いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

文字の大きさ
109 / 120
さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ

19

しおりを挟む

 万里が反応に困っていると、九鬼は懐からスマホを取り出した。
「噂をすれば…か」
 どうやら着信らしく、そのまま通話を始める。
 噂をすれば、ということは神導からだろうか。
「ああ……そうだ、ちょうどよかった。このならず者達はここで消してしまっていいのか?…………………何、心配するな。我が主の力を以てすれば骨も残さない」
 不穏な発言に、電話の向こうで何かとても怒っているような気配が伝わってくる。
「??特に生かしておいても我が主の役には……わかった。言う通りにするから、刃物はよせ」
 刃物?
 物騒な単語が立て続けに聞こえている気がするのだが、大丈夫だろうか。

 程なくして、首を傾げながら通話を終えた九鬼は、スマホをしまうと肩を竦めた。
「何を怒っていたのだろうな?……まあいい。我が同朋が迎えを遣わしたので、貴様らはここでしばし待てとのことだ」
「導師様は…?」
「俺はすぐに戻る。あまり帰りが遅くなると、我が主が気を揉まれるからな」

 『我が主』って、そんな年頃の娘を持つ父親みたいなキャラなの?

 『黄泉の神』とは……と万里が立ち尽くしていると、不意に九鬼に覗き込まれ、後ずさった。
「ふむ…先ほどは少しは戦士の顔になったかと思ったが、まだまだだな」
「へ?」
「我が主のお役に立てる日が来るまで、しっかりと己を磨いておくのだぞ」
「え?あの…」
「ではな」
「っ…!」
 パチンと指が鳴ると、九鬼の背後に二本の火柱が現れ、万里は思わず目を瞑り、熱風から両腕で顔を庇った。
 それも一瞬。恐る恐る目を開けた時……、九鬼の姿は、影も形もなくなっていた。
「……え……?」
 何かが燃えたような跡もなければ、熱の残滓もない。
 自分は何か、幻覚を見たのだろうか。
「そこのドアから…歩いて…出て行ったんだよな?」
 顔をひきつらせて久世に同意を求めたが、「わからん」というように苦笑されて、肩を落とす。
 きっと、自分には理解できないほど最先端の科学技術だ。
 こういった派手な演出が、奥義を授けるだとか何かそういう怪しい儀式の時に必要なのだろう。
 そうだ。そうに違いない。

 恐怖を感じていたはずだが、九鬼のお陰ですっかり気が抜けてしまった。
 解決したという実感が薄いが帰れるんだよなと思いながら、とりあえず隣の久世に謝る。
「あの…俺は何も悪くない気はするけど、巻き込んでごめん…」
「いや?なかなか貴重なものが見られたし、バンビちゃんとこんな人里離れた山の中で二人きりになれる機会もそうないから、役得だな」
「ばっ…、こんなときまで、何言っ…」
 それのどこに得があるというのか、意味がわからない。
 あと二人っきりじゃないだろあそこに転がってる人とかいるだろといつもの調子でツッコミつつパンチを入れると、普段は痛がるふりをしながらも余裕で受け流す男が、口元を歪めて微かに呻いたのに違和感を覚えた。
 すぐに、原因に思い当たってハッとする。
「っ……、もしかして、さっきの当たってたの!?」
 慌てて回り込むと、拘束されていた時には万里の側からは見えなかった左腕の袖は破れ、滴りそうなほど真っ赤に染まっている。
「これ……っ、」
「少し掠っただけだ。腕も動くし、それほど深くない」
「お……俺を庇ってあんな変な嘘の演技、するから……っ」
 自分のせいだと蒼白になる万里の頭を撫でながら、久世は何事もないように笑った。
「ちょっとした時間稼ぎのつもりだったが、軽率に撃ってくるのはちょっと計算外だったな」
「笑いごとじゃないだろ!もっと致命的なところを撃たれたらどうするつもりだったんだよ!」
「ああ言っとけばいきなり殺されたりはしないだろうと思ったからな。あのリーダーっぽいやつも、昨日今日銃を持ったようには見えなかったから、誤射の心配もしてなかったし」
 どんな修羅場で磨かれた洞察力なのか、万里に気を遣わせまいとしているというよりは、心の底からそう思っているようだ。

 ツッコミを入れることもできず、言葉を失っていると、すぐに迎えだという人物がやってきた。
 怪我をしている久世の腕を見ると、そのまま病院に向かってくれるという。
 車内でも、久世は迎えにきてくれた男と気軽に会話をしているが、あんなに血が出て痛くないはずがない。
 万里はその会話に加わる気にはなれず、一刻も早く病院に着くことだけを祈っていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。 ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。 秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。 戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。 ●八架 深都(はちか みと) 20歳、大学2年生 好奇心旺盛な性格 ●秋木 晴士(あきぎ せいじ) 26歳、小説家 重度の不眠症らしいが……? ※性的描写が含まれます 完結いたしました!

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...