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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟む万里が反応に困っていると、九鬼は懐からスマホを取り出した。
「噂をすれば…か」
どうやら着信らしく、そのまま通話を始める。
噂をすれば、ということは神導からだろうか。
「ああ……そうだ、ちょうどよかった。このならず者達はここで消してしまっていいのか?…………………何、心配するな。我が主の力を以てすれば骨も残さない」
不穏な発言に、電話の向こうで何かとても怒っているような気配が伝わってくる。
「??特に生かしておいても我が主の役には……わかった。言う通りにするから、刃物はよせ」
刃物?
物騒な単語が立て続けに聞こえている気がするのだが、大丈夫だろうか。
程なくして、首を傾げながら通話を終えた九鬼は、スマホをしまうと肩を竦めた。
「何を怒っていたのだろうな?……まあいい。我が同朋が迎えを遣わしたので、貴様らはここでしばし待てとのことだ」
「導師様は…?」
「俺はすぐに戻る。あまり帰りが遅くなると、我が主が気を揉まれるからな」
『我が主』って、そんな年頃の娘を持つ父親みたいなキャラなの?
『黄泉の神』とは……と万里が立ち尽くしていると、不意に九鬼に覗き込まれ、後ずさった。
「ふむ…先ほどは少しは戦士の顔になったかと思ったが、まだまだだな」
「へ?」
「我が主のお役に立てる日が来るまで、しっかりと己を磨いておくのだぞ」
「え?あの…」
「ではな」
「っ…!」
パチンと指が鳴ると、九鬼の背後に二本の火柱が現れ、万里は思わず目を瞑り、熱風から両腕で顔を庇った。
それも一瞬。恐る恐る目を開けた時……、九鬼の姿は、影も形もなくなっていた。
「……え……?」
何かが燃えたような跡もなければ、熱の残滓もない。
自分は何か、幻覚を見たのだろうか。
「そこのドアから…歩いて…出て行ったんだよな?」
顔をひきつらせて久世に同意を求めたが、「わからん」というように苦笑されて、肩を落とす。
きっと、自分には理解できないほど最先端の科学技術だ。
こういった派手な演出が、奥義を授けるだとか何かそういう怪しい儀式の時に必要なのだろう。
そうだ。そうに違いない。
恐怖を感じていたはずだが、九鬼のお陰ですっかり気が抜けてしまった。
解決したという実感が薄いが帰れるんだよなと思いながら、とりあえず隣の久世に謝る。
「あの…俺は何も悪くない気はするけど、巻き込んでごめん…」
「いや?なかなか貴重なものが見られたし、バンビちゃんとこんな人里離れた山の中で二人きりになれる機会もそうないから、役得だな」
「ばっ…、こんなときまで、何言っ…」
それのどこに得があるというのか、意味がわからない。
あと二人っきりじゃないだろあそこに転がってる人とかいるだろといつもの調子でツッコミつつパンチを入れると、普段は痛がるふりをしながらも余裕で受け流す男が、口元を歪めて微かに呻いたのに違和感を覚えた。
すぐに、原因に思い当たってハッとする。
「っ……、もしかして、さっきの当たってたの!?」
慌てて回り込むと、拘束されていた時には万里の側からは見えなかった左腕の袖は破れ、滴りそうなほど真っ赤に染まっている。
「これ……っ、」
「少し掠っただけだ。腕も動くし、それほど深くない」
「お……俺を庇ってあんな変な嘘の演技、するから……っ」
自分のせいだと蒼白になる万里の頭を撫でながら、久世は何事もないように笑った。
「ちょっとした時間稼ぎのつもりだったが、軽率に撃ってくるのはちょっと計算外だったな」
「笑いごとじゃないだろ!もっと致命的なところを撃たれたらどうするつもりだったんだよ!」
「ああ言っとけばいきなり殺されたりはしないだろうと思ったからな。あのリーダーっぽいやつも、昨日今日銃を持ったようには見えなかったから、誤射の心配もしてなかったし」
どんな修羅場で磨かれた洞察力なのか、万里に気を遣わせまいとしているというよりは、心の底からそう思っているようだ。
ツッコミを入れることもできず、言葉を失っていると、すぐに迎えだという人物がやってきた。
怪我をしている久世の腕を見ると、そのまま病院に向かってくれるという。
車内でも、久世は迎えにきてくれた男と気軽に会話をしているが、あんなに血が出て痛くないはずがない。
万里はその会話に加わる気にはなれず、一刻も早く病院に着くことだけを祈っていた。
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