けなげなホムンクルスは優しい極道に愛されたい

イワキヒロチカ

文字の大きさ
26 / 104

27

しおりを挟む

■都内某所 征一郎宅 ダイニング 

「ごちそうさまでした」

 その日、ちびはほとんど箸を付けずに夕食を終えた。
 早いな、と思って皿を見ると、己で取り分けたぶんすら食べきれていない。
「何だ、ほとんど食ってねえじゃねえか」
「あ……今日はおやつ食べすぎちゃって。よかったら征一郎食べて」
「お?おお」
 ちびは椅子を降りて、さっさと自分の分の食器を片付けてしまう。
 常とは違う姿に微かな違和感を感じたが、確かにずっと部屋の中にいるのだから、それほど腹も空かないかもしれねえなと、征一郎はそれ以上つっこまず、有難く多めの夕食をいただいた。

 しかし異変は続いた。

「風呂入るか?」
 食事と片付けを終えて、声をかけると、ちびは頭を振った。
「さっき入ったから大丈夫」
 湧いてるからどうぞ、と言われて、首を傾げる。
 そんな反応は初めてだ。
 ただ、……まあ、そういうタイミングの日もあるだろうと、何か少し物足りない気持ちで湯船に浸かった。

 更に。

「そろそろ寝るぞ」

「えっと……おれ今日ソファで寝るから」

 これには流石に征一郎も衝撃を受けた。
「そ…うか?」
「うん。おやすみなさい」
 ちびはブランケットを一枚かぶってさっさと寝てしまう。
 征一郎は、謎のショックを受け、ベッドを譲って自分がソファに寝るという選択肢を考える余裕もなく、トボトボ寝室へと移動した。


■都内某所 征一郎宅 寝室

 衝撃を受けたが、何故、と問うことはできなかった。

『おれ今日ソファで寝るから』

 いつもよりも堅いちびの声が脳内に木霊する。

 ……避けられている。

 違和感が具体的な懸念になり、征一郎はベッドの中で一人、激しく動揺した。
「(な 何かしたのか俺?あるいは反抗期!?思春期!?お年頃ー!?)」
 洗濯物を分けて洗ったりするアレだろうか。
 汚物扱いは男嫌いな妹がいるので慣れているが、ちびの場合今までとの落差が大きすぎて正直ダメージが大きい。
 いや、だが、ちびが最近芳秀に作られたというのならば、成長過程で反抗期がある可能性もあるのだろうか。
 それとも何か地雷を踏んだのか。だとしたらやらかしてしまった己の罪を思いつかないあたり、罵られても蔑まれても何の言い訳もできない…。





 翌早朝。
 鳥の囀りも聞こえてきそうなキラキラした日差しが、カーテンの隙間より差し込んでいる。

「(…………眠れなかった……)」

 ありとあらゆる悪い想像に苛まれ一睡もできず、こんなにもさわやかな朝だというのに、征一郎はどんよりと重い頭を起こした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

処理中です...