氷翼の天使—再び動き出した時間の中で未来に可能性を見出せるのだろうか―

物部妖狐

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第一章 目覚めたらそこは……

4話 お伽噺と翼の消し方

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 味覚を失っている件については正直今は気にしない事にする、一時的なものかもしれないから騒ぐ必要も無いだろう……。
一応だがあの後食事を取った後に改めて街に降りた後の事を話し合った結果、明日になったら全員に冒険者ギルドに向かい登録する事になり、翌日に備えて休息をする事にした。
そして……今はと言うと

「皆ここが街だよ、名前は分からないけど結構大きいと思わない?」
「……確かに結構大きい、私達の生きていた時代にはこんな大きい街は無かった」
「ふん、弱者が集まって大きくなっただけだろ?ミコト、早く冒険者ギルドに連れて行け」
「待ってよシュラ兄、折角皆が起きたんだから少しだけ街中を回ろうよ」
「そんなもの、冒険者登録とやらをやった後でも出来るだろ」

 ミコトは少しだけ寂しそうな顔をすると私達を冒険者ギルドに連れて行ってくれる。
これは登録が済んだ後に沢山甘やかしてやるべきかもしれないな……、それにして向かう道中の私達の姿を街の住人達が見て来るがそこまで目立つのだろうか。
何というか化物を見るかのような視線が差さって来て正直心地が良い物ではないのだが……。

「おい、そこの翼を出してる集団ちょっとこっち来いこっち!」
「……私達の事か?」

 向かう最中に何者かが建物の影から声を掛けて来る。
翼を出している集団、そう言えばミコト以外は私もそうだが全員翼を出しているがそれがどうしたというのか。

「あんた達以外に何処にいんだよっ!、あぁもういいから来いっ!」
「お前が来たらどうだ?弱者が偉そうに俺に指図をするな」
(シュラ……、そういうのダメもっと人に優しくして)
「優しくして欲しいなら俺と同じ位に強くなる事だな」
「……ん?、あんた何独り言言ってんだ?、あぁもしかして俺が人族に見えて警戒してんのか、ちょっと待ってろ」

 話しかけて来た男が出て来て背中から天族特有の翼を出現させると、何故か私の腕を掴んで建物の裏に引っ張って行く。
たまたま私が近くにいたからだろうけど、正直見ず知らずの存在に強引に動かされるのは良い気がしない。
だが翼を隠す方法があるのなら話を聞いた方がいいのは確かだ。

「……街に溶け込む以上はこいつから話を聞いた方がいいかもしれない、シュラ文句を言わずについて来い」
「……いいだろう」
「それなら私はここで待ってるよ、兄貴達は話を聞いて来て」
(うん、ミコトちゃん一人だからって寂しくて泣かないでね?)
「内容は分からないけど……、僕だけでも出来る限り直ぐ帰って来るよ」

 ミコトが顔を真っ赤にして『いいから早く行って来てっ!』と言うが、道を行く人達から注目を集めるだけだ。
これはレイスの言うように出来る限り早く戻った方がいいだろう。

「……で、貴様は私達に声を掛けた以上は何かしら用があるのだろう?」
「用があるも何も、天族は翼を隠しているのが普通なのに何やってんだよ……」
「そのような物が普通だと?、何時から天族は自分を隠すようになった……弱小種族と同じ姿をするとは今の時代の天族は愚かだな」
(シュラ……、あなたは少しだけ黙ってて?話が続かなくなるから)
「な、セツナ……、しょうがない黙っていてやるから早くしろ」

 セスカとレイスは黙って話を聞いているのにシュラは何をしているのか……。
正直この時代がいつかは分からない以上は、今を生きる同族の助言を聞いた方が良いというのに態々相手を下に見て高圧的な態度を取る必要はないだろう。

「……すまないな、私達はつい先ほど目覚めたばかりでこの時代の事を良く分かっていない」
「だから悪いのだけれど、この世界を事を教えてくれないかしら?」
「目覚めたばかりってあんたら何言ってんだ……?まるでお伽噺に出て来る純血の天族みたいな事を」
「お伽噺……?僕達は確かに混血ではないけどそれがどうかしたのかい?」
「……まじかよ、うわぁ初めて見た」

 凄い珍しい物を見たと言わんばかりに私達全員を見るとセツナの翼を見て動きが止まる。
もしかしてだが……、背中から生えている機械の翼が珍しいのかもしれない。

「山吹色の翼に緋色の翼、そして氷の翼に石で出来た翼……、そして機械の翼ってまさかだけど六大天使とかっていう、お伽噺の時代に居たとかっていう神の使いだったり?」
「確かに私達は六大天使と呼ばれてはいたが……、お伽噺とはどういう事だ?」
「あぁ、えぇ……?まじで?、うわぁ昔の天族って死んでも暫くしたら生き返るって聞いてたけどほんとだったんだ……、すっげぇ」
「……感動している所で悪いがお伽噺とはどういう事だ?良かったら教えて欲しい」
「お、おぉ……、あんたら本当に何も知らないんだな、それなら俺の覚えてるで範囲でだけど……」

 そうしてお伽噺となっている過去の大戦の事を話してくれるが、どうやら私達の生きていた時代から数百年も経過しているらしく。
当時この世界を支配していた神々を滅ぼした三人の英雄の手により、世界が神の手を離れ人の物になったらしいが、正直聞いても何も思い出せる事が無い。
取り合えず英雄に協力した六大天使は大戦が終わった後役目を終えて永い眠りに付き、魔族の妖狐と獅子は世界の復興の為に尽くし現代では獣人族という立場を得た事は分かった。
だが実際は……、役目を終えたのではなく命を奪われたのだが、数百年も経過している事を正しく伝えろと言うのは無理があるだろう。
それに三英雄の内の二人はどうやら今も生きているらしい、という事はその二人に会う事が出来るのなら失った記憶を取り戻す事が出来るかもしれない。

(……私達凄い沢山寝ちゃってたんだね)
「そうね、道理で見た事無い街が出来ていたりするのも納得出来たわ」
「一つ気になるのだが、ならどうして私達は翼を隠さねばならない?」
「あんたらが長い眠りに付いた後、何が起きたのか分からないんだけど天族が三英雄と敵対したらしいけど、結果的に惨敗してそれ以降翼を隠して生きるようになったんだよ、それ以降数が減った俺達は人化の術という魔族が考えた術を使って体を人族に近づけて、人族と交配する事で翼を無くして世界に溶け込んで行ったんだよ」
「という事は純血の私達も人化の術を使う事で翼を隠せると?」

 その理屈なら人化の術を使う事で問題無くこの時代に溶け込める筈だ。
……ただ、そうなると疑問なのだがミコトはその術を使っていたように見えない、という事は他にやり方があるのかもしれない。

「いや……、純血種は翼を魔力に変換して消す事が出来ると聞いた事があるけど、あんたらは出来ないのか?」
(……魔力に変えて消す?、それなら何でこの人は翼が出せているの?)
「それなら何であなたは翼があるの?」
「これは混血の中でも天族の血が濃い奴だけ、自分の魔力を使って翼を取り戻す事が出来るんだよ、消す時はこうやって翼を中に折りたたむようにイメージすると……」

 背中から生えていた翼が体内に収まるように折りたたまれて行き消えてしまう。
……あぁ成程、これなら応用すれば私にも出来そうだ。

「なるほどイメージか……、それなら翼を周囲に溶け込ませるようにすれば」
「イフリーゼの氷の翼が溶けて消えていく……?」
「出来たようだな、思ったより簡単だからやってみろ」
「なるほど、感覚で出来てしまう辺り君らしいよね……、口で言うよりも感覚を共有してよ」
「ん?あぁ……そうだな」

 翼を背中から生やすイメージをすると周囲の水分が集まり氷の翼が産まれ、消すように想像すると水に変わり溶けて消える。
それを何度か感覚を共有して見せている間にセツナ以外コツを掴んだのか、セスカは背中の翼を炎に変換し、レイスの翼は砂になって消え、シュラの翼は光に溶けるように姿を消した。

「セツナはどうだ……?」
(私の翼は……、消せないみたい機械だから?)
「機械の翼だけ消えてないみたいだけどどうしたんだ?」
「消せないみたいセツナの翼だけ特別で……、生まれつき翼が無かったから私とセスカの能力を合わせた作り物なのよ」
「あぁ、それを魔力に変換しろって言われても無理があるよなぁ……、これは俺が悪かったわ」

……そう言って頭を下げる現代の同族を見て悪い奴じゃないみたいだなと思っていると『取り合えず俺の伝えたかったのはこれ位だけど……、結構時間かけちゃったが大丈夫かあんたら』と心配げに声を掛けて来る。
確かにすっかり時間を忘れてお伽噺の事を聞いたりとしてしまい、ミコトの事を忘れてしまっていた。
彼に礼を言いながら急いでミコトの元へ戻ると、不機嫌な顔をして待っている彼女の姿があるのだった。
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