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しおりを挟む■都内某所 征一郎宅 リビング
ちびは帰宅してからも、スーパーボールを転がしてみたり、照明に透かしてみたりしている。
「お前よっぽどスーパーボール気に入ったんだな」
「うん……掬ってみたはいいけどその後の用途のわからないところとかが」
「こういうもんに実用性を求めんなよ…」
一体どういう気に入り方なのか。
屋台で買えるものは、概ね祭りの終わりと同時に有効期限が切れるものだ。
不思議なことに、祭りのときと同じ熱量では思えない。
「でも何で『スーパー』なんだろ」
問われて、考えてみたが、過去に誰かに聞いた覚えはなかった。
そもそも、征一郎はその名称に違和感を持ったことすらない。
「考えたこともねーな…よく跳ねるからか?」
「…跳ねる?」
「床にたたきつけてみろよ」
ちびは不思議そうにしながらも、征一郎の言葉通りにする。
それは、コーン、と小気味いい音をさせて、ちびの背よりも高くバウンドした。
「…………!」
ちびはそれを見てまた目をキラキラとさせている。
…そんなに喜ばれれば、彼(?)もスーパーボール冥利に尽きているだろう。
内心苦笑しながら、征一郎はよかったなと頭を撫でてやったのだった。
■都内某所 征一郎宅 寝室
征一郎が寝室に入ると、ちびは既にベッドにいた。だが横にはならず、膝を抱えてぼんやりしている。
「どうした、寝ないのか?」
ギシ、と音をたてて乗り上げると、ようやく気付いたかのように征一郎を見た。
緩慢な動作に微かな違和感を覚える。
慣れない外出で疲れさせてしまっただろうか。
「えっと……今日楽しかったから寝ちゃうのもったいないなって……」
「甘いもん食ってぶらぶらしただけのような気もするが…お前が楽しめたならよかったぜ」
征一郎にとっても、いい休日だったといえる。
一日組事務所に行かない日など、組を立ち上げてから初めてではないだろうか。
果たして自分に穏やかな休日を過ごす権利があるのかどうかはわからないが、この少年を楽しませるためならば、お天道様も許してくださるだろう。
一日を反芻するようにちびが微笑む。
「うん……このパジャマもカフェもスーパーボールも嬉しかったんだけどね、征一郎とずっと一緒にいられたのが一番嬉しかった。いっぱい遊んでくれてありがとう、征一郎」
ちびは素直だ。
そして、誠実だ。
征一郎の身の回りには、こんなにきれいなものはおいそれと転がってはいない。
健気さが涙腺にくるよりも、守ってやりたいと思ってしまったのは、仕様だとかいう男を惹き付けるという体質のせいなのか、それとも……。
「あー…また、時間があれば遊んでやるよ」
「うん…!」
なんとなく伸ばし損ねた手をもてあまして頭を掻いた。
まだ、ちびがやってきて日も浅い。
征一郎は、そう性急に結論を出すこともないかと、形にならなかった衝動を黙殺した。
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