溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ

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「竜次郎、俺、明日の朝はちょっと用事があるんだ」

 八重崎との計画は、善(?)は急げという話になり、決行は翌朝に決まった。
 八重崎の情報によると、中尾は平日の早朝はほぼ毎日さる喫茶店を訪れるというのだ。しかも一人で。
 松平組の事務所にやってきたときもそうだったが、彼はそもそもあまり群れるタイプではないらしい。

 自分でやり始めたことでこんなことを考えるのも勝手な話ながら、竜次郎に会えないことを残念に思いつつ、今夜は行かれない旨を電話した。
 友達が行きたいモーニングの美味しいお店があって一緒に来て欲しいって言うから、と伝えると、案の定というべきか、竜次郎は機嫌を損ねたようだ。

『男か』
「えーと……生物学的には?」
『……なんか前にもこんなやり取りあったな』
「あの…竜次郎は俺が友達と出かけたら嫌かな」

 嫌だと言われたらやめるわけではないが、竜次郎が嫌なことはあまりしたくない。
 そもそもが竜次郎を守りたいからやっていることで、それで不快な思いをさせるのは本末転倒だ。

 不安に思って問いかけると、電話の向こうから『あー……………、いや、そんなことは……』と歯切れの悪い声が返ってくる。
『悪い。別にお前の行動を制限したいとかそういうことじゃないんだが。……お前は気にしなくていいが、ごく個人的には気になるな、もちろん』
「複雑だね」
『男心は複雑なんだよ。まあ気にするな。お前はお前のしたいことを我慢するなっつったろ』
「竜次郎……ありがとう」
 礼を言いながら、数時間前の八重崎の言葉を思い出していた。


「現実問題、ガチ五郎に知られないようにはできない」


 湊には必ず松平組の護衛がついて来るはずだと八重崎は断言した。
 母にも護衛を付けると言っていたから、それはそうなのだろう。
「外出の理由も下手な嘘はつかない方がいい」
「でも、反対されたら?」
「都合のいい情報だけ与える。馬鹿正直に全部言わなければいいだけ。情報開示の基本」
「なるほど……」
 そんなロジックが上手く操れるだろうか。
 まあ、ボロが出たとしたら、正直に言うことになるのだろう。
 そこで言えないようなことはしなければいいだけの話だ。


 朝ってことはさっさと電話切って寝た方がいいんじゃねえかと、複雑な想いを抱えているのに湊の体を気遣う竜次郎は相変わらず優しい。
「ありがとう、竜次郎」
『なんかあれば遠慮とかしねえで絶対連絡入れろよ』
「うん」
 優しい言葉で明日は頑張れそうな気がしてきた。

 電話を終えると、八重崎から送られてきていたデータを確認する。
 敵組織とは、チャイニーズマフィアのことだった。
 中尾の時のようにたくさんのデータが送られてくるのかと思ったが、『カタギ規制』とのことで、それほどの量ではない。
 ざっと目を通し、明日に備えて休むことにした。
 中尾は六時に件の喫茶店に現れるそうだ。
 スマホのアラームをセットして、湊はベッドへと潜り込んだ。




 翌日。
 待ち合わせ場所に現れたのは、長い髪をサイドで結んだ所謂ツインテールの(ウィッグの)美女子高生だった。

「三浦八重子……です」

 湊は一瞬自分の視力と正気を疑った。
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