いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

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 人生って何があるかわからないものだなと、しみじみと思う。
 数ヵ月前までは、大変なこともない代わりに特筆すべきこともない毎日が、ずっと続いていくのだと思っていたのに。
 何となく日々を過ごして、ほどほどの会社に就職して、できればかわいい子と恋愛して……等々。
 父の会社の倒産騒動で、まさかこんなにまでも特筆すべきことしかない毎日に変わってしまうとは。
 ほどほど、などという言葉とは縁遠い若干ダークサイドの香り漂う超高級クラブでアルバイトをして、かわいい予定の彼女は意地の悪い色男になってしまった。
 これがいいことなのか……ちょっと今は判別がつかない。
 でも、毎日が充実していて楽しい、と思えるのはきっといいことだ。
 ずっと、この気持ちを忘れずにいたい。


 久世はあれから二時間ほど居座った後、『後でな』と言って帰っていった。
 『終わったらうち来い』の意だ。
 そう言われたら遠慮なくお邪魔してしまうが、久世は仕事や自分の時間をとれているのだろうか。
 少し気になるが、あの男のことなので、万里より優先すべき事項があれば恋人など適当に言い包めて放置しそうな気がする。
 腹は立つが、万里としてもあまり気遣ってくれる相手だと窮屈なような気もするので、ちょうどいいのかもしれない。
 退勤すると、終電ギリギリの電車で久世のマンションへと向かった。


 それから。

「んっ…、あ、っ」

 ぎゅっと掴んだ枕は久世の匂いがする。
 意識すると、ただでさえうるさい鼓動がより一層早まった気がして、万里は身を捩った。
 到着するなりベッドに連れ込まれて、キスにボーっとなっている間に服は剥ぎ取られ、それからずっと執拗に胸を弄られている。
 摘ままれ、引っ張られ、捏ねられ、噛まれ、舐められ……。
 先日もやたらと弄られたような気がするが、さては久世はおっぱい星人……。
 いや、おっぱい星人の場合、万里の薄い胸板ではきっと駄目なはずだ。
 ではちっぱい星人?つらい。などとどうでもいいことを考えてしまったが、とにかくもう少し直接的なところに刺激が欲しい。

「も……そこ、いい、から…っ。しつこい…っ」
「触ってみたらなかなか感度いいから、開発しようと思ってな」
「し、しなくていい…っ!」
「ここだけでいけるようになったら楽しいだろ」

 何一つ楽しくない。
 そんなところは育てる対象にするなと叫びたかったが、あまり余裕はなかった。
 胸ではいきたくないが、出したい。

「む、無理、だから…っ、そこじゃなくて…」
「自分で擦ってもいいぞ」
「す、するか!」
 恥死しそうなことを言われ、怒って否定すると、また胸への愛撫が再開してしまう。
 万里は泣きたくなった。

「う……今日のあんた、…なんでそんな意地悪なんだよっ……」

 半ベソで文句を言えば、久世は顔をあげた。
 いつものように悪げにニヤついているかと思ったのに、真顔でじっ……と見つめられて、反射的に目をそらす。
 至近の男前は迫力がありすぎるのだ。
 あと、今の情けない顔を観察されたくない。
「な……なんだよ……っ」

「あの後よく考えたんだが、温度差に文句を言いたいのは俺の方じゃないかと釈然としない気持ちが湧いてきてな」

「は、はい…?」
「名前も呼んでもらえないし、愛の言葉一つもらえないし…」
「うっ……」
「やっぱり俺とのことは遊びだったのか…」

 恥ずかしくて言えていない言葉の数々のことで責められると、申し訳なく思う気持ちが沸き上がりもするが、目前で繰り広げられる悲し気な小芝居は白々しさが半端ない。
 そもそも、いつも万里を振り回してばかりの男が何を言っているのか。
 温度差など感じているとは思えない。万里がおろおろするのを見るのが楽しいだけだ。
 あとは、先程の意趣返しだろう。
 そういえば、久世はわりと根にもつタイプだった。
 万里は下世話な好奇心で久世の過去を追求したことを、とても後悔した。
 人を呪わば穴二つ、だ。
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