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その後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟む「あー……その、なんだ?悪かったな」
「……………………別、に……」
嵐のような時間が過ぎ去り、万里はぐったりとベッドに横になっている。
いや、横になっているというより、臥せっていると表現する方が正しいのではないか。
自分の周囲の重力だけ強くなってしまっているのではないだろうかと思うくらい、体が重い。
二日酔いで弱っていたせいもあるだろうが、桜峰の『揺れてる』が少しだけわかった気がする。
万里には、この後また夜もサービスするような境地には至れそうもないのだが……。
流石に無理させた自覚があるのか、いつも悪びれない久世が、焦った様子なのが少しだけ可笑しかった。
遠慮を忘れるくらい行為に夢中になっていたのだとしたら、悪い気分ではない。
ただ、自分もして欲しいことだったから、いつまでも気を遣わせておくのもフェアじゃない気がして、万里は妥協点を提案する。
「なんか……美味しいもの作ってくれたら元気でる」
いつもの調子で甘えると、傍の久世からほっとした気配が伝わってきた。
大きな手で頭を撫でられるのが、気持ちいい。
「わかった。何がいい?」
「米と肉」
「お前は米と肉が好きだな」
「米と肉が嫌いな奴とかいる?」
「人それぞれだからな」
「あんたも米と肉は好きだろ」
「米と肉が嫌いな奴はいないだろ」
「それ俺が先に言ったんですけど!」
軽口を叩きながら、作ってる間寝とけと言いのこして久世は寝室を出て行った。
まったく、いらないことを言わないと気が済まないのか。
もそもそとベッドに潜り込み直す身体は、少し意識を飛ばしている間に綺麗にされていて、相変わらず深く考えると恥死するので蓋をしておく。
目を閉じれば、疲労の極致の万里はすぐに眠りに落ちた。
出来たぞと起こされた時には、短い時間とはいえぐっすり眠ったからか、多少回復していた。
さっきみたいにこっちに運ぶか?と聞かれたが、テーブルで一緒に食べたいと主張する。
久世と話をしながら食事をするのが好きだから。
恥ずかしいので、本人に言ったことはないけれど。
久世が作ってくれたのは牛すき煮だった。
ワインとチーズを主食にしていそうなイメージからは少々意外なことに、久世の作る料理は和食七、洋食二、その他が一、くらいの割合である。
恐らくかなり高級な牛肉。それに甘辛な和食の味付けがあれば、白米は無限に食べられるものだ。
最強のタッグに、万里(の胃)はとても元気になった。
「あのさ、いつからうちくるの?」
ありがたくいただきながら、対面で同じように食事をする久世に、気になっていることをさりげなく聞いてみる。
「今日」
「早っ」
即答か。
「どうせこの後お前を車で送って行くからな。ついでに最低限のものだけ持ち込む」
「この部屋は?」
「とりあえず、鈴鹿さん次第でどうなるかわからないから、しばらくは行ったり来たりになるかもな」
「確かに、すぐ振られるかもしれないし」
「旦那連れて戻ってくる可能性もあるしな」
ウチで一緒に住むことにしたよ!なんて言われたらちょっと気まずいので、そうなった場合は万里がこの部屋に住むようかもしれない。
「……父さんの面倒をみようなんて奇特な人を紹介されるの気が重いな……」
「俺はちょっと興味あるけどな」
頭痛の種が二倍になる予感しかしない。
好意があるとしても、一体どんな善意のボランティアなのかと万里は思ってしまう。
「あ、あと、あんたが寝るとこ用意しなきゃ」
「お前の部屋に泊めてくれるんじゃないのか?」
「うちのはあんたのベッドみたいに大きくないんだよ」
シングルサイズに成人男性二人はきつい。
腹立たしいことに、久世は万里より身長が高いのだ。己のサイズを顧みていただきたい。
「まあ、寝てみてお互いにきついようなら買い換えるか」
「買ったところで部屋に入らないですから!」
「うーん。それじゃリフォームだな」
「……別々に寝るとかいう選択肢はないんですかね」
起きた時に視界が肌色なのは心臓に悪い。
ベッドの隣に布団を敷くなどして、毎日密着して寝る必要もないだろうと思うのだが。
「安心しろ。ちゃんとお前の愛する今の家の風情を残すようにやってもらうから」
そういうことではなく。
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