【加筆修正版】青空の下で笑う君と

イワキヒロチカ

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やはり憧れで構わないから5

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「(え……、どう……して……?)」

 何故、鷹艶がここにいるのだろう。
 偶然? 例えば鷹艶もこのマンションに住んでいるとか? あるいは今日話していたアルバイトの関係で月瀬とは以前からの知り合いとか?
 ……仮にそうだったとして、偶然真稀と同じ大学へ編入し、偶然真稀と知り合うのは、あまりにも話ができすぎている気がする。
 なにより、鷹艶の楽しそうな様子と、月瀬はほぼ後ろを向いているので表情はわからないが、それでも雰囲気からしてかなり親しい間柄のように見えることが、真稀を混乱させていた。

 月瀬と鷹艶どちらとも、自然な出会い方をしたとは言い難い。
 彼らに悪意があるとは思えない(思いたくない)けれど、埋まらないピースが多すぎて、不安が膨らむ。
 自分は何か、大事なことを見落としているのではないか。
 緊張に息が浅くなり、鼓動の音がやけに大きく聞こえる。

 ふらつくようにして一歩後ずさると、鷹艶と目が合ってしまった。
 真稀は反射的に回れ右をして、反対方向に歩き出す。
 どうして逃げ出してしまったのか、自分でもわからなかった。
 ただ、今は何を言われても真っ直ぐに受け止められない気がして。
 鷹艶は、何かを言いかけていたように見えた。
 彼は、一体、何を


「真稀ッ!」


 月瀬の鋭い声が思いの外近くで聞こえたのと、ドンッ、と鈍く大きい音が轟いたのはほぼ同時だった。
「(っ何、……!?)」
 強く腕を引かれ、倒れこむとまた近くで音がして、至近のアスファルトに穴が空いた。
 硬い地面に倒れ込んだ衝撃に身がすくみ、落とした買い物袋から食材が散らばる。
 鼓膜を震わす大きい音に耳がきんとして、眼前の月瀬を呆然と見上げていた。
 全てが唐突すぎて、思考が麻痺している。

「鷹艶!まだか!」

 頭上の月瀬が焦れたように吠えると、すぐに少し離れた場所から「とったど~」という気の抜けた声が聞こえてきた。
 ズルズルと何かを引きずる音が近づいてくる。
 月瀬は一つ息を吐くと起き上がり、真稀のことも助け起こした。
「ったく、襲撃すんならもう少し時と場所を考えろっつーのよ、なあ?」
 鷹艶は面倒臭そうにぼやくと、どさ、と引きずってきたものを放り出す。

 それは、ファンタジー世界の魔法使いのような黒いローブを纏った男だった。
 完全に意識を失っているようで、ぐったりと横たわっている。

 月瀬は冷たく一瞥しただけで、この現代社会において異質すぎる男の風体に驚いた様子もない。
 男から真稀を遠ざけるように一歩前に出ると、鋭い視線で周囲を見渡し、鷹艶に確認した。
「目撃者が増えると厄介だ。回収班はまだ時間がかかりそうか?」
「多分すぐ来るからちょい待ち。一応認識されないように隠形ってるけど、俺そういうの苦手だから尻尾出てるかもなー」
 呑気な言葉に忌々しげにため息をついてから、月瀬はただただ立ち尽くしている真稀の方へ向き直り、ダッフルコートの汚れを丁寧に払ってくれる。
「大丈夫か真稀、怪我はないか?」
「あ、はい。だ、大丈夫です」
「ごめんな、びっくりしただろ」
 ひょいと月瀬の後ろから鷹艶が申し訳なさそうに謝罪してくるが、どういう反応をしたらいいのかわからない。
 曖昧な反応を返すことしかできない真稀を見て、鷹艶は心配そうに眉を寄せた。
「……だからこうなる前に話しとこうって言ったんだよ。一足遅かったけど」
「過ぎたことを言っても仕方がないだろう」
「あの……今のは……」
 真稀が説明を求めると、月瀬はそうだなと頷く。
「ここで話すわけにもいかないから、家の中に入るか。鷹艶、後のことは頼んだぞ」
「アイヨー。今度はちゃんと話しとけよ、つっきー」
 鷹艶は月瀬にぐいと拳を押し付けてから、今度は真稀へと視線を向けた。
 どんな表情をしていいかわからない真稀だったが、覗き込む瞳の真剣さに気圧されて、黙って見つめ返す。

「真稀、俺がお前に言ったことは全部本気で本当だから。何かあったら、思い出して」

 鷹艶が、自分に言ったこと?
 言葉の意味を考える前に、鷹艶はいつもの笑顔に戻り、軽い調子で「あっ、荷物は拾っとくからご安心を!」と己の薄い胸を叩いた。


 せっせと野菜を拾い集める鷹艶を路上に残し、二人で月瀬の部屋へと戻った。
 リビングに入ると、ソファに掛けるよう促されて素直に腰を下ろす。
 ウォールナットのテーブルを挟んで向かい側に座った月瀬は、ネクタイを緩めるとまず頭を下げた。
「危険に晒してしまってすまなかった。……色々なことを、黙っていたことも」
 突然の謝罪に、真稀は慌てる。
「そ、そんな謝らないでください……!」
 何が何だかわからないが、危ないところを助けてもらったのは事実だ。

 結局、先程のあれは一体何だったのか。
 そして、鷹艶と月瀬の関係は……。
 聞くのが怖い。けれど、なかったことにできるほど図太くもない。

「あの……、事情を、聞かせてもらえたら嬉しいです」
 全てを聞く覚悟が出来ているとは言い難かったが、真稀は月瀬に改めて説明を求める。
 月瀬はわかっているというように頷き、話し始めた。
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