溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ

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極道とウサギの甘いその後+サイドストーリー

極道とウサギの甘いその後4-10

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 あれは、久世が二度目に指名してくれたときだったと思う。

「お前は飲んでも顔色が変わらないんだな」

 ささやかな乾杯の後、久世にそんなようなことを言われて、湊は初めて自分とアルコールについて考えた。
 酒を飲める年齢になってまだ日は浅かったが、確かにアルコールを摂取しても、『ふわふわするような』とか『呂律が回らない』というような感覚を味わったことはなかった。
 しかし、酔っぱらいは自分が酔っていることがわからないともいう。
 自分もそういうことなのかなと思っていたので、首を傾げて聞き返した。
「そう……なんですか?」
「わからないなら飲み比べしないか?俺もお前の酒量に興味があるんだ。もしお前が勝ったら、酒にまつわる俺の秘密を教えてやるよ」
 ニヤリと挑発されて、湊は受けるべきかどうかを思案した。
 飲み比べで酒をたくさん消費すれば売り上げになるが、それを負担させるのもフェアではない気がする。
「じゃあ、俺が負けたら、今日のお代金はいただきせん」
 湊の賭けるものを聞いて意表を突かれたように固まった久世は、すぐに面白そうな顔になって「乗った」と言ってきた。

 結論から言うと、勝ったのは湊だ。
 テキーラをショットで交互に呷っていくというルールにしたのは、長くなると席料もかかるのでできるだけ早く勝負がつくようにという気遣いだったのだが、どちらかが酒に弱かったら危険な飲み方だったと今は思う。
 まだ飲めそうだけどお腹がいっぱいになってきたなと思いながら、三本目を飲み始めたあたりで、久世はギブアップした。
 歩いて帰ることができないほど酔い潰してしまって、店長にとても怒られたことを覚えている。
 接客が少し楽しくなりはじめた時期で、今思えば調子に乗っていたかもしれない。恥ずかしい。

 次に店にやってきたとき、久世は約束通り秘密を教えてくれた。
 それは、甘い炭酸で割ったカクテルが好きだということ。
 『自由』の名の付くキューバ・リブレは、久世に似合っている気がして、彼との最初の乾杯はそれを頼むのが習慣になった。
 それからも、内側のこともよく知る久世からは、色々なことを学んだ。
 オーナーや店長、副店長と並んで湊の恩人だ。
 彼の傍にいれば、鈴鹿ももっと素敵な人になるだろう。鈴鹿の成長は、職場の先輩として湊も楽しみにしている。


 テキーラで飲み比べをしたのだと説明すると、鈴鹿はとても驚いたようだ。
「桜峰さん、それ勝ったって、ほんとのほんとですか?この飲んだくれより強いって」
 残念ながら俺の完敗だった、と久世が頷く。
「こいつは強いとかそういうレベルじゃないぞ。ザルどころか輪っかだ」
「わっか?」
「ザルほどの引っ掛かりすらもないってことだ」
「ええ……」
 俺なんかカクテル一杯でいい気分なんですけど……と鈴鹿は人ならざるものを見つめる目でこちらを見ている。

「うーん……俺はそんなに強いんですか?」
「テキーラ一本空けてまったく酔わない奴は強いって言って差し支えないだろ。記憶が飛んだことは?」
「ないですけど、久世様と飲み比べをしたときより量を飲んだこともないです……あっ、すみません引き留めちゃって。食事の時間なくなっちゃいますよね」
 話し込んでいたことに気付き時計を見ると、だいぶ時間が経ってしまっていた。
 慌てて促せば、久世も腕時計を確認して頷く。
「そうだったな。行くぞ万里。史上最高の肉じゃがが俺たちを待ってる」
「俺が七、あんたが三くらいの割合で盛ってもらうから」
「いや、俺の方が身長が高いから、比率は逆だろう」
「いやいや、あんたは俺より年齢が高いから、食べ盛りの俺が多いほうが正しい……」

 仲よくバックヤードを出ていく二人を見送ると、湊は洗面所で顔を洗い、ロッカールームで手早く着替えを済ませた。
 身支度を整えながらのぞいた鏡に映る自分は、笑顔を作ればちゃんと笑えている。
 職場の仲間のお陰で、すっかり元気になっていた。
 やはり、『SILENT BLUE』は素晴らしい場所だ。

 リラックスしたお陰だろうか、不意に、ひとつ試してみたいことを思いついて、湊はどう実行に移そうかと思案し始めた。
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