いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ

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 あちらこちらに気を散らす春吉を半ば引き摺るようにして席に戻ると、紀伊國屋と久世は株の話題で和やかに談笑をしていた。
 その後もその調子で久世が率先して二人の相手をしてくれたので、万里はさほど矢面に立たずに済んで非常に助かったのだが。

「……疲れたー……」
 車で来たという二人とエレベーターの前で別れて、扉が閉まった瞬間、やっと終わったという解放感に、どっと激しい疲労感が込み上げてきた。
 直接交わした言葉は少なくても、ツッコミどころの塊のような二人と同じ空間にいることで、精神力がかなりすり減った気がする。
 更に、紀伊國屋は『家族』にこだわりがあるらしく、みんなで暮らそう的な圧がすごかった。
 含みなどは感じられず、どうやら善意から、そして本気で言ってくれているようで、嫌な気分にはならなかったのだが、久世のことがなくても、正直、あの二人に挟まれて暮らすのは正気度が下がる予感しかしない。
 だからといって父にするようにすげなく拒否するわけにもいかず、とても対応に困った。
 喉元まで、久世とのことを打ち明けた上で「二人で暮らしたいから」という(半分本音の)言い訳が出掛けたが、祝福された上で「彼も一緒に」なんて話になるだけのような気がして、言い出すことはできなかった。

 腹の底から重い息を吐き出し、脱力した万里の背中を、隣の久世が労わるようにぽんと叩く。
「お疲れ」
 からかい混じりの苦笑だが、今だけはその余裕が眩しく見える。
「うー、疲れたけど、その、……ありがと。あんたが紀伊國屋さんの相手をしてくれたおかげで、集中砲火にならずに済んだから、ちょっとは元気残った」
「それは来た甲斐があったな。俺としては、楽しい時間を過ごさせてもらったし」
「あんたって…すごいよね…。俺はツッコミどころしかなくて疲れた…。紀伊國屋さん、キャラも顔も濃いし、ってか、『キノクニヤ』って本名……?」
「恐らく本名だろう。今まで話をしたことはなかったが、仕事の関係で名前を聞いたことはある」
「はあ……性格も名前も、いろんな人がいるんだな……」

 エントランスに向かって歩き出すと、久世が「どこかで休んでいくか?」と、疲れた様子の万里を気遣ってくれる。
「ずっと食べてたから、腹ごなしにちょっと歩きたいかも」
「そうだな、ぶらぶらするにはわりといい立地かもな。日比谷公園も近いし、有楽町の方に歩いていくとプラネタリウムがあるぞ」
「プラネタリウム…!」
 子供の頃に行ったきりだ。一瞬心が湧き立ったが、それは成人男性二人で行く施設だろうか。
「……子供の行くとこじゃない?」
「プラネタリウムは、カップルとかでもいくだろ。カップル用のシートとかもあるって、いてっ、なんで殴るんだよ」
 久世と二人でいちゃつきながら見上げるロマンチックな夜空をうっかり想像してしまい、恥ずかしくなってとりあえず殴った。

 カップルシートはともかくとして。プラネタリウムも気にはなったが、夕方から『SILENT BLUE』に出勤予定なので、時間的にどうかという話になり、近くにある日比谷公園をぶらつくことにする。
 手入れの行き届いた園内をのんびりと歩きながら、万里はふと先ほどの話を思い出した。
「そういえばさっきの…サロン?暗黒とかなんとかって、日比谷って言ってたよな。ここから近いの?」
「行ったことはないが、近いんだろうな。……なんだ、興味があるのか?」
「いや、別に。ただ、サロンって割には名前が怪しいな~って」
 まあ、そうだなと一つ頷いた久世は、万里との距離を詰め、潜めた声で驚くべき事実を教えてきた。

「『暗黒の夜明け団』という宗教系の秘密結社だからな。怪しいというのは正しいな」
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