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その後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟む自由すぎる父のことは一先ず置いておくとして、しばらく帰ってこないということは、久世に住んでもらうにあたって『自分のいないところで仲良くされてるとモヤるから』という懸念は一旦なくなったということになる。
『しばらく』がどの程度の期間なのかは不透明だが、『ちょっと金策してる』の一言で二か月も連絡をしなかったような男だ。
新しい恋人とやらに早々に捨てられたりしない限りは、ほんとうにしばらく帰ってこない気がする。
「………あのさ」
「防音については、一時的に心配なくなったな」
ぱっと顔を見ると、久世はニヤリと口角を上げた。
万里の言おうとしていることなんて、とうにお見通しだったらしい。
「うちからだと、会社に遠くなっちゃうけど……」
「通うことを考えれば住んでる方が効率的だろ。……俺としては」
するりと伸びてきた手に頭を引き寄せられて、顔が近付く。
反射的にぎゅっと目を閉じると、唇に掠めるようなキスをされた。
「っ…………、」
追撃があるのではないかと身構えていたが、あっさり解放されて、そっと目を開ける。
目が合うと、久世は悪戯っぽくウィンクした。
「こんな風に日常的にお前にちょっかい出せるってことの方がメリットだからな」
「ちょっかいって……他に言い方ないのか」
「言い方変えると、お前が顔真っ赤にして叫び出すような表現になるが、いいのか?」
「やっぱりちょっかいで大丈夫です」
甘い言葉は、甘い美形の久世が言うと殊更破壊力を増す。
できる限り自粛していただきい。
「ところで、具合はどうだ?」
「あ、お陰様でだいぶいいかも」
雑炊も完食でき、頭痛も余韻が残る程度で、先ほど起きた時よりも格段に調子は良くなった。
元気になったことを感謝と共に伝えると、久世もそれは何よりだ、と嬉しそうに笑い、すっかり空になった土鍋の乗ったトレイをサイドテーブルに下げる。
そして。
「あの、久世社長?」
何故か、久世がベッドの上に乗り上げて来るのを、万里は困惑した眼差しで見上げた。
「何かね?秘書のバンビ君」
「いや……何で……ベッドに乗ってきた挙句、俺の唯一の装備をっ……奪おうとして、いらっしゃるのかと……っ」
服を着るタイミングを逸し続け、未だ全裸の万里は、マウントポジションを取った久世に上掛けを剥ぎ取られそうになり、必死の抵抗を続けている。
「それはもちろん、さっき断念したお仕置きを遂行しようとしているからだな」
お仕置き!
あれはやはり本気だったのか。
お仕置きなんて、一体何をされてしまうのだろう。
万里は必死に逃れる口実を探した。
「あ、あんた在宅でも勤務中なんじゃ?」
「休憩時間を取らないと、労働基準法に引っかかるだろ。うちはホワイトな会社だから」
内部にホワイトでも、業務内容は限りなく黒に近いグレーのくせに白々しい。
抵抗虚しく、万里はベッドの上に裸身を晒すことになった。
「昨夜は全裸のお前を前にして、お預けくらったからな。罪なバンビちゃんだ」
「俺が全裸だったのは他でもないあんた自身が脱がしたからだろ……!」
万里が自発的に脱いだような言い方はやめてもらいたい。
もしやベッドまで食事を運んでくれたのは、かいがいしく世話を焼いてくれたとかではなく、食後の万里を美味しくいただくためだったのか。
好き勝手している久世にお仕置きと言われて釈然としないものはあるが、迷惑をかけたのは事実なので、その対価だと思えば甘んじて受けるべきではという気持ちもある。
しかし、今すぐに「……いいよ」というわけにはいかない事情があった。
「ちょ、待っ……、わかったから。……していいから、お仕置き。でも、……そ、その前に、」
「体を洗って欲しいのか?」
「と、トイレ行きたい!」
体調が悪すぎて忘れていたが、わりと限界が近い。
万里を拘束しつつ、自分のシャツのボタンをはずしていた久世は、ぴたりと動きを止めた。
流石にベッドで漏らされては困るのではないかと思ったのに。
「なら、運んで介助し」
「 結 構 で す ! 」
恥を忍んで告げたというのに、ふざけたことを言うので、万里は久世の顔に思い切り枕を押し付け、腕が緩んだ隙に脱出にしたのだった……。
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