いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ

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 職場が近く出勤しやすいからと、今夜は久世の部屋に泊まることになった。
 それでいいかと確認されて、万里自身に問題はなかったが、久世はせめて明日くらいは大事を取らなくて大丈夫なのだろうか。
 撃たれたというのに、いつも通りすぎる。

 部屋に上がると、久世はしまったという顔で万里を見た。
「そういえば、夕飯食い損ねたな。腹減ってるだろ。真人にどこか寄って買ってもらえばよかったか」
「いや…食欲ないし、いいよ。そんな、気を使わなくても…」
「それは……、重症だな」
 実際空腹でもなく、怪我人に気を使わせたくないと思って言ったのに、大丈夫かと逆に聞かれてしまい、かっとなった。
「っ……重症なのはあんたの方だろ!」
 思わず大きな声を出してしまって、久世に当たってどうするのだとはっとする。
「…ごめん」
 何で自分はこうなのだろう。
 項垂れた万里の頭を、ぽんぽんと優しい手が撫でた。
「そんなに心配するな。医者にも軽症でがっかりされた程度の傷だ」
「どんな医者だよ……」
「お前のお得意様だぞ」
「あー…」

 北条か。

 万里の脳裏に、キラキラした笑顔で腑分けの楽しさについて語る男の姿が思い浮かぶ。
 悪い人ではない。
 悪い人ではないが……猟奇的な発言が多く、良い人かどうかは自信が持てない。
「関係ないとこ切られたりしなかった?お腹とか……」
「ちょっと危ないところだったかな」
 冗談だろうが、そういうやりとりがあったのだろう。
 医者としての評判はすこぶるいいようだが、彼に診てもらうのは、……できれば万里は遠慮したい。

「まあ、お前の腹が限界でないなら、俺はちょっとシャワー浴びてくるな」
「シャワーって……大丈夫なの?」
「軽く流す程度なら大丈夫だそうだ」
 清潔な方が大事ということか。
 ただ……医者がいいと言っても、片手しか使えないのでは、体を洗うのに不便そうだ。
「て、手伝う……?」
「お前に全身洗ってもらうのも楽しそうだが、そんな健気なお前を見てたら洗われるどころじゃなくなりそうだから、やめとく」
「な、」
「回復したら頼む」
「回復したら自分で洗えますよね!?」
「そうだ、前に結婚祝いとか言ってもらったスープの缶がまだ残ってるだろ。シャワー浴びてる間にそれでもあっためといてくれ」
 調子が出てきたなと笑った久世は、さっさと自分で着替えを物色してきて、浴室に行ってしまった。

 言われた通りスープの缶を開けながら、万里は釈然としない気持ちでいっぱいだった。
 あの男がへこんだり弱ったりすることはないのだろうか。
 万里だったら、撃たれたりしたら傷の深さよりもその事実にショックを受けて寝込んでしまいそうだ。
 まったく……とぶつぶつ言いながらも鍋を火にかけると、ポタージュのいい匂いがしてくる。
「(……うまそ)」
 急激に腹が減ってきて、久世には食欲がないと言ったのに、単純すぎる自分に嫌気が差して、大きくため息をつきながらしゃがみ込んだ。
 しばしどん底な気持ちでそうしていたが。
「(いや……、落ち込んでる場合じゃないか)」
 万里が空腹ということは、久世だって空腹なのかもしれない。
 やるべきことが思いつくと、なんとか気力を奮い起こして立ち上がり、他に温めるだけでいいようなものはないかと冷凍庫を物色し始めた。

「お、美味そうだな」
 ダイニングテーブルに温めたものを並べていると、久世も体を洗い終えたようだ。
 漁った冷凍庫には高級そうな冷凍食品がいくつか入っていたので、短時間でできそうなものをピックアップした。
 勝手にしてしまって大丈夫かと心配していたが、久世は気にした様子もなく、嬉しそうだ。 
「やっぱり、なんか食べた方がいいかと思って…って、頭全然拭けてないんですけど!?」
 近寄ってきた久世の頭からはポタポタと水滴が滴っている。
「そうなんだよ。頭と背中は片手では拭きにくいって新たな発見が」
「そこ座って。拭くから」
 そんな発見はしなくていいと、椅子を指差すと久世は素直に座った。
 繊細な拭き方などよくわからないので、それでも自分にやるよりは気を遣って水分を拭きとっていく。
 いつも見下ろされてばかりなので、久世の後頭部を見るのはとても新鮮だ。
 ちらりと見た左腕には大きめの絆創膏のようなものが貼ってあり、その周辺はやはり腫れているようだ。
 こんなことで傷が癒せるわけではないが、早く、少しでも良くなって欲しいと拭く手に想いを込めた。

「明日はセットもお前にやってもらうかな」
「寝癖直すくらいはできると思うけど……、いつものあんたのスタイリングは絶対無理」
「それは残念だな。バンビちゃんプロデュースの俺が見られるかと思ったのに」
「……面白がってるだろ」
 そんなことないと笑う久世は、完全にこの状況を楽しんでいて、やはり釈然としない万里であった。
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