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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟む思わず身を乗り出した万里は、驚いてまんまるになった羽柴のひとつの濁りもない瞳を目にして、衝動的な発言を後悔した。
心無い大人達のデリカシー皆無の発言によりメンタルが弱っていたとはいえ、いつも澄ました顔をしている久世の恥ずかしい話の一つも聞ければなんて、こんな世の中の汚いことはひとつも知らなさそうな人に聞いていいことではなかった。
「弱点……ですか?」
「あっ、いや…それは、その…わ、忘れてください…」
「…………………………」
「…………………………」
沈黙が痛い。
「……あ」
何かを思いついたような「あ」の後、羽柴はすぐに「……ぁ……でも、……」と表情を曇らせた。
「あああの、ほ、本当に忘れてくださって結構ですので……」
いらないことで心を煩わせてしまっていることが本当に申し訳なく、万里は気にしないでほしいと重ねてお願いをしたが、考えることに集中してしまっている羽柴には届かない。
「いえ、恐らく弱点をひとつ、思いついたのですが…」
「え」
「ただ、私から申し上げてよいことなのか…少々判断がつきかねまして…」
万里はそれにどんな相槌を打てばいいかわからず、静かに息を呑んだ。
気軽に話せないような弱点なんて、一体どんなことを思いついたのだろうか。
とても気になるが、判断に迷うようなことを無理に語らせるわけにもいかず、大丈夫ですと首を振る。
「本当に、いいんです。ちょっと、うっかり口が滑って聞いてしまっただけなので」
「私がこう言っていたことも含めて、月華に聞いてみてはいかがですか?私よりも、月華の方が昴とは親しいですし」
「それはそうなんですけど、逆に親しいから教えてくれない可能性が……」
「月華は優しいですから、何故それを知りたいのかをきちんとお話しすれば、答えてくれると思いますよ」
「そ、そう…ですね?」
神導が、見た目通りの『ナルシスト系の悪役』ではないことはわかっているつもりだ。
万里にとって神導は、ツッコミ不在のカオスな状況に陥ることが多い『SILENT BLUE』において、数少ないまともなツッコミ要員であり、日々美味しいお土産と共に店の様子を見に寄ってくれる、気遣いのできる優しいオーナーでもある。
だがむしろ、そういうまともな神経を持つ人だからこそ、「たまには久世のちょっとカッコ悪いとこがみてみたくてー☆」なんて話を持ちかけたら、軽蔑の眼差しが返ってくる気しかしないのである。
店長の桃悟の絶対零度の視線には少し慣れたが、神導に同じようにみられるのは精神的にきつい。
神導に聞くかどうかはともかくとして。
綺麗な人が万里の聞いたことを真剣に考えてくれたのが嬉しかったので、少し気分は持ち直した。
ちなみに、カットしてもらっている間、羽柴とずっと話し込んでしまっていたのだが、ツッコミどころの多い会話にも黙って手を動かしてくれていたヘアスタイリストの二人は、やはりプロだなと感心したのだった。
先に切り終えた羽柴が、去り際に嬉しいお誘いをしてくれた。
「よろしければ、お時間のあるときに、是非『SHAKE THE FAKE』にもいらしてください。観光がてら昴と一緒にでも。或いはスタッフとしてヘルプに入っていただいてもいいのですが…」
それほど混んでいないので、まずヘルプは必要にはならないだろうという。
「行ってみたいです。お店の雰囲気って、『SILENT BLUE』と同じような感じですか?」
「全く違う雰囲気なので、驚かれると思いますよ。店長がとても自由な方で」
「そ、そうなんですね…」
『SILENT BLUE』にだって自由な人しかいないような気がするのだが、それ以上ということなのだろうか。
羽柴には会いに行きたいが、その店長にはあまり会いたくないなと思ってしまった万里であった。
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