116 / 188
極道とウサギの甘いその後+サイドストーリー
極道とウサギの甘いその後1−2
しおりを挟む「……寝坊……だ……」
時間を見て絞り出した己の声はどんよりと掠れていて、酷い風邪でも引いたかのようだ。
時刻は、午前十一時を回ったところで。寝過ごしてしまったのもショックだが、重だるい身体と、乱れに乱れた布団も大きなため息を運んでくる。
もういっそ今日はこのまま……などと思いかけて、そんなことではいけないと首を振る。
とにかくまずは起きようと布団から出ようとしたのだが。
「どうせ寝坊なら午後から起きてもいいだろ」
……と、先ほどと全く変わらないシチュエーションで引き戻され、流石に困って眉を八の字にした。
「でも俺…………」
あまり自堕落な生活を送りたくない。
湊のせいで竜次郎の風評が落ちるようなことがあっては大変だし、そうなれば自分はこの場所にいるのをためらうようになってしまうだろう。
ただ、それは湊が勝手にそう思っているだけで、竜次郎がいいというのであればそれに従う事の方が大切かもしれない……。
葛藤していると、ぽんと頭に乗った手が、髪の毛をくしゃくしゃにした。
「……悪かった。少し、寝ぼけてたんだ」
夢の続きみてえで、つい。と謝った竜次郎は、湊を気遣って折れてくれたようだ。
それを受けて湊も、また一人で思いつめてしまったことを反省した。
「まあ、俺も……嬉しかったから責める筋合いではないけど」
ひとまず起きるのをやめて、心地よい場所に身を委ねる。
「……どうせ寝坊なら、もっと酒宴に参加しとけばよかった」
自分があの場にいたかったというのもあるが、湊のために早く切り上げてきてくれたであろう竜次郎のことを考えると、そんな言葉がこぼれ出ていた。
「惜しむまでもなく、またすぐ機会があんだろ」
優しい声とともに大きな手が頭を撫でて、心地よさに目を細める。
ともすれば再び眠ってしまいそうで、雑談を続けることにした。
「そういえば……竜次郎が寝ぼけるなんて、珍しいね?」
竜次郎が朝起きられずにごろごろしているところというのはあまり見ない。
湊が起きれば起きだし、夜は半分寝ている湊を丸洗いしてから眠ることが多い。また就寝してからも、トラブルだとかで出ていくこともある。
寝起きが悪いというというイメージはなかった。
「夜のお仕事の人なのに」
「グースカ寝てたら身包み剥がれちまうだろ」
「……そんな危険が」
「あー、いや、俺自身はそういう事態になったことはねえが、そんな風に育てられたってだけだ」
心配で寄った眉間に、宥めるようなキスが降る。
育てられたということは、育てた金の時代には、そういう危ないことがあったのだろうか。
「お前も睡眠時間はそんなに長くねえよな」
「そう?……俺も習慣かな。実家では、あんまりよく眠れなかったから……」
義父のことや母の不規則な帰宅など、不安なことが多く、眠りが浅かった自覚はある。
湊の家庭環境を思い出し、何となく察したのだろう。今度は竜次郎が眉を寄せる番だった。
「でも、竜次郎と会ってからはよく眠れるようになったんだよ」
……実家を出てから再会するまでは、やはりあまりよく眠れない日も多かったが。
それでも、昔の話なのだ。
竜次郎が気を遣う必要は一つもない。
「竜次郎がいてくれると、安心するから」
お手数をお掛けします、と腕の中で頭を下げる。
相変わらず、愛がヘビーで申し訳ないけれど。
「馬ー鹿」
「わ……!」
優しい罵倒とともに体勢を入れ替えられて、驚く。
竜次郎に体重を預けて乗っかるような格好になって、重いのではないかと反射的に起き上がろうとするのを、回された両腕が阻んだ。
「全然足りねえんだよ。もっと甘えろ」
背中から後頭部へと移動した手の動きに促され、少し伸びあがり唇を重ねる。
軽く触れて、引こうとした頭を今度は強引に引き寄せ、固定して深く貪られた。
舌を誘い出され煽るように甘く噛まれただけで、情事の余韻を引きずる体は熱くなってしまい、慌てて離れようともがいた。
「さ、さすがに起きないと」
このままでは、今日という日をこの場所で終わらせてしまいそうで。
それは湊にとって非常に幸せなことでもあるので、ありったけの自制心と克己心でもって布団から出ようとしているというのに、清く正しく規則正しく生きることに特に価値を見出していない道を極めるフリーダムなご家業の男は、なけなしの努力を根こそぎ奪っていく。
「りゅ、竜次郎……っあ……!」
尻を掴んだ手が男の腹にこすりつけるようにして前後に揺らし、前に与えられる刺激と、性交を思い出させるいやらしい動作に、湊は甘い声を上げて、たまらず縋り付く。
「りゅうじろ……」
視線を上げると、竜次郎がニヤリと官能的に口角を上げるのが見えて、湊は呆気なく陥落した。
「……………………い、一回だけ……ね」
10
あなたにおすすめの小説
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
発情期のタイムリミット
なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。
抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック!
「絶対に赤点は取れない!」
「発情期なんて気合で乗り越える!」
そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。
だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。
「俺に頼れって言ってんのに」
「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」
試験か、発情期か。
ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――!
ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。
*一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる