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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟む「では改めて、私は紀伊國屋公時という。今はいくつかの会社の社外取締役をしているくらいで、メインで動かしている大きなプロジェクトはない。まあ、要するに暇人だな。この度のことは、非常に良い縁を得られたと思っていて…」
濃ッ……。
それが、父の恋人に抱いた第一印象である。
スリーピーススーツの似合うダンディな美おじではあるのだが、まず顔が濃い。
彫りが深く、眉も睫毛も濃く、全体のパーツが大きめで、とにかく濃い、の一点に尽きる。
更に上背もあり、身振り手振りも大きく、滔々と自分をプレゼンする声は低いのによく通り……と、顔立ちだけではなくその存在自体が特濃だ。
そしてキャラが特濃なのは、万里の父、春吉も同じなので、二人と一緒にいるだけで胸焼けのような胃の重さを覚える。
いっそ暴力的なまでの個性の強さに一瞬気が遠くなりかけた万里だったが、はっと神導の教えを思い出し、すぐに深く考えるのをやめた。
いいことを考えよう。
今いる場所は、帝都ホテル内にある中華料理店の個室で、背後で取り分けられている最中の前菜のチャーシューが美味しそうで楽しみだし、テーブルマナーにものすごく気を使うようなフレンチのフルコースとかではなかったのも、本当によかった。
そう、今日は美味しい物を食べにきたのだ…と、必死で精神統一をしている万里の努力など露知らず、はしゃいだ様子の春吉が追撃もとい話しかけてくる。
「万里、ハム時さんはすごいんだよ。四水菱友銀行から是非にと請われて社外取締役をしてるんだから」
「ハム時?」
メガバンクの社外取締役は確かにすごいのだが、それよりも名前の方が気になって聞き返してしまった。
春吉は、嬉しそうに大きく頷く。
「うん、公時の『公』の字が縦書きにすると『ハム』でしょ?」
「………」
字数が縮まるわけでもないのに呼び方変える必要ある!?
…と激しくつっこみかけて、ハム…紀伊國屋の手前思いとどまる。
父の係の人になってくれるような奇特な人が今後見つかるとも思えず、二人の仲を応援したい気持ちはそれなりにある。
一応、(言っていることが真実なら)職業的にはまともな人のようなので、現時点で心象を悪くするのは避けたい。
万里のハートに神導がリメンバーする。
そう、受け流すこと……。
「はるるんの発想は芸術的だ。こんな素敵な人に出会えたなんて、私は本当に幸せ者だと思うよ」
「ハム時さん……」
オーナー、受け流すなんて無理です。既に叫びだしそうです。
『はるるん』って……、と辛い気持ちになっていると、久世が水を飲むふりで口元を隠しているのが目に入った。
笑うなとジト目を送るが、爽やかな笑顔で受け流されて、余計に腹が立った。
「アートの才能だけじゃない、人脈もある。まさか、はるるんが久世社長と知り合いだとは」
紀伊國屋の視線が、久世の方へと移る。
久世はそつなく「お見知り置きいただけていたとは、恐縮です」と頭を下げた。
釈然としない。
本当は、機先を制して「俺の恋人です」と紹介したかったのだが、待ち合わせた店の前で顔を合わせるなり春吉が、
『えっ!?もう一人って言うから、彼女でも連れてくるのかと思ったら久世君!?も~万里ってばすっかり懐いちゃって。ごめんね、久世君、折角の休日なのに』
……と、同伴の理由をそんな風に決めつけてしまったのだ。
久世は一瞬「言うか?」という視線を投げてきたが、すっかり出鼻を挫かれた万里は首を横に振った。
更に春吉が「彼は先日僕の会社がちょっと大変なことになった時に力を貸してくれた人で……」と紀伊國屋に説明したため、久世は父の知り合いのようになってしまっている。
ものすごく間違っているわけではないが、どうにも釈然としない。
しかし、「俺の方が先に知り合ってたから!」と主張するのも恥ずかしいような気がして、万里は何も言えずにいるのだった。
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