いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

文字の大きさ
89 / 120
その後のいじわる社長と愛されバンビ

19

しおりを挟む

「あー……その、なんだ?悪かったな」
「……………………別、に……」

 嵐のような時間が過ぎ去り、万里はぐったりとベッドに横になっている。
 いや、横になっているというより、臥せっていると表現する方が正しいのではないか。
 自分の周囲の重力だけ強くなってしまっているのではないだろうかと思うくらい、体が重い。
 二日酔いで弱っていたせいもあるだろうが、桜峰の『揺れてる』が少しだけわかった気がする。
 万里には、この後また夜もサービスするような境地には至れそうもないのだが……。
 流石に無理させた自覚があるのか、いつも悪びれない久世が、焦った様子なのが少しだけ可笑しかった。
 遠慮を忘れるくらい行為に夢中になっていたのだとしたら、悪い気分ではない。

 ただ、自分もして欲しいことだったから、いつまでも気を遣わせておくのもフェアじゃない気がして、万里は妥協点を提案する。

「なんか……美味しいもの作ってくれたら元気でる」
 いつもの調子で甘えると、傍の久世からほっとした気配が伝わってきた。
 大きな手で頭を撫でられるのが、気持ちいい。
「わかった。何がいい?」
「米と肉」
「お前は米と肉が好きだな」
「米と肉が嫌いな奴とかいる?」
「人それぞれだからな」
「あんたも米と肉は好きだろ」
「米と肉が嫌いな奴はいないだろ」
「それ俺が先に言ったんですけど!」
 軽口を叩きながら、作ってる間寝とけと言いのこして久世は寝室を出て行った。
 まったく、いらないことを言わないと気が済まないのか。
 もそもそとベッドに潜り込み直す身体は、少し意識を飛ばしている間に綺麗にされていて、相変わらず深く考えると恥死するので蓋をしておく。
 目を閉じれば、疲労の極致の万里はすぐに眠りに落ちた。


 出来たぞと起こされた時には、短い時間とはいえぐっすり眠ったからか、多少回復していた。
 さっきみたいにこっちに運ぶか?と聞かれたが、テーブルで一緒に食べたいと主張する。
 久世と話をしながら食事をするのが好きだから。
 恥ずかしいので、本人に言ったことはないけれど。

 久世が作ってくれたのは牛すき煮だった。
 ワインとチーズを主食にしていそうなイメージからは少々意外なことに、久世の作る料理は和食七、洋食二、その他が一、くらいの割合である。
 恐らくかなり高級な牛肉。それに甘辛な和食の味付けがあれば、白米は無限に食べられるものだ。
 最強のタッグに、万里(の胃)はとても元気になった。

「あのさ、いつからうちくるの?」
 ありがたくいただきながら、対面で同じように食事をする久世に、気になっていることをさりげなく聞いてみる。
「今日」
「早っ」
 即答か。
「どうせこの後お前を車で送って行くからな。ついでに最低限のものだけ持ち込む」
「この部屋は?」
「とりあえず、鈴鹿さん次第でどうなるかわからないから、しばらくは行ったり来たりになるかもな」
「確かに、すぐ振られるかもしれないし」
「旦那連れて戻ってくる可能性もあるしな」
 ウチで一緒に住むことにしたよ!なんて言われたらちょっと気まずいので、そうなった場合は万里がこの部屋に住むようかもしれない。
「……父さんの面倒をみようなんて奇特な人を紹介されるの気が重いな……」
「俺はちょっと興味あるけどな」
 頭痛の種が二倍になる予感しかしない。
 好意があるとしても、一体どんな善意のボランティアなのかと万里は思ってしまう。

「あ、あと、あんたが寝るとこ用意しなきゃ」
「お前の部屋に泊めてくれるんじゃないのか?」
「うちのはあんたのベッドみたいに大きくないんだよ」
 シングルサイズに成人男性二人はきつい。
 腹立たしいことに、久世は万里より身長が高いのだ。己のサイズを顧みていただきたい。
「まあ、寝てみてお互いにきついようなら買い換えるか」
「買ったところで部屋に入らないですから!」
「うーん。それじゃリフォームだな」
「……別々に寝るとかいう選択肢はないんですかね」
 起きた時に視界が肌色なのは心臓に悪い。
 ベッドの隣に布団を敷くなどして、毎日密着して寝る必要もないだろうと思うのだが。

「安心しろ。ちゃんとお前の愛する今の家の風情を残すようにやってもらうから」

 そういうことではなく。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。 ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。 秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。 戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。 ●八架 深都(はちか みと) 20歳、大学2年生 好奇心旺盛な性格 ●秋木 晴士(あきぎ せいじ) 26歳、小説家 重度の不眠症らしいが……? ※性的描写が含まれます 完結いたしました!

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...