いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ

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 万里の苦悩は深い。

 昨夜は、「卒業して二年だしまだいけるだろ」「仮にいけても着たくないから」「折角だからちょっと着てみないか」「何が折角なのか一つもわからないんですけど!?」という問答の末、気付いたら制服を身に付けてしまっていた。
 久世にはマインドコントロールの特殊能力でも備わっているのだろうか。
 教師と生徒ってシチュエーションもいいなとか馬鹿なの!?と突っ込みながらも、万里もいつもより盛り上がってしまったような気がして、事後も強く非難することはできなかった。

 そんなに俺は子供のような顔をしているのだろうかとじっと眼前の鏡を覗き込んだ万里は、拗ねた子供のような己の瞳を目にしてしまい、これは言われても仕方ないかもしれないと、スタイリングチェアの上で肩を落とした。
 久世とのことだけなら、いつものおふざけのようなもので、こんなに落ち込まなかったかもしれないが。
 万里は現在、『SILENT BLUE』と同じ建物内にあるヘアサロンに来ており、つい先程、いつもカットを担当してくれる店長の峰谷にとどめを刺されてしまったのだ。

「今日は、なんか希望あります?」
 少し気怠げに聞いてくる峰谷は、いかにも神導が好みそうな端正な顔立ちをした壮年の男で、美容師というよりは陶器の職人だとか、気難しい芸術家のような雰囲気がある。
 一見近寄りがたく、少々気後れしてしまうが、若くして東京の一等地に店を持ち、己の腕一本で顧客を満足させる技術者でもある峰谷に憧れる気持ちも大きい。
 だから、そんな風になりたいという想いも込めて、こうオーダーしたのだ。

「なんかこう…大人の男に見える感じで」

 聞いた峰谷は少し考え。

「……あー……、まあ、似合えばそれもいいんですけど」

 IはSHOCK!

「似合うやつで…いいです…」
 こういう時は、最終的にいつもと同じような髪型になるとしても、口先だけいいから快く承ってほしい。
 もっとも、峰谷は初めて切ってもらった時からこの調子で、正直な意見にダメージを受け続けている万里としては、腕は普通でいいからもう少しリップサービスのできるスタイリストに……と思うこともしばしばだ。
 とはいえ、今まで万里が行っていた美容室の倍以上の値段のスタイリストに、業務に必要だからと福利厚生の一環で無料でカットしてもらっているので、文句も言えない。

 ショックを受けた万里は、月華からの指定との折り合いが……という峰谷の呟きを聞き逃したことに気付けなかった。 


 失意のままシャンプーを終えて、元の場所へと戻ってくると、見知った人物が座っているのが見える。
 相手も万里に気付き、柔らかく微笑んで軽い会釈をくれた。
「こんにちは、万里」
「こここんにちは、羽柴さん」

 羽柴ましろ。『SILENT BLUE』の姉妹店である『SHAKE THE FAKE』のスタッフである。
 先日たまたま『SILENT BLUE』にヘルプに来てくれた際に、初めて顔を合わせた。
 『SILENT BLUE』で働くようになってから、顔面偏差値の高さには慣れたつもりだったが、羽柴はまた格別に整った顔をしている。
 どこか浮世離れした雰囲気といい、ファンタジーの世界からやってきたお姫様(…か王子様)だと紹介されてもすんなり信じる自信があるほど、現実離れした存在だ。
 自分のような一般人が言葉を交わしていいのだろうかと、話す時はいつも緊張してしまう。

 思わず噛んだ挨拶を返す万里のことを特に気にした様子はなく、羽柴はのんびりと話を続けた。
「昴はお元気にしていらっしゃいますか?」
「えっ、はぁ、まぁ、大変無駄にお元気でいらっしゃいます」
「それは何よりです」
 くす、と微笑ましげに笑われて、顔が赤くなるのがわかった。
 羽柴がヘルプで来たときには、久世は来店しなかったのだが、神導あたりから自分と久世がどんな雰囲気かは聞いているのだろう。
 筒抜けすぎて、恥ずかしい。
 同時に『昴』なんて親し気な呼び方が少し気になった。
「あの…、羽柴さんは、…アノヒトのことを昔からご存知なんですか?」
「昔から…というのがどれ程なのかはわかりませんが、初めてお会いした際、私は高校生だったので、八年以上のお付き合いになりますね」

 それは……だいぶ長い。
 その長さは……、

 万里は、はっとして身を乗り出した。

「じゃあ、なんか、奴の弱点とか知りませんか!?」
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