いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

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その後のいじわる社長と愛されバンビ

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「さて。他の男に酔ったかわいい姿を見せたバンビちゃんにはお仕置きを……と言いたいところだが、もう少し復調してからにするか」
「お、お仕置き?」
 不吉な単語に背筋が冷える。
 お仕置きだなんて、一体何をされてしまうのだろうか。
「まだ顔色も悪いからな。もう少し水分とって寝とけ」
「ありがとう。そういえば、今何時……」

 スクリーンからちらちらとのぞく窓の外はだいぶ明るい。
 北条を接客したのは日曜日の夜。
 酒で潰れた万里を運んできたのが昨夜だと久世は言っていた。
 サンデーの次はマンデー、つまり月曜日。
 ベッドサイドのデジタル時計を見れば、なんと十時を回っている。

 唐突に万里は慌て始めた。
「こ、講義!っていうか、あんたも会社は!?」
「俺は今日は在宅でできる事だけするって連絡してあるから平気だ。お前も休めそうなら休んだらどうだ?どうしても出席しないとアウトな授業でもあれば車で送っていくが……」
「う……悪魔の囁きが……」
 そう言われてしまうと、いいか、という気分になってしまう。
 休学していたので出席日数はギリギリだが、この体調をおして行かないとまずいほどの授業はなかったはずだ。
 人間とは、常に易きに流れるものである。
「痛恨だけど……寝る……」
 驚き過ぎて忘れていた頭痛を思い出して、万里は再びもそもそと横になった。
 そこに久世の手が伸びてきて、頭を撫でる。
「俺も課外活動に力入れすぎてたから大学は適当だったぞ」
 なんとなく、想像はできる。
 久世が同級生だったら、どうだっただろうか。
 知り合う機会はなさそうだが、デキる上に女子に大変おモテになっていて名前だけは有名なはずなので、一方的に敵認定していたことは間違いあるまい。
 そんなありえないもしものことを考えながら、優しい手に促されるように、万里は再び眠りに落ちた。


 それまでも寝ていたので当たり前なのだが、昼過ぎには空腹もあって寝ていられなくなり、何か食べたいと訴えると、久世には「健啖だな」と笑われた。
 久世は肉のたっぷり入った雑炊を作ってくれた上に、ベッドまで持ってきてくれた。
 病人じゃないんだからとぶつくさ言いながらも、甲斐甲斐しくされるのはちょっと嬉しい。
 膝に載せた小さな土鍋に、ありがたくいただきますをした。
「美味…。あんたは昼ご飯食べたの?」
「ああ、お前がいつまで寝てるかわからなかったからな。寝てる間に軽く」
「あの……今日とか昨夜とか、仕事ほんとに大丈夫だった?ここんとこずっと忙しそうだったし」

 面倒を見てもらえるのは正直嬉しいのだが、迷惑をかけていないかと心配だ。
 久世は面倒見が良すぎる。

 表情を曇らせた万里に、しかし久世は軽く笑って肩をすくめた。
「政府お声がかりの案件に携わってるんだが、この筋の仕事は、実務的なことより接待が多くてな ただ、相手の都合もあるから、毎日ってわけじゃないんだ」
「何をそんなに接待されることが?」
「依頼してる奴とはまた別の奴に話を通さないといけないって時に、そいつへの接待が必要になるんだよ。……まあ、つまり袖の下的なことだから、悪しき慣習っちゃそうなんだが、意地張ってただこっちの意見だけ通そうとしても時間がかかるばかりだし、それなら一瞬頭下げて、さっさと許可もらって好きなようにした方が楽だろ」
「……大変なんだな」
「ま、あと一息ってとこか。夜遅いことが多いとお前に会えないから、早く終わらせたいな。……なんなら、ここに越してくるか?そうしたら、時間が合わなくても少しは一緒にいられる時間ができる」
「それは……」
「もちろん、俺が鈴鹿家に婿入りでもいいんだが」

 恥ずかしさから気後れする気持ちはあるが、万里もまた、一日のうちに少しでもいいから一緒にいられる時間が欲しいと思っているので、同居することに異論はない。
 これまでも、やはりこんなふうに軽く提案されたこともあった。
 ただ、父が不在がちな実家が気になるので、できれば久世に万里の家にきてもらいたいなあと思うけれど、父は久世のことが大好きなので、万里が家に帰った時二人が楽しそうに談笑していたらもやっとしてしまいそうだ。
 そんなことを色々考えてしまって、なかなか踏み切れない。
「うちに来てくれたら嬉しいけど、父さんがいたら気まずくない?」
「気まずくはないが、お前の部屋だけ防音仕様にリフォームした方がいいかもしれないな」
「その工事、意図が見え見えすぎる気が」

 その時、部屋の片隅に置かれた万里のバッグの中でスマホが震える音が聞こえてきて、話は中断された。
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