いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ

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 万里は己の顔面が盛大に引き攣るのを感じた。
 恋人ができたと言って帰ってこなくなったきり、音沙汰のなかった(一応メッセージアプリで互いの生存確認はしていたが)父からの着信である。
 わざわざ電話でだなんて、聞いたら後悔をするような話の予感しかしない。
 のんびりできる貴重な時間を邪魔されたくない気持ちもあり、さりげなく無視しようとしたが、久世は「気にせず出てくれ」とあっさり万里を解放してしまう。
 久世は、友人などから連絡があったときでも、万里にそちらを優先するよう促すことが多いのだ。
 「俺だけ見てろ」なんてジェラシー全開で迫られてもそれはそれで色々な意味で困るのだが、逆の立場だったら万里は面白くないと思ってしまいそうで、その余裕はいつもながら釈然としない。
 思うところしかないものの、相手は既に新聞を開き始めて完全に通常モードになっている。
 万里は渋々通話ボタンをタップした。
「もしもし……?」

『あ、もしもし、万里ー?突然ごめんねフィーバー中じゃなかった?』

 意味のわからない気遣いに、全細胞が脱力した気がした。
 フィーバーしかけてたのを誰かさんに邪魔されたんだよ……なんて、流石に言わない。

「……父さん、全ての人がサタデーのナイトにフィーバーしてるわけじゃないんだよっていうか今日は金曜日だよ」
『あっ、じゃあ万里はフライデーナイトフィーバー派なんだね』
「いや、俺がフィーバーする日の話じゃ……、じゃなくて、用件は何?」
 全く話が進まないので、進めたくないが先を促した。
 電話の向こうで、『そうだった』と、聞かれたことを喜ぶような気配を感じ、万里は通話を終了したい気持ちをぐっと堪える。

『父さん、実は万里に会ってほしい人がいるんだけど』

 やはりその件か。

「それってもしかして……」
『うん、今同棲してる恋人が、どうしても万里に挨拶したいって』
「そ、そう?俺はそれほどでも」
『来週の日曜日は空いてる?』
「ぇ、昼間……な、ら……?」
『じゃあ、帝都ホテルで昼食ね。集合場所はあとでメッセージ送るから!それじゃ、良い子は寝る時間だからグンナーイ☆』
「いや、ちょっ……」

 ブツッ……。

「~~~~~!」
 物言わなくなったスマホに、人の話を聞けよと声にならない何かを吐き出しつつ、通話を終了して頭を抱える。
 隣で新聞を読んでいた久世が苦笑しながら「もしかして、例の件か?」と聞いてくるので、万里は唇を尖らせたまま電話の内容を話した。

「相変わらずだな、鈴鹿さんは」
 久世は実に楽しそうだ。万里はちっとも楽しくないのだが。
「笑い事じゃないよ。格式ばったホテルで食事も気が重いし、相手が父さんとその父さんを恋人に選んだような人だなんて、マジで宇宙人すぎて話合わなさそうなんだけど!」
「俺はちょっと興味あるけどな」
 他人事だと思って、と恨みがましい視線を向けるが、当然そんなものを気にするような男ではない。
「興味あるなら、ついてきてフォローしてくださってもいいんですよ」
「先方がいいって言えば、もちろん構わないぞ」
 こうなったら巻き込むしかないというやけっぱちな提案にも、久世はあっさりと頷いてくる。
 父も会いたくもない宇宙人を紹介しようとしているのだから、万里も恋人を連れていって駄目ということはないだろう。
 とりあえず、言いきりで自分も紹介したい人を連れて行くとだけ連絡しておこう。

「はぁ…なんか、スーツとか着た方がいいのかな」
「お前なら、あれでいけるんじゃないか?」
「あれ?」
 何かホテルの食事に相応しいフォーマルな洋服なんて持っていただろうか。

「クローゼットの中にあった、高校の制服」

「 着 る か ー ! 」

 というか人のクローゼットの中身を勝手に漁るな!
 何だその、名案だろうと言わんばかりの自信満々な笑顔は!

 叫んだ万里は、失礼すぎる男のボディに、怒りのワンパンを入れた。
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