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しおりを挟む想定外すぎる人物の登場に万里は我が目を疑ったが、どこからどう見ても久世である。
「く」
「やっぱり来てくれたんだね!久世君!」
名を呼ぼうとしたタイミングで、目を輝かせた父が歓喜の声をあげた。
そして久世も、父の方を見て、ふっと爽やかに微笑んだ。
「鈴鹿さん、すみません。助けに来たつもりが、掴まってしまいました」
えぇ…?
どういうやり取りなのか。
父にも、久世にも、『何なんだお前ら』とジト目を送ってしまった。
よく見ると久世は先程の万里のように、襟首をつかまれ背後からナイフを突きつけられている。
大竹も同じ気持ちだった…かどうかは定かではないが、訝しげな表情で久世と向かい合った。
「久世、昴……。まさか、自ら乗り込んでくるとは」
「大竹さん、鈴鹿商店の再建はまだ途中なんだ。その人を攫って行かれちゃ困るな」
「何故、お前ほどの男があんな小さな会社に固執する?それとも、会社ではなくこの男か?」
「えっ……そんな……久世君が僕のことを……?」
蓑虫(父)が『ドキン……(ハートマーク)』という効果音が聞こえてきそうな表情で頬を染めている。
ちょっと待て、と万里が内心慌てると、近くから下品な笑い声が上がった。
「何だ、まさか本当にデキてるのかあんたら?ゴシップ好きなブン屋に教えてやれば喜びそうなネタだな」
万里を押さえつけている煙草の男の下世話な発想を馬鹿馬鹿しく思ったものの、久世は特に否定をしない上、父も不可解なことに満更でもなさそうな様子なので、段々不安になってくる。
父は脳はアレだが、年の割には若く見える童顔で、背はすっと高く、容姿は悪くない。
ただ脳は本当にアレだ。頭に馬とか阿とかつくアレだ。
いや、だがむしろ、久世は育っていくものを見るのが好きだと言っていたではないか。
父はさぞかし育て甲斐があるだろう。(伸びしろがあるのかどうかは、甚だ疑問だが)
久世との年の差は二十くらいはあるのではないかと思われるが、そういうカップルもいる。
二人は、父の会社の倒産の件で知り合ったのだろうか。
唐突な登場も、万里を助けに来たにしてはタイミング的に早すぎるような気がするし、久世が父を助けに来たのは間違いなさそうだ。
なんだか辻褄が合ってきてしまって、万里は暗澹たる気分になってくる。
何か言ってほしくて久世を仰ぎ見たが、彼は先程からこちらを一瞥だにしない。
万里を取り残したまま、大竹と久世の会話は続く。
「あんな時代遅れの商売をしている会社を再建してどうする。それよりも売り飛ばして金にするべきだ。それが、お前のお家芸だろう。死肉喰らいのハゲタカが」
「死肉喰らいには死肉喰らいなりの、仕事へのこだわりってものがある。大竹さん、あんたは金か。二十年勤めた会社を、随分悪しざまに言うじゃないか」
「だって馬鹿馬鹿しいだろう?無能な上司の尻拭いをしながら必死で稼いだ小銭を、パチンコ屋にでも行くような気軽さで市場に流したりされるんだ」
「何か勘違いしているようだが、鈴鹿さんが投機に使った一億は、会社の金じゃない。それ以上の金を使い込んでいたのは、あんたじゃないのか?」
久世の一言で、大竹の顔色が変わった。
「どうしてそれを……、いや、くだらない推測で人を貶めるな」
「帳簿はないが、こっちにはCIA並みの情報網があるんでね」
「っ…………黒神会か」
「大竹……」
悲しげな父の声が、万里の耳に届いた。
つまり大竹もまた、会社の金を横領していたということか。
「おい、随分威勢がいいが、自分の立場を忘れちゃいねえか?」
万里を拘束する男の一言で、久世の言葉に追いつめられたようになっていた大竹も、自分の方が優位に立っているということを思い出したようだ。
一つ頷くと、冷静な表情に戻った。
「続きをしようじゃねえか。なあ、かわいい息子くん?」
そうだった自分は下半身を露出したままだった……!
…もとい、拷問をされそうになっていたのだったと思い出して再び血の気が下がった。
こんなところを見られるのも嫌だし、根性焼きなんて絶対にされたくない。
抜け目のなさそうな久世が、本当に無策でのこのこやってきたのかと、八つ当たりとわかっていながらも非難の眼差しを向けると。
何故か久世は、微かに口角を上げた。
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