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その後のいじわる社長と愛されバンビ
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恥死しそうな甘い夜を過ごしたその翌日、久世は昼から仕事で人に会う用があるというので、早めの昼食を一緒に摂った後、万里は一人家に戻ってきた。
鍵を開け家に入って、物音がする方に足を向ければ、キッチンで食料を漁る人影が。
万里が「ただいま」と声をかけると、ガウン姿の父は寝ぐせ頭のまま振り返った。
「お帰り万里。もう朝ごはん食べた?」
「父さん、もう昼ごはんも終わってる時間だけど……」
「うーん……昨夜はサタデーのナイトがフィーバーしてたから」
「昨日は金曜日」
「でも、日付をまたいだらサタデーでしょ?」
「………………」
一瞬そういうことなのか?と思ってしまった。たぶんちがう。
この父のペースに巻き込まれてはダメだ。
「サタデーナイトの定義はともかくとして、この間古くなってるものを結構捨てたから、父さんが買ってきてなければ冷蔵庫に食べるものはないと思うよ」
「えっ!食べかけの『ねりねろねるね』は!?」
「一番に捨てました!食べきれないならもったいないから買わないで!練りたいだけならねり消しでも練っててよ!」
「ねり消し懐かしいな~。メロンの香りのやつ、まだ売ってるかな」
「……臭いから買っても自分の部屋で練ってよね。食べ物ならパスタとソースはあるから、作って食べたら」
どこにあるの?と言われると面倒なので、戸棚から出してカウンターに並べてやる。
立ち去ろうとすると「待って」と手首を掴まれた。
「万里、昼食をもう一回食べる気ない?」
「ないけど」
「じゃあ、父さん今すぐに息子の手料理が食べたいな」
「………………………」
見つめられたところで、中年男性の期待に満ちたキラキラした瞳など、かわいくもなんともない。
突き放して部屋にこもりたいが、そもそも父がパスタを茹でたことがあるのかどうか、そんな姿を見たことがないのに無茶振りをしてしまった自分にも非は……あるだろうか。
思うところしかないとはいえ、賞味期限が三年も前に切れているピーナツバターや、いつのものかわからない食べかけのピザなどを無断で全て捨てたのは自分だ。
万里は諦観に満ちたため息をつきながら、渋々パスタを手に取った。
父の世話を焼いていたら、せっかくの休日だというのにどっと疲れた。
帰ったら『SILENT BLUE』に行くまでの時間、勉強をしようと思っていたのに。
一人でいることのできない父は、なんやかんやと万里を呼び止めて、結局片付けまでしていたら、随分と時間が経ってしまっていた。
少しでもと教科書を取り出してみたものの、なんだか心が乱れて集中できない。
「(駄目だ……こんなことじゃ)」
万里は早々に机の上を片付け、出勤する準備を始めた。
普段より一時間以上は早く職場についてしまったが、バックヤードからフロアに続くドアを開けると、既に鹿島が厨房で何か作業をしていた。
「鹿島さん、おはようございます。少し早いですけど、カウンター借りてていいですか?」
「おはよう鈴鹿。もちろんどうぞ」
快く許可をもらい、有難くスツールに腰掛ける。
万里にとって、バイト先である『SILENT BLUE』は、既に自室の勉強机よりもリラックスできる場所になっていた。
「何か飲み物は?」
「頭のよくなるドリンク……」
ノートを広げているところへ聞かれたので、咄嗟に変なことを言ってしまったが、それくらいで動じる鹿島ではない。
「じゃあ、ラムネでも飲むか?ブドウ糖を摂取すると、脳が喜ぶんじゃないか」
「ラムネ!飲みたいです」
「頂きものだが、カクテルにでも使うかと思って持ってきた」
「え……俺が飲んでいいんですか?それ……」
「ケースでいただいたからたくさんあるんだ。もしよかったら」
「お言葉に甘えます……!」
無茶振りをされても、振った相手の要望を上回るものをすぐに提供する。
やはり、『SILENT BLUE』は素晴らしい場所だという思いを強くする万里だった。
鍵を開け家に入って、物音がする方に足を向ければ、キッチンで食料を漁る人影が。
万里が「ただいま」と声をかけると、ガウン姿の父は寝ぐせ頭のまま振り返った。
「お帰り万里。もう朝ごはん食べた?」
「父さん、もう昼ごはんも終わってる時間だけど……」
「うーん……昨夜はサタデーのナイトがフィーバーしてたから」
「昨日は金曜日」
「でも、日付をまたいだらサタデーでしょ?」
「………………」
一瞬そういうことなのか?と思ってしまった。たぶんちがう。
この父のペースに巻き込まれてはダメだ。
「サタデーナイトの定義はともかくとして、この間古くなってるものを結構捨てたから、父さんが買ってきてなければ冷蔵庫に食べるものはないと思うよ」
「えっ!食べかけの『ねりねろねるね』は!?」
「一番に捨てました!食べきれないならもったいないから買わないで!練りたいだけならねり消しでも練っててよ!」
「ねり消し懐かしいな~。メロンの香りのやつ、まだ売ってるかな」
「……臭いから買っても自分の部屋で練ってよね。食べ物ならパスタとソースはあるから、作って食べたら」
どこにあるの?と言われると面倒なので、戸棚から出してカウンターに並べてやる。
立ち去ろうとすると「待って」と手首を掴まれた。
「万里、昼食をもう一回食べる気ない?」
「ないけど」
「じゃあ、父さん今すぐに息子の手料理が食べたいな」
「………………………」
見つめられたところで、中年男性の期待に満ちたキラキラした瞳など、かわいくもなんともない。
突き放して部屋にこもりたいが、そもそも父がパスタを茹でたことがあるのかどうか、そんな姿を見たことがないのに無茶振りをしてしまった自分にも非は……あるだろうか。
思うところしかないとはいえ、賞味期限が三年も前に切れているピーナツバターや、いつのものかわからない食べかけのピザなどを無断で全て捨てたのは自分だ。
万里は諦観に満ちたため息をつきながら、渋々パスタを手に取った。
父の世話を焼いていたら、せっかくの休日だというのにどっと疲れた。
帰ったら『SILENT BLUE』に行くまでの時間、勉強をしようと思っていたのに。
一人でいることのできない父は、なんやかんやと万里を呼び止めて、結局片付けまでしていたら、随分と時間が経ってしまっていた。
少しでもと教科書を取り出してみたものの、なんだか心が乱れて集中できない。
「(駄目だ……こんなことじゃ)」
万里は早々に机の上を片付け、出勤する準備を始めた。
普段より一時間以上は早く職場についてしまったが、バックヤードからフロアに続くドアを開けると、既に鹿島が厨房で何か作業をしていた。
「鹿島さん、おはようございます。少し早いですけど、カウンター借りてていいですか?」
「おはよう鈴鹿。もちろんどうぞ」
快く許可をもらい、有難くスツールに腰掛ける。
万里にとって、バイト先である『SILENT BLUE』は、既に自室の勉強机よりもリラックスできる場所になっていた。
「何か飲み物は?」
「頭のよくなるドリンク……」
ノートを広げているところへ聞かれたので、咄嗟に変なことを言ってしまったが、それくらいで動じる鹿島ではない。
「じゃあ、ラムネでも飲むか?ブドウ糖を摂取すると、脳が喜ぶんじゃないか」
「ラムネ!飲みたいです」
「頂きものだが、カクテルにでも使うかと思って持ってきた」
「え……俺が飲んでいいんですか?それ……」
「ケースでいただいたからたくさんあるんだ。もしよかったら」
「お言葉に甘えます……!」
無茶振りをされても、振った相手の要望を上回るものをすぐに提供する。
やはり、『SILENT BLUE』は素晴らしい場所だという思いを強くする万里だった。
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