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その後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟む真剣な声音で問われた内容に、万里は二日酔いも忘れるくらい激しく動揺した。
久世は何故こんなことを言い出すのだろう。
自分は酔っている時に何か余計なことを言ったのだろうか?
固まった万里に気付いているのかいないのか、静かな声で久世は続ける。
「俺の仕事は基本的にグレーゾーンで、決定的に法に触れることはないが、稼いだ金の一部が月華からヤクザに流れていることは動かしようのない事実だ。土地のことでは政治家どもの人に言えないような事情も握ってるから、万が一月華という後ろ盾がなくなって、利用価値がなくなったら危険な目に遭う可能性も高い。その覚悟を問うこともせず……お前をこっち側に巻き込んだことを、申し訳なく思っている」
心臓の鼓動がうるさい。
こんな話をする理由なんて一つしかないような気がして。
「俺とのことがなければ、月華も『SILENT BLUE』に戻ってもいいとは言わなかっただろうし、お前は以前と同じ暮らしに戻れたはずだ」
戻りたいなんて、思ったことはないのに。
「いつか、この事を後悔する日が来るのかもしれないが……」
「っそんなこと」
聞いていられなくなって、上掛けを剥いで起き上がった。
口を塞いでしまいたかったのに、目が合い、動けなくなる。
……その先を、言わないで。
「お前に好きな奴ができたとか、全く違う人生を歩みたくなったとかじゃない限りは、離してやる気はないから諦めろ」
・・・・・・・。
「…………は?」
「要約すると、今のところお前を取り巻く状況は変わらないから、ストレスをためるなって話」
「………………………」
まったくもって、これっぽっちも想像していた話ではなかった。
万里はしばしぽかんとしていたが、すぐにわなわなと震え出す。
「どうした?」
「 言 い 方 が 悪 い ! 」
怒りのままに放り投げた枕は、完全に不意打ちだったのか、久世の顔にジャストヒットした。
普段ならばやったとガッツポーズの一つも決めるところだが、あいにくと今はそれどころではない。
「??何をそんなに怒ってるんだ」
「最後の部分だけ言ってくれればそれで済むのに、改まって変なこと言い始めるからなんかよくない系の話かと思ってびっくりしただろ!」
涙目になってしまったのは、とても怒っているからだ。
感情の昂りであって、ホッとして涙腺が緩んだとかそういうことではない。
「俺に粘着されてるって話だから、まあよくないと言えばよくないな」
「馬鹿ッ」
「泣くなよ」
「泣いてない!」
そんなに不安にさせたなんて悪かったなと、久世はあっさりしたものだ。
いつもいつも、澄ました顔ばかりしているこの男が本当に腹立たしい。
もっと文句を言ってやろうと、誤魔化すようにぐっと目元を擦って、ふと己の肌色率の高さに気付きギョッとした。
「って、俺何で全裸!?」
「昨夜寝かせた時に制服が皺になると思って脱がしてたんだが、起きた時全裸だったら驚くだろうなと思って」
「そのサプライズは心の底からいらないですから!」
真っ赤になって怒ったのに、久世は楽しそうに笑っている。
「いつもの調子が出てきたな」
「あんたな……」
暖簾に腕押し、という言葉が脳裏を過って、肩を落とした。
おそらく自分は、酔って何か言ったのだろう。
そして久世は、その答えをくれたのだと思う。
真剣な話をこんな子供のような悪戯に紛れさせてしまうところがスマートすぎて憎たらしいけれど、悩みでもあるのかとまともに問い詰められたら「何でもない」と逃げてしまいそうなので、久世のアプローチで正解なのだ。重ね重ね腹立たしい。
「あんた……子供っぽいって言われることあるだろ」
「悪い大人って言われることの方が多いぞ」
その評価に『子供っぽい』の対義語になる(と思う)『大人っぽい』は含まれていないと思うのは自分だけだろうか。
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