いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

文字の大きさ
67 / 120

67

しおりを挟む

 後で色々考えてしまいそうなので久世の女性遍歴など聞きたくはないと思いながらも、好奇心という意味で興味はある。
 このモテしかなさそうな男がふられたというのは何なのか。
 話の続きを期待してつい前のめりになっていたが、鹿島の「まあまあ」というのんびりした声に水を差された。
「オーナー、色々握れてテンション上がってるのわかりますけど、武士の情けってやつで一つ」
 神導はにんまりと口角を上げた。綺麗な笑顔だが、明らかに悪役だ。
「えー、どうしようかなー。僕さー、ちょっと今赤坂のお店で欲しいとこあってー」
「だから、赤坂は利権が面倒だからやめとけって言っただろ」
「そこをなんとかするのが昴の仕事でしょ。こっちには人質がいるからね」
 人質、のところで細い指が万里の肩にかかり、久世は天を仰いだ。

 なんと自分は人質だったのか。
 万里のせいで久世が難しい仕事を押し付けられそうになっている……。
 自分に人質としての価値があるのかと思えば少しいい気分だ、などと言ったら後で意地悪をされそうなので黙っておこう。

「ま、これでも一応根は一途だから、投げ出さずに付き合ってやって」

 突然耳元で囁かれてぱっと神導を見ると、今度は邪気のない顔でにっこりされる。
 あの時の『昴をよろしくね』はそういう意味だったのかと、今気付いた。


 それからすぐに開店時間になり、万里は開店前のミーティングが終わると、その間フロアの客席の一つを陣取っていた久世の隣に移動した。
 既に手元にはウィスキーグラス。テーブルの上にはテキーラの瓶、そしてライムと塩。
 ……すっかりくつろいでいらっしゃる。
 テキーラをショットで……なんて、万里だったら一杯飲み切れるかどうかも怪しい。
 過去に酔わせようと画策したこともあったが、この男は想定を上回るザルだったようだ。

「飲んだくれ」

 失礼しますの一言もなしに隣に座ってやったが、久世は楽しそうに目を細めるばかり。
「バンビちゃんも飲むか?炭酸で割るのもイケるぞ」
「じゃあ……すごく薄めにして飲む……」
 ボーイにオーダーするとすぐに炭酸水が運ばれてくる。
 炭酸で割ってもらったテキーラは、ハイボールに似ていて初心者の万里にも飲みやすかった。
 久世は酒なら何でも好きなようで、色々な飲み方もよく知っている。

「結局あんたがふられた話聞けなかった……」
 アルコールの入った勢いで先程の話を蒸し返せば、久世は少し呆れた顔でグラスを呷った。
「そんな話聞きたいのか?悪趣味だな」
「俺はいつもかっこ悪いとこばっかり見られてるんだから、たまにはあんたがやらかした話を聞きたくてもいいだろ」
「別にバンビちゃんはかっこ悪くないだろ。かわいいだけだ」
「それがかっこいいに代わる褒め言葉なのかどうかが判断できない……」
 というか、明らかに褒め言葉ではない。

「あと、オーナーはやっぱり俺の知らないあんたのことをたくさん知ってて羨ましいなって」
「あれは俺たちで遊んでるだけだ。月華が喜ぶから、あまり乗ってやるなよ」
 そういう互いのことを理解している感が羨ましいのに。
 神導と久世の間に恋愛感情がないのは理解しているが、それとこれとは少し違う。
 言っても詮無いと知りつつ、ついしゅんとしていると、久世は仕方がないなと溜息をついた。

「別に月華が言ったとおりだ。過去に何度か、温度差が気になるみたいなことを言われて恋人だった奴に逃げられたことがある」

 万里には、元恋人たちの気持ちもわかるような気がした。
 実際に一度逃げているし……。
「よくわかる、みたいな顔するなよ。お前のことはちゃんと迎えに行っただろ」
「迎えというか連行というか……前の恋人にはしなかったの?」
「自分なりには大切にしてたつもりだったからなあ……そこを直せって言われても、そんな一から自分を見つめなおすようなことをするより他に気の合う奴を見つける方が早そうだと思ったし、あと仕事も忙しかったし……」

 それが温度差ー!
 何か、自分含め久世の歴代彼女(彼氏もいたのだろうか…)がかわいそうになってきた。

「もっと恋愛に真剣味を!」
「だから、バンビちゃんのことは迎えに行っただろ(二回目)」
「……俺も温度差は毎日気になるんですけど」
「お前は俺相手に毎日ちゃんと文句を言ってくれるからな。安心してる」
「文句を言われないようにしようとか何かないんですかね」
「文句を言ってくるお前が好きなんだ」
「バッ……」

 叫びそうになって口を押えた。
 こんなところで好きとか言うなとかあと本当にこの男は腹が立つ!
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。 ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。 秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。 戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。 ●八架 深都(はちか みと) 20歳、大学2年生 好奇心旺盛な性格 ●秋木 晴士(あきぎ せいじ) 26歳、小説家 重度の不眠症らしいが……? ※性的描写が含まれます 完結いたしました!

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...