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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟む「だから、本当にやめた方がいいって…!」
「も~万里は心配性だなあ。父さん、これでも社長さんなんだよ?ハッタリだけは超一流なんだから」
その発言のどこに心配せずにいられる要素があるのかがわからないのだが。
電話の後。
慌てて大学を出て、日比谷の高級そうなカフェで呑気にプリンを頬張っていた春吉と合流し、好奇心を刺激しないように苦心しながら説得を重ねたが、結局止めることは叶わなかった。
気付けば既に、『例のサロン』のビルの前まで来てしまっている。
もっといかがわしい外観を予想していたが、ぱっと見は普通の、さほど大きくはないオフィスビルだ。
アポイントはなく、伝手があるわけでもないというのに、春吉は何の躊躇いも無く、自動ドアの前に立つ。
ここまで来てしまったので、仕方ない。やるだけやって駄目なら、父も諦めるだろう。
万里は、迷惑そうな顔をされたらすぐに連れて出るのが自分の役目だと気持ちを切り替えて、春吉の後に続いた。
「え、なんで……?」
悪の(決めつけ)秘密結社へと一歩を踏み出した万里の第一声は、それだった。
まず、薄暗い。
というのも、照明がついていないのだ。
右手には、受付と思われるカウンターがあるが、誰もいない。少し席を外している、というよりも、フロア全体に人の気配が感じられなかった。
自分達のような怪しい二人組が勝手に入れてしまっているのだが、こんなに無人でセキュリティ的に大丈夫なのだろうか。
「(それに、なんだか……)」
窓などから内部をきちんと確認したわけではなかったが、外から見た印象との違和感に戸惑う。
入るまでは、普通に人がいて、みんなそれぞれ仕事をしているような、何故かそんな確信をしていたのだが。
不思議な違和感について考え込んでいると、先行した父に奥の方から呼ばれて、そちらへと足を向けた。
「万里、こっちにエレベーターがあるよ」
「父さん、なんか留守みたいだし、勝手に入ったらまずいって」
「でも、入っちゃったからこそ、誰かに挨拶していかないと、不法侵入じゃない?防犯カメラとかにも映っちゃってるよきっと」
難しいことを考えるのは苦手なくせに、何故こんな時だけ、もっともらしいことを言うのだろうか。
万里が反論を思いつかずにいると、春吉はエレベーター内のパネルを見ながら聞いてくる。
「ねえ万里、偉い人はやっぱり最上階かな?」
「まあ、そうかな……?って、なんでそんな色んな階を連打してるの!?」
「だってほら、秘密のサロンなんでしょ?パネルにない階にあるかもしれないじゃない。パスワードを打ち込めば、秘密の階に行けるかも」
「そんな漫画みたいなこと、」
その時。
カチッと何かがはまるような音がして、軽い振動と共にエレベーターが動き出す。
ふわりと体が浮いたような感覚がしたかと思うと、すごい勢いで降り始めた。
慌てて確認したが、パネルに地下階などという表示はない。
思わず注視した父は、力強い笑顔とサムズアップで応えた。
「やった!ビンゴ!」
この父親と同じ発想ってどういうこと!?
結社って、馬鹿なの!?
脳内で、父と結社に思いつく限りの罵詈雑言を浴びせているうちに、エレベーターは止まった。
扉が開くと、暗くてよく見えないが、地下に来てしまったというのは錯覚ではないかと思わせるような、広い空間が広がっていた。
暗い上に高すぎて見えない天井。壁には、等間隔に、まるで火の玉のような火灯りが並んでいる。
その正面、数百メートルはありそうな石畳の向こうに、大きな扉のようなものが見える。
「万里、なんだろう、ここ!地下なのにすごいね!」
「ちょ、父さん声大きいから!」
「こんな広かったら、走ったりドローン飛ばしたりできるね!」
広い場所に来たら走り出すとか、子供か!
「はしゃいでる場合じゃないよ。なんか、やばそうだし、一度戻っ……父さん?」
・・・・・・・・・。
万里の呼びかけに応えたのは、静寂のみ。
焦って三百六十度を見回すが、いない。父の姿が見えない。
「父さん?ちょ、ふざけないで、出てきてよ」
隠れるところなどない、見通しのいい場所だ。暗いとはいえ灯りはあり、先ほどまでははしゃぐ春吉の姿を確認できていた。
「父さん……!?」
落とし穴に落ちたとか、神隠しにあったとか、そういうレベルのいなくなり方だ。
「(……これって、)」
……はぐれた?
改めて現状を把握して、万里は愕然とした。
何故こんなことになったのか……。
こんなこと自己責任だと放り出したかったが、何を仕出かすかわからない父を置いて帰るわけにはいかない。
エレベーターの位置がわからなくならないように用心しながら、父の姿を探して真っ直ぐ歩いていくと、大きな扉の近くまできた。
本当に大きい。大仏でも通るのかという大きさだ。
これが開けば流石に遠くからでもわかるだろうから、春吉はこの扉の向こうには行っていないだろう。
しかし、ここが行き止まりだ。
困って見回すと、左側の壁に、正面の扉からすると普通のサイズの扉があることを発見した。
ここまで、曲がり道や扉のようなものはなかったので、父はこちらに行った可能性が高い。
コンサートホールにでもあるような重厚な観音開きの扉を開けたその向こうは、ガラリと印象が変わり、まるで病院の廊下のような、近代的な通路になっていた。
突き当たりがT字に分かれていて、奥から足音が聞こえる気がする。
もしや父ではと、音のする方へ足をすすめた万里は、しかし数秒後にはその軽率な行動を後悔することになった。
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