けなげなホムンクルスは優しい極道に愛されたい

イワキヒロチカ

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 凌真の足音が遠ざかっていくと、お行儀よく隣に座っていたちびは、すぐにぴたりとくっついてきた。
 その小さな体を膝の上に転がしながら、やわらかい髪を撫でてやる。
「疲れたか?」
「ん……大丈夫。征一郎が無事でよかった……って」
「心配かけたな」
「でも、征一郎、戦ってる時ちょっと楽しそうだったね」
「そうか?……そうだな、そもそもいつもは全力で体動かすこともしねえからな。思いっきり拳を振るえるってのは貴重な体験だった」
「かっこよかった」
「かっこよくはなかっただろ。真ッ裸寸前のぬるぬるまみれで」
「でも、なんかキラキラしてたよ」

 てかてかしてたのではないかと言おうとしてやめた。
 かっこいい、などあまり言われることのない貴重な褒め言葉だ。
 対戦相手が対戦相手だけに複雑なものはあるが、そう思っていてくれているのならば、わざわざ打ち消すこともないだろう。
 ありがとな、と頭を撫でる。
 ちびは嬉しそうに目を細めた。

「ねえ征一郎、帰ったら……お風呂入る?」
 ふと、ちびは何かいいことを思いついたというように目を輝かせた。
「どうすっかな……さっきシャワー浴びたからな」
 月華ならば一日に何回も入浴しそうだが、征一郎は一日一回で十分だと思っている。
 何も考えずに否定的に返すと、ちびは残念そうな顔をした。
「そっか……お疲れの征一郎にマットプレイしたかったけど……」
「いや、俺は何のサービスをされそうになってたんだ」

 さっきもぬるぬる相撲だとか言っていたが、もしや太郎に対抗しているのだろうか。

「征一郎はローションプレイは好きじゃない?」
「好きか嫌いかすら考えたこともねえが……まあ、お前がやりたいなら断るほど嫌とかではねえ」
「ほんと?おれ、いっぱいサービスするね!」
「お、おう……」
 なんだかちょっと先行きが不安になってきた。

 猫のように膝の上でゴロゴロと懐いていたちびだが、台所から聞こえてくる料理の音が気になったらしい。
「おれ、久住さんを手伝った方がいいかな」
「いい。ここにいろ」
 必要ないと、起き上がりかけたのをもう一度寝かせる。
 凌真が出て行ったのは、善意で食事を振る舞ってくれようとしているのも嘘ではないだろうが、征一郎に覚悟を決める時間を与えたのだ。

 征一郎の前にある選択肢は現在二つ。
 腹を括ってファンタジー側に行くか、現実から目を逸らして問題を先延ばしにするか。
 当然だが後者はない。
 ただ、今まで目を逸らしていたことを全て受け入れるというのは、エネルギーのいる作業だ。
 今まで通りの生き方のまま、ちびの体調を整える術のみ身につけることはできないだろうかと怠惰なことを考えてしまう。

「お前の『食事』のことはもう少し考えねえといけないな」
「えっ、おれ、今のままで大丈夫だよ」
 驚いて起き上がったちびは目を丸くしているが、征一郎は難しい顔で首を振った。
「凌真さんの『気を整える』ってのが俺にもできるようになるまでは、供給量で調節するほかないだろ」
「でも……………、」
 ちびは何か反論しかけたが、そのまま俯いた。
 思った以上にしゅんとしてしまったので、焦る。
「ま、まあ、中で出すのを少し控えるかってくらいしか思い付かねえし、俺もお前とエロいことはしたいから、そこんとこはその時の雰囲気だな」
「本番なしのお店だけど、素股の最中にうっかりするっと入っちゃったのはノーカンみたいな……?」

 お前は少し性風俗から離れろ。
 あと、それは基本的にアウトな案件だからな。
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