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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟むヘアサロンからそのまま出勤した万里は、バックヤードに続くドアの向こうに広がった光景に固まった。
「(なん…、え?べ、ベッド…!?)」
目の錯覚かと瞬きをしたり目を擦ってみたりしたが、何度確認しても、部屋の半分を占めているのは、お姫様でも眠っていそうな天蓋付きのベッドである。
一歩を踏み出せずにいると、天蓋の中から、手を振るシルエットが見えた。
「万里?お疲れー……」
「お、オーナー!?大丈夫ですか?どこか具合が…?」
具合が悪いことは、自分の経営する店のバックヤードにベッドを持ち込む理由にはならない気がするが、しかし他に聞きようもなく、またいつもキラキラしている人の覇気のない声音にも心配が募り、恐々近づいていくと、細いシルエットが起き上がり、ようやくその顔を見ることができた。
「あー……そういえば万里は昨日のことを知らないんだっけ。気にしないで、ちょっと……世界を崩壊させたいくらい疲れてるだけだから……」
疲れていることは、世界を崩壊させる理由にはならない気が(以下同文)
「い、一体何があったんですか?」
酷く憔悴した様子の神導が語ってくれたところによると、なんと先日から、諸事情により店長と副店長が揃って出勤できなくなってしまったという。
代わりに一日店長を買ってでた神導だったが、邪悪の化身(嫌な客)が現れて、世界平和のために(店のスタッフが嫌な思いをしないように)己の身を犠牲にしたところ、著しい精神ダメージを被ったそうな……。
ちなみに、括弧書きの中は、意味がよくわからなかったので万里が推測で補った部分である。
「昨日で向こう五年分くらいの精神力を使い果たしたから、今日は責任者として控えつつも、横になって休んでるってわけ」
「お、お疲れ様でした……。オーナーにこんなにダメージを与えることが出来る人がいるんですね」
「まあ、僕は死角も弱点もない完璧な存在ではあるけど、外宇宙からきた負の意識の集合体みたいな相手には、流石に消耗するよね」
人類にとって未だ未知の場所である宇宙よりもさらに外から来た外宇宙人?が寄るクラブ『SILENT BLUE』とは……。
神導の発言には謎が多いが、宇宙繋がりで、万里も来週の気が重すぎる宇宙人二人との会食のことを思い出してしまった。
今の神導のように精神力を根こそぎ持っていかれそうな予感しかしないため、何か備えることはできないだろうかと助言を請う。
「そんな相手との試練みたいな時間を耐えて無事生還するには、どんなことを心がけたらいいですか?」
「まずは身を守ることだよ。精神の健康を保つために、スルーできることはスルーして、耐えられなくなった時だけツッコミを入れる」
「全部ツッコミを入れちゃダメなんですか」
「人間にとって最も慈悲深いことは、この世の全てを関連づけて考えることができないことだからね。人語を解さない相手の言うことを深く考えることは、精神衛生上よくない。だから、耐えられなくなった時だけストレス解消の意味でツッコミを入れて、流せることは全部流す。……ハハ……どんなに備えても、この通りダメな時もあるけどさ」
「さ、参考になります」
昨晩のことを思い出したらしい神導の瞳が物騒な昏い色を帯びたため、世界を崩壊させられてはたまらないと、話題を変えることにした。
「そ、そういえば、ヘアサロンで羽柴さんに会いましたよ」
「へえ、ましろに?なんだ、来てたんだったら、会いに来てって連絡すればよかったな」
羽柴とは本当に仲がいいらしく、すぐに神導に笑顔が戻り、ほっとする。
カットの間ずっと話し込んだと言うと、どんなことを話したのかと聞かれたので、ちょうどいい、羽柴から「月華に聞いてみては」と助言されたことを併せて聞いてみた。
万里の質問に、神導は静かに微笑む。
「万里、僕は思うんだけどね」
「はい」
「……人として勝ちたいと思ってる相手の、いいところじゃなくて駄目なところを探そうとしてる時点で、もう既に負けてない?」
ええまあ、そう言われるってわかってたんですけどね。
わかってたけど改めて突きつけられると辛すぎるっていうかですね!
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