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2 中学校時代の恩師 乙原光昭《おとはらみつあき》の話
8.中学校時代の恩師 乙原光昭《おとはらみつあき》の話 ③
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「先生、こんなところにお住まいだったんですね。素敵なおうち! ねえ、上がっていいですか?」
僕は戦慄しました。
中学校のすぐ近くにある、オートロックもないアパートに住んでいましたからね。
押しかけようと思えば、すぐにできるところではあったんです。でもだからって、ねえ。
そういえば二見華子は、ときどき不思議な行動力を発揮する子でしたね。
学校の図書館に置いていない本を読むために、隣町の図書館まで、二時間かけて歩いていった、と話していたこともありました。
そういう行動力が、このときは悪いほうに出ていた印象です。
「二見さん。家に帰りなさい」
僕はそう言いました。
「いくら教え子でも、教師の自宅に来るもんじゃないよ」
そう言うと、二見華子は涙を流して、
「どうして、そんなことを言うんですか!? わたしは先生が大好きだから、ここまできたのに!」
わあわあと、叫びはじめたのです。
ええ、そりゃもう、大きな声で。僕の部屋の玄関前で。
女の子があまり泣き叫ぶものだから、隣の部屋のひとが出てきて、
「どうしたんですか?」
なんて尋ねる始末です。
僕は、なんでもないです、と言ってその場をごまかしたのですが……。
このままでは困りますからね。仕方なく二見華子を、中学校の校門前まで送っていきました。そして、
「先生を慕ってくれるのは嬉しいけれど、こういうことはしないでくれ。勉強の質問や相談があったら、学校で受けるから」
そう言って、逃げるように走り去ったのです。
無責任ですか? ええ、そうかもしれない。
けれども、女子生徒に自宅まで来られるなんて、僕も初めての経験でしてね。
どうしたものか、本当に困っていたのですよ。
それからですか?
ええ、僕としては、彼女には、なにか問題があるのじゃないかと思ったわけですね。
思春期の女の子が、大幅に年上の男まで好意をもつとき、たいていは家庭にトラブルが起きているときなのですよ。
だから僕は、二見華子のことを調べてみました。
すると、二見華子は母子家庭で、母親はパート。
それもパートを掛け持ちしているばかりに、自宅にほとんどいないということが分かったのです。
僕は一度、二見華子のお母さんと話をするべきだと感じました。
そこでちゃんとアポを取って、二見華子のアパートまで向かって、お母さんと対面したのですね。
そのときの印象ですか?
ええ、西日が射し込んでくるアパートの一室で、二見華子とお母さんが並んで、座っていました。
座布団も敷かずに、焼けた畳の上にふたりして正座している景色が、申し訳ないのですが、ちょっと怖くてね。
部屋の外で、カラスが鳴いていました。
その鳴き声が、いまでも耳に残っています。
「どうも、ごめんなさい。うちの馬鹿な娘が、先生にとんだご迷惑をおかけしたようで」
細身のお母さんが、平謝りでしたね。
五十代半ばくらいだったかな。ちょっと年が離れた親子だな、と思いました。
「本当にもうこの子は、ませていて。変なところだけ父親にそっくりで」
「お母さん。僕は華子さんを責めにきたわけじゃありません。ただ、華子さんになにか辛いことがあるのなら、それを共有して、悩みを解決してあげたいと思ってやってきたのです」
「まあ、本当にいい先生。ありがとうございます、ありがとうございます。ですが、うちはうちなりに、うまくやっているつもりでして。華子、なにか言いたいことがあるのなら、ちゃんとそれを言いなさい。口に出さなければ、伝わりませんよ」
お母さんがそう言うと、二見華子は嗚咽を漏らし始めました。
肩をゆさぶって、何度も何度も、涙を手の甲でぬぐいながら、
「お母さんが仕事で忙しくて、構ってもらえなくて寂しかった。だから先生のところに行こうと思ったの。心配をかけてごめんね、お母さん。……けれど、先生のことが好きなのは嘘じゃないよ。わたし、本当に乙原先生が大好き」
「この子は!」
お母さんがまた叱ろうとするので、僕は「お母さん!」と止めて、
「いいんですよ。気持ちに嘘はつけませんからね。……二見さん。僕は教師だし、年も離れているから恋愛はできないけれど、いつでも君の味方だ。相談ならどんなときだって乗るからね」
「いいんでしょうか。そんなことをして、乙原先生にこれ以上、ご迷惑をおかけしては」
お母さんは、申し訳なさそうにそう言いましたが、僕は笑って、
「大丈夫ですよ! 生徒のためじゃないですか。それに僕は、型破りな教師ですからね!」
そう言うと、お母さんも二見華子も、思わず噴き出したものです。
笑ってくれたらしめたものです。
僕も思い切り笑いましたよ。
これ以降、僕と二見華子の間は、良い意味で一定の距離が置かれました。
二見華子は、授業のことや進路のことなら、僕によく相談をするようになりました。
相変わらず、小説の話なんかもよくやりましたよ。
けれども、もう恋愛に発展することはありませんでした。
彼女が僕の家に来ることはもうなかったし、告白してくることもありませんでした。
中学生は切り替えが早いですからね。僕への恋心なんてすぐに忘れてしまったのでしょう。
僕は今回のことを、うまく校長先生や教頭先生、学年主任の先生たちに話しておきました。
こういうトラブルが起きたけれども、もう解決済みである、と。
校長たちは、僕が一人で二見華子の家に向かったことを軽率だと叱りましたが、それでも、最後は事態をうまく解決できたことをヨシとしたのです。
やがて一年が経ち、二見華子は卒業していきました。
地元から少し離れた、そう、電車で二十分くらいかかるところにある光京女子学園に進学したのじゃなかったかな。
光京女子はけっこう偏差値の高い高校ですよ。
彼女、国語が得意でしたけれど、他の科目もなかなかできましたからね。
卒業してからは、二見華子と会うこともなくなりました。
ええ、一度も会っていません。
これは学校ならよくあることですよ。
在校中はどれほど仲が良くても、卒業してしまえばそれっきり。
教師と生徒なんてそんなものです。
生徒同士だって、そうじゃありませんか?
僕だって、学生時代の友達とは卒業以来会っていないのがほとんどですからね。
以上が、僕と二見華子の関係です。
大した話ではなくて、がっかりしましたか?
いやいや、ははは。これでも、二見華子のトラブルを解決したつもりなのですけれどね。
新聞に載るほど派手じゃないけれど、生徒の小さなトラブルを解決していく教師。
僕はそんな自分に誇りを持っているのです。
本当ですよ?
だから、今回の事件には本当にびっくりしたのです。
まさかあの二見華子が殺されるなんて。
それも、卒業アルバムの写真が画鋲で身体に打ちつけられている、なんて。
怖いですよ、そりゃあ。
もしかして、あの中学校の教師か生徒に。
つまり僕の知り合いの中に、二見華子を殺した犯人が、いるかもしれない。
そう考えると、純粋に怖いです。
いかに型破りな僕でも、これは解決できませんからね。
警察には全力を出してもらって、事件を解決してもらうしかないです。
……はい?
芥川瀬奈。
旧姓で秋吉瀬奈、ですか?
誰ですか、それ?
藤崎中学校にいた女子生徒で、二見華子の同級生。
さて、そんな子いたかな。
ええと。
ちょっと待って……。
(録音終了)
僕は戦慄しました。
中学校のすぐ近くにある、オートロックもないアパートに住んでいましたからね。
押しかけようと思えば、すぐにできるところではあったんです。でもだからって、ねえ。
そういえば二見華子は、ときどき不思議な行動力を発揮する子でしたね。
学校の図書館に置いていない本を読むために、隣町の図書館まで、二時間かけて歩いていった、と話していたこともありました。
そういう行動力が、このときは悪いほうに出ていた印象です。
「二見さん。家に帰りなさい」
僕はそう言いました。
「いくら教え子でも、教師の自宅に来るもんじゃないよ」
そう言うと、二見華子は涙を流して、
「どうして、そんなことを言うんですか!? わたしは先生が大好きだから、ここまできたのに!」
わあわあと、叫びはじめたのです。
ええ、そりゃもう、大きな声で。僕の部屋の玄関前で。
女の子があまり泣き叫ぶものだから、隣の部屋のひとが出てきて、
「どうしたんですか?」
なんて尋ねる始末です。
僕は、なんでもないです、と言ってその場をごまかしたのですが……。
このままでは困りますからね。仕方なく二見華子を、中学校の校門前まで送っていきました。そして、
「先生を慕ってくれるのは嬉しいけれど、こういうことはしないでくれ。勉強の質問や相談があったら、学校で受けるから」
そう言って、逃げるように走り去ったのです。
無責任ですか? ええ、そうかもしれない。
けれども、女子生徒に自宅まで来られるなんて、僕も初めての経験でしてね。
どうしたものか、本当に困っていたのですよ。
それからですか?
ええ、僕としては、彼女には、なにか問題があるのじゃないかと思ったわけですね。
思春期の女の子が、大幅に年上の男まで好意をもつとき、たいていは家庭にトラブルが起きているときなのですよ。
だから僕は、二見華子のことを調べてみました。
すると、二見華子は母子家庭で、母親はパート。
それもパートを掛け持ちしているばかりに、自宅にほとんどいないということが分かったのです。
僕は一度、二見華子のお母さんと話をするべきだと感じました。
そこでちゃんとアポを取って、二見華子のアパートまで向かって、お母さんと対面したのですね。
そのときの印象ですか?
ええ、西日が射し込んでくるアパートの一室で、二見華子とお母さんが並んで、座っていました。
座布団も敷かずに、焼けた畳の上にふたりして正座している景色が、申し訳ないのですが、ちょっと怖くてね。
部屋の外で、カラスが鳴いていました。
その鳴き声が、いまでも耳に残っています。
「どうも、ごめんなさい。うちの馬鹿な娘が、先生にとんだご迷惑をおかけしたようで」
細身のお母さんが、平謝りでしたね。
五十代半ばくらいだったかな。ちょっと年が離れた親子だな、と思いました。
「本当にもうこの子は、ませていて。変なところだけ父親にそっくりで」
「お母さん。僕は華子さんを責めにきたわけじゃありません。ただ、華子さんになにか辛いことがあるのなら、それを共有して、悩みを解決してあげたいと思ってやってきたのです」
「まあ、本当にいい先生。ありがとうございます、ありがとうございます。ですが、うちはうちなりに、うまくやっているつもりでして。華子、なにか言いたいことがあるのなら、ちゃんとそれを言いなさい。口に出さなければ、伝わりませんよ」
お母さんがそう言うと、二見華子は嗚咽を漏らし始めました。
肩をゆさぶって、何度も何度も、涙を手の甲でぬぐいながら、
「お母さんが仕事で忙しくて、構ってもらえなくて寂しかった。だから先生のところに行こうと思ったの。心配をかけてごめんね、お母さん。……けれど、先生のことが好きなのは嘘じゃないよ。わたし、本当に乙原先生が大好き」
「この子は!」
お母さんがまた叱ろうとするので、僕は「お母さん!」と止めて、
「いいんですよ。気持ちに嘘はつけませんからね。……二見さん。僕は教師だし、年も離れているから恋愛はできないけれど、いつでも君の味方だ。相談ならどんなときだって乗るからね」
「いいんでしょうか。そんなことをして、乙原先生にこれ以上、ご迷惑をおかけしては」
お母さんは、申し訳なさそうにそう言いましたが、僕は笑って、
「大丈夫ですよ! 生徒のためじゃないですか。それに僕は、型破りな教師ですからね!」
そう言うと、お母さんも二見華子も、思わず噴き出したものです。
笑ってくれたらしめたものです。
僕も思い切り笑いましたよ。
これ以降、僕と二見華子の間は、良い意味で一定の距離が置かれました。
二見華子は、授業のことや進路のことなら、僕によく相談をするようになりました。
相変わらず、小説の話なんかもよくやりましたよ。
けれども、もう恋愛に発展することはありませんでした。
彼女が僕の家に来ることはもうなかったし、告白してくることもありませんでした。
中学生は切り替えが早いですからね。僕への恋心なんてすぐに忘れてしまったのでしょう。
僕は今回のことを、うまく校長先生や教頭先生、学年主任の先生たちに話しておきました。
こういうトラブルが起きたけれども、もう解決済みである、と。
校長たちは、僕が一人で二見華子の家に向かったことを軽率だと叱りましたが、それでも、最後は事態をうまく解決できたことをヨシとしたのです。
やがて一年が経ち、二見華子は卒業していきました。
地元から少し離れた、そう、電車で二十分くらいかかるところにある光京女子学園に進学したのじゃなかったかな。
光京女子はけっこう偏差値の高い高校ですよ。
彼女、国語が得意でしたけれど、他の科目もなかなかできましたからね。
卒業してからは、二見華子と会うこともなくなりました。
ええ、一度も会っていません。
これは学校ならよくあることですよ。
在校中はどれほど仲が良くても、卒業してしまえばそれっきり。
教師と生徒なんてそんなものです。
生徒同士だって、そうじゃありませんか?
僕だって、学生時代の友達とは卒業以来会っていないのがほとんどですからね。
以上が、僕と二見華子の関係です。
大した話ではなくて、がっかりしましたか?
いやいや、ははは。これでも、二見華子のトラブルを解決したつもりなのですけれどね。
新聞に載るほど派手じゃないけれど、生徒の小さなトラブルを解決していく教師。
僕はそんな自分に誇りを持っているのです。
本当ですよ?
だから、今回の事件には本当にびっくりしたのです。
まさかあの二見華子が殺されるなんて。
それも、卒業アルバムの写真が画鋲で身体に打ちつけられている、なんて。
怖いですよ、そりゃあ。
もしかして、あの中学校の教師か生徒に。
つまり僕の知り合いの中に、二見華子を殺した犯人が、いるかもしれない。
そう考えると、純粋に怖いです。
いかに型破りな僕でも、これは解決できませんからね。
警察には全力を出してもらって、事件を解決してもらうしかないです。
……はい?
芥川瀬奈。
旧姓で秋吉瀬奈、ですか?
誰ですか、それ?
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ええと。
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