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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟む「万里様、今宵は私『ハク』をご指名いただき、ありがとうございます」
接客ブースに現れた羽柴のあまりの眩しさに、万里は言葉を失った。
羽柴の優美な容姿と上品な雰囲気に、白地に銀糸の刺繍の入ったアオザイがマッチしすぎていて、もはや彼の存在はバーチャルなのでは?とすら思えてくる。
こんなに綺麗な人の時間を独占できるのであれば、それは男女問わず札束を積み上げたくなるというものだろう。
神導があっさりと万里の願いを叶えてくれたため、本日は『SHAKE THE FAKE』にお邪魔している。
しかも羽柴のお客様として、だ。
名目上は研修なので、開店前に一通り店内を見せてもらったが、指名表の値段を見て血の気が下がった。
なんと羽柴の指名料は、『SILENT BLUE』の店長や副店長、人気ナンバーワンの桜峰よりも高額だった。
しかし、こうしてキャストとして現れた羽柴を見ると、それも当然かと思える。
綺麗なものは、存在しているだけで奇跡。圧倒的説得力があるのだった。
「万里……?あの、私は何かおかしかったでしょうか……?」
「はっ……、す、すみません。ちょっと、眩しすぎて眼前が眩んだというか、緊張してしまって。きょ、今日はよろしくお願いします……!」
万里は体をくの字に折って礼をした。
羽柴は首を傾げながらもおっとりと、ソファに座るように促す。
「お飲み物は?」
「ソフトドリンクを。はし……ハクさんのおすすめで」
羽柴さん、と言いそうになって思いとどまる。今は営業中だ。
『SILENT BLUE』でもそうなのだが、先輩たちを源氏名で呼ぶのはなかなか慣れない。
頷いた羽柴は、ジャストタイミングでスッと寄ってきたボーイに飲み物を頼むと、すぐに万里に向き直った。
「『SHAKE THE FAKE』はどうですか?」
「あ……はは……ちょっと、驚きました」
思わず乾いた笑いが漏れる。
聞いてはいたものの『SHAKE THE FAKE』は、ホテルの高級ラウンジのような『SILENT BLUE』とは違って、独特の雰囲気だった。
壁や天井はヨーロッパ調、そこにアジアンな調度が置かれて、空いたスペースにはアフリカ土産のような不気味な仮面が掛かり、床には謎の壺が置かれ……と、総合すると謎の民芸品店のような、非常にカオスな空間だ。
それでいて、物凄く居心地が悪いかというとそういうこともないのが不思議だった。
「店長は世界中の民芸芸術品を集めるのが趣味なので、不思議なものが多くて驚かれたでしょう?」
「そ、そうですね。店長自身も不思議な人で……」
万里は、先刻のやりとりを思い出す。
「おお、お前が鈴鹿か。よく来たな。俺が『SHAKE THE FAKE』の店長、海河龍彦だ。よろしく」
手を差し出されて、万里は頑張って笑顔を作りながら、よろしくお願いしますとその手を取った。
個性的だと聞いてはいたが、予想を上回る個性だった。
彼の格好といえば、派手な配色のポンチョにつばの広い帽子……、そして鼻に引っ掛けた丸いサングラス。
高級クラブの店長のはずが、謎のメキシコ人にしか見えない。
紀伊國屋も特濃だと思ったが、こちらはまた別のジャンルの特濃さがある。
「……す、素敵なお店ですね……?」
「おう。内装凝ってるだろ?」
凝りすぎていて、なんと返事をしていいかわからなかった。
万里の引き攣った笑いで、どんな感想を抱いたのかわかったのだろう。
羽柴はくすくすと笑った。
「店長はいつも奇抜な格好はしていますが、とても頼りになる人ですよ」
「あの人のあの格好は、店内でのキャラ的な……?」
「いえ、外にもあの格好で出かけているようですが」
頼りになる以前に職務質問されていそうで不安である。
「あー、あの、ところで、前に話した、す……久世さんの弱点なんですけど」
色々と言いたいことしかないが、あまりいつもの調子でツッコミを入れるわけにもいかず、話題を変えた。
「ああ…月華に聞いてみてはと言った件ですね」
「やっぱりオーナーからは聞けなかったので、教えてほしいです」
オーナーに手痛い一撃を食らったものの、やはり万里を弄ぶ悪い男には腹が立つので、聞いておきたい。
ちなみに今日は本当は久世も同席するはずだったが、仕事が長引いているようで、「早めに終わったら合流する」とのことだ。
万里はこれを好機と捉え、情報収集に勤しむことにした。
「そうですね……。でも、万里はとっくに気付いていることかもしれません。あまり参考にはならないかも……」
羽柴は自信なさげに眉を下げたが、なんでもいいのでとにかく聞きたい。
「全然わからないので、お願いします」
手を合わせて、頼み込んだ。
そして……、わかりましたと頷いた羽柴の次の言葉は、予想だにしないものだった。
「昴の弱点は、万里だと思いますよ」
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