
「でも、やっぱり聞いてしまうと傷つきます」
「で、あっため合う。これが愛なのか、欲なのかは分からないけれど」
「きっと、全部混ざってこうなってるんです。これはない、あれはない、なんてことはありませんし、言えません」
僕の言葉が終わると、ゆっくりと、彼女はブランコから立ち上がった。おずおずと近づいて来て、額を僕の胸に押し付け、腕を背中に回す。
彼女の背はあまり高くなくて、口元のあたりがちょうど額。
ふはー、とまたため息。
「もうだめ、かのんくん、完全に負け」
「二人とも勝ったんです」
「これ以上、言い訳しないことにする。私、こんな女だよーとか、いっぱい否定したりとか」
「ええ、分かってます」
「でも、あとでぐちぐち言うんだ、他の時にきっと」
「それも分かってます」
「一緒に、なろっか」
「もう、なってますよ」
「いろんなこと、いっぱいよろしく」
「はい。こちらこそ」
僕も彼女の背中に腕を回した。ぎゅうっ、と抱きしめる。そう、この温もり。何にも換えがたい、この感触。
キスしたい。
そういう気持ちが流れ込んで来た。
僕が思っていることは、きっと彼女も思っている。
抱擁を解いて、顔を上げた。
少し潤んだような瞳が、下から見上げてくる。
僕はそっと、唇を引き寄せた。
二人の距離が、ゼロになって_____
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