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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟む釈然としないがどうにもできないので、ひとまず万里は食いしん坊なふりで、料理に逃避することにする。
宇宙人との会話は、口のよく回る久世に任せておこう。
甘いチャーシューをもぐつきながら二人の会話を聞いていると、紀伊國屋がやけに久世を持ち上げるような話ばかりしているのに気づいた。
曰く、ナントカビルの入札の根回しが絶妙で舌を巻いただとか、ナントカ企業再建の見事な手腕がどうだとか。本当はもう少し違う硬い言い回しなのだが、万里がわかる部分を噛み砕くと大体こんな感じだ。
やはり、久世は有名人らしい。
以前テレビ出演をしたときに、本人に聞いたら大丈夫だと言ってはいたが、神導というかなり黒いバックがあるのに、この知名度で本当の本当に大丈夫なのだろうか。
「(ってか……長くない?)」
紀伊國屋の久世ヨイショは、次の料理が来ても終わらない。
まさか彼は、父のことだけではなく久世のことも……!?などと、背筋を嫌な汗が流れたところで、自分への賞賛を他人事のような相槌で聞いていた久世が、「そのへんで」と紀伊國屋の言葉を遮った。
「どうやら、私には何か、紀伊國屋さんのお力になれることがあるようですね」
「見え透いていたか」
「利用価値の高い人間だという自覚は大いにありますので」
二人は鋭い視線を交わし合い、ふふふふふ、と何やら悪げな含み笑いをしている。
万里は、茶番の駆け引きすな。とツッコミを入れたい気持ちをグッと堪えなければならなかった。
「ならば単刀直入に聞こう。久世君は、『暗黒』を知っているかな?」
「最近流行りの、例のサロンですか」
「そうだ。君はあのバッジを?」
「私は持っていませんが、親しくしている人が、創始者と懇意にしています」
「ほう!その人を紹介してはもらえないだろうか。私もかねてより参加をしたいとは思っていたのだが、恥ずかしながら、伝手がなくてな……」
サロン?『アンコク』って『暗黒』?
…怪しすぎる。
「(不穏な単語の意味を聞きたいけど、今は口を挟める雰囲気じゃ…)」
「ハム時さん、暗黒って?」
普通に挟んでるし!
空気を読むという概念のない父の、子供のような横からの質問に、「ああ、それは」と笑顔で応える紀伊國屋は気分を害された風もない。大人だ。
「社交クラブのようなものだよ」
「ああ……そういう、なるほど」
春吉は、絶対わかってない顔で頷いている。
「それはどこにあるの?」
「本部は日比谷にあると聞いている。確か……四方津ビルという名前だったか」
「そうなんだー」
万里としては、何故サロンの名前が『暗黒』なのかを説明してほしかったのだが、二人はまた胡散臭い駆け引きを始めてしまった。
纏めると、紀伊國屋は、その社交クラブのサロンに出入りするのに、『SILENT BLUE』で言うところの会員証のようなものが必要で、久世ならば伝手を持っていると思った(確信していたような口振りだった)ため、紹介してもらえないかと頼んでいるようだ。
久世の人脈って…。
『暗黒』にどうしても黒いものを感じてしまって気になるが、触らぬ神に祟りなし。
『SILENT BLUE』で接客をしているときも、「これはつっこんじゃあかんやつ」はできる限り深掘りしない方が身のためだと、店長が教えてくれた。
あー、フカヒレスープが美味しいなー!と現実逃避をしていると、隣の春吉が袖を引いた。
「ねえ万里、父さんちょっとお花を摘みに行きたいんだけど」
普通に「トイレ」って言えよ。
「……行ってくれば?」
「父さん一人だと迷うかもしれないから一緒に来てくれる?」
「わからなければ、ホテルの人に聞けば、連れてってくれるよ」
「えー。万里は合コンで作戦タイムしないの?」
「意味がわからないんだけど!?この集まりでそういうのいる!?」
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