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1 小・中学校の同級生 芥川瀬奈《あくたがわせな》の話
5.小・中学校の同級生 芥川瀬奈《あくたがわせな》の話 ④
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思い出してきました。
わたし、確かに聞いたんです。
二見さん、殺してやりたいって、そう言いました。
「殺してやりたいって、乙原先生を?」
尋ねると、ちょっと間を置いて、二見さん。
こくりとうなずきました。
「殺したい。憎い。なにもかもが大嫌い」
眉ひとつ動かさず、けれども、鋭い瞳で。
一直線にわたしのことを見据えながら、そんなことを言ったんです。
「なんでそこまで乙原先生が憎いの? もしかして、なにかされたの?」
そう言った瞬間に、二見さんは、くわっと目を見開いたんです。
クセッ毛のおかっぱに、血走った眼差し。いまにも凶器を振りかざしそうでした。
わたし驚いて、後ろに誰かいるのかと思って振り向いたんです。
誰もいませんでした。
昼休みの廊下なのに、奇妙なくらい、周りに人がいなくて。
窓が開いていたんですよね。ゴウゴウって、風が強く吹き込んできて。
冬だったんですよ。
とても寒かったんです。
だからわたし、ごまかすように、
「寒っ……」
って言って、窓を閉めて、
「教室に戻ろう。寒いから」
小さな声でそう言って、振り返ったんです。
二見さんは、もう、わたしに背中を向けていました。
もしゃもしゃ髪をかきむしりながら、廊下の向こうへゆっくりと歩いていったんです。
わたし、すぐに教室に戻りました。
クラスの友達は、気ままにおしゃべりしていて。
五分くらいしたら、二見さんも戻ってきて、自分の席に着いたんです。
もう、いつもの二見さんでした。
と言っても、いつもの二見さんが既にこう、ちょっと暗い子なんで。
遠くから見ているだけじゃ、いま彼女がどういう感情なのか読めなかったんですけれど。
「よし、授業を始めるぞぉ」
昼休みが終わって、次の授業は国語でした。
例の乙原先生が入ってきて、白いソックスを見せながら、元気いっぱいに授業の開始を宣言したんです。
こっちの気も知らないで。
授業中、ずっとヒヤヒヤしながら、乙原先生と二見さんを交互に見ていました。
傍から見ていても、二見さんと乙原先生は、やっぱり、普通の生徒と教師にしか見えませんでしたけれど。
この話はこれでおしまいです。
二見さんと乙原先生がどうなったか?
特になにも起きなかったですよ。
少なくとも、わたしが知っている限りは。
わたしもすぐに、二見さんと乙原先生の話は忘れました。
なぜって、……中学生のころなんて、すぐに「殺す」とか「殺さない」とか、「好き」とか「嫌い」とか言うじゃないですか。わたしだって、「ウザい」とか「キモい」とか、そんな言葉、何回使ったか数えきれませんよ。
だから、この話だって、女子中学生によくある勘違い恋愛話であり、殺意話だと思っていたんです。
今日この瞬間まで、わたし、けろりと忘れていましたからね。
思春期なんて、そんなものじゃないかなって。
乙原先生も、いまは別の中学にいるはずですよ。
西陣中学校、だったかな?
そんな名前の学校です。
二見さんが殺された話とは、関係、……あるかなあ?
そういえば、二見さんと乙原先生、中三になったら、あまり話しているのを見なくなった気がするけれど。
でも、それもよくある話だから。
進級したら、生徒同士でも、疎遠になったりするじゃないですか。
そういうものだと思いますよ。
これで二見さんの話はおしまいです。
中学を出てからは、本当に一度も会っていないんで。
高校も別のところに行きましたからね。
中学を出たあと、二見さん、どうしたんでしょうね。
どこかの高校に入ったとは思うんですけれど、分からないですね。
同窓会も何度か開かれたんですけれど、二見さん、いつも来てくれなくて。
そうこうしているうちに、こんなことになっちゃって、ね。
残念です。
次の同窓会じゃきっと、二見さんの話で持ちきりでしょうね。
普段、中学の集まりで二見さんの話題が出ることはなかったんですけれど、今回はさすがに。
まあ、でも、本当に二見さん、みんなと繋がりなかったんで、なにを話すのかって言われても、怖いとか、気をつけようとか、そういう話しか出てこないんじゃないかと思いますけれどね。
いまだって、中学のグループラインじゃ、みんな「怖いね」「どうしてこんなことに」ってくらいしか話していませんから。だって、他にコメントしようがないですもん。
はい。
だから、うちの中学に犯人がいる可能性って、すごく低いと思いますよ。
わたし、顔が広いんで、藤崎中学のほとんどのひとと繋がりありますけれど、やりそうなひと、思いつきませんから。
本当ですよ。
他の方向から、事件を調べたほうがいいと思いますけれどね。
わたしはSNSに事件のことを載せて、ネットの皆さんの知恵でもお借りしてみます。
あはは。
犯人が分かっても教えるかどうかは、分かりませんね。
あなた、だいぶん失礼だったから。あはは。インタビューをするなら、もうちょっと、人への態度、気をつけたほうがいいですよ。相手が普通の人間だと思って、ナメた態度とってたら、いつか殺されるかもしれませんよ。二見さんみたいに。あはは。
はい。
冗談、冗談。
最後のは冗談です。
これでもう、わたしの話はおしまいです。
これ以上、二見さんについてお話しすることは、ちょっと思いつかないですね。
そろそろ子供が昼寝から起きるので。
帰ってもらっていいですか?
はい。
記事になったら教えてくださいね。
あはは。
それじゃ、よろしく……。
ん?
えっ。
あ……。
へ、ぇっ!?
(録音終了)
わたし、確かに聞いたんです。
二見さん、殺してやりたいって、そう言いました。
「殺してやりたいって、乙原先生を?」
尋ねると、ちょっと間を置いて、二見さん。
こくりとうなずきました。
「殺したい。憎い。なにもかもが大嫌い」
眉ひとつ動かさず、けれども、鋭い瞳で。
一直線にわたしのことを見据えながら、そんなことを言ったんです。
「なんでそこまで乙原先生が憎いの? もしかして、なにかされたの?」
そう言った瞬間に、二見さんは、くわっと目を見開いたんです。
クセッ毛のおかっぱに、血走った眼差し。いまにも凶器を振りかざしそうでした。
わたし驚いて、後ろに誰かいるのかと思って振り向いたんです。
誰もいませんでした。
昼休みの廊下なのに、奇妙なくらい、周りに人がいなくて。
窓が開いていたんですよね。ゴウゴウって、風が強く吹き込んできて。
冬だったんですよ。
とても寒かったんです。
だからわたし、ごまかすように、
「寒っ……」
って言って、窓を閉めて、
「教室に戻ろう。寒いから」
小さな声でそう言って、振り返ったんです。
二見さんは、もう、わたしに背中を向けていました。
もしゃもしゃ髪をかきむしりながら、廊下の向こうへゆっくりと歩いていったんです。
わたし、すぐに教室に戻りました。
クラスの友達は、気ままにおしゃべりしていて。
五分くらいしたら、二見さんも戻ってきて、自分の席に着いたんです。
もう、いつもの二見さんでした。
と言っても、いつもの二見さんが既にこう、ちょっと暗い子なんで。
遠くから見ているだけじゃ、いま彼女がどういう感情なのか読めなかったんですけれど。
「よし、授業を始めるぞぉ」
昼休みが終わって、次の授業は国語でした。
例の乙原先生が入ってきて、白いソックスを見せながら、元気いっぱいに授業の開始を宣言したんです。
こっちの気も知らないで。
授業中、ずっとヒヤヒヤしながら、乙原先生と二見さんを交互に見ていました。
傍から見ていても、二見さんと乙原先生は、やっぱり、普通の生徒と教師にしか見えませんでしたけれど。
この話はこれでおしまいです。
二見さんと乙原先生がどうなったか?
特になにも起きなかったですよ。
少なくとも、わたしが知っている限りは。
わたしもすぐに、二見さんと乙原先生の話は忘れました。
なぜって、……中学生のころなんて、すぐに「殺す」とか「殺さない」とか、「好き」とか「嫌い」とか言うじゃないですか。わたしだって、「ウザい」とか「キモい」とか、そんな言葉、何回使ったか数えきれませんよ。
だから、この話だって、女子中学生によくある勘違い恋愛話であり、殺意話だと思っていたんです。
今日この瞬間まで、わたし、けろりと忘れていましたからね。
思春期なんて、そんなものじゃないかなって。
乙原先生も、いまは別の中学にいるはずですよ。
西陣中学校、だったかな?
そんな名前の学校です。
二見さんが殺された話とは、関係、……あるかなあ?
そういえば、二見さんと乙原先生、中三になったら、あまり話しているのを見なくなった気がするけれど。
でも、それもよくある話だから。
進級したら、生徒同士でも、疎遠になったりするじゃないですか。
そういうものだと思いますよ。
これで二見さんの話はおしまいです。
中学を出てからは、本当に一度も会っていないんで。
高校も別のところに行きましたからね。
中学を出たあと、二見さん、どうしたんでしょうね。
どこかの高校に入ったとは思うんですけれど、分からないですね。
同窓会も何度か開かれたんですけれど、二見さん、いつも来てくれなくて。
そうこうしているうちに、こんなことになっちゃって、ね。
残念です。
次の同窓会じゃきっと、二見さんの話で持ちきりでしょうね。
普段、中学の集まりで二見さんの話題が出ることはなかったんですけれど、今回はさすがに。
まあ、でも、本当に二見さん、みんなと繋がりなかったんで、なにを話すのかって言われても、怖いとか、気をつけようとか、そういう話しか出てこないんじゃないかと思いますけれどね。
いまだって、中学のグループラインじゃ、みんな「怖いね」「どうしてこんなことに」ってくらいしか話していませんから。だって、他にコメントしようがないですもん。
はい。
だから、うちの中学に犯人がいる可能性って、すごく低いと思いますよ。
わたし、顔が広いんで、藤崎中学のほとんどのひとと繋がりありますけれど、やりそうなひと、思いつきませんから。
本当ですよ。
他の方向から、事件を調べたほうがいいと思いますけれどね。
わたしはSNSに事件のことを載せて、ネットの皆さんの知恵でもお借りしてみます。
あはは。
犯人が分かっても教えるかどうかは、分かりませんね。
あなた、だいぶん失礼だったから。あはは。インタビューをするなら、もうちょっと、人への態度、気をつけたほうがいいですよ。相手が普通の人間だと思って、ナメた態度とってたら、いつか殺されるかもしれませんよ。二見さんみたいに。あはは。
はい。
冗談、冗談。
最後のは冗談です。
これでもう、わたしの話はおしまいです。
これ以上、二見さんについてお話しすることは、ちょっと思いつかないですね。
そろそろ子供が昼寝から起きるので。
帰ってもらっていいですか?
はい。
記事になったら教えてくださいね。
あはは。
それじゃ、よろしく……。
ん?
えっ。
あ……。
へ、ぇっ!?
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