氷翼の天使—再び動き出した時間の中で未来に可能性を見出せるのだろうか―

物部妖狐

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第一章 目覚めたらそこは……

12話 昇格試験への案内

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 あの後、他に目ぼしい人物が居なかったと言うことで合流したセツナと三人で待つが、その間も特に何事も無く時が過ぎる。
暫くして呼ばれた私達は職員のいる受付へと向かい、常駐依頼になっているゴブリンと採取した薬草を取り出して見せたまでは良かったのだが……

「こ、こんなに沢山……!?冒険者になりたての方だと返り討ちに会う事が多いのにどうやったんですか!?」
「……どうやったって、えっと」
「あぁ、それならパーティ全員でゴブリンを探していたところ、たまたま見つけた一匹が巣穴のような物に入るのを見つけてな……、危険かと思ったが全員で入って討伐した訳だ」
「うん、兄貴の言う通りでたまたま運が良かったみたいでね?」

 その言葉を聞いた瞬間、職員の顔色が変わると……

「それでここまで大量の耳を?……少々お待ちください、上の者に確認しなければいけない事が出来ましたので離れさせて頂きます」

 と言って立ち上がりギルドの奥へと消えてしまう。
……ゴブリン程度の雑魚に何をそんな焦っているのか、それともこの時代の冒険者になりたての人物と言うのはあれすら倒せない程に弱いのかもしれない。

(兄貴……もしかして何かやっちゃったのかな)
(どうだろうな、私も今一理解が出来ていない)
(リーゼちゃん、ミコトちゃん、えっと多分なんだけど、あの受付の人は大量のゴブリンの耳を見て驚いたんじゃないかな?、ほら冒険者になりたての人だと返り討ちにあう事が多いって言ってたでしょ?それなのに沢山狩って来たから驚いちゃったのかも)
(……なるほど)

 そこまで驚く程では無いだろうに、私達が生きて来た時代ではあの程度はただ数が多いだけの雑兵でしかなかった。
辛うじて物事を考え実行する知能があるだけで、それ以外は繁殖という本能に従うしか脳が無い存在でしかない。

(だがそれと巣穴に何の関係があるんだ?)
(えっと、多分なんだけどさ兄貴……ゴブリンって他種族の女性を使って数が増えるから、ここまでの数が入れる巣穴があるって事はもし人が連れ込まれて繁殖に使われて居る可能性があるってなったらこうなるんじゃない?)
(うん、ミコトちゃんの想像は間違えて無いと思う、リーゼちゃんの説明は良くなかったかも……だから受付の人が戻って来て巣の場所を聞かれたら、戦闘時に崩れた事にした方がいいと思うな)
(……そうしよう)

 今の光景は周囲の冒険者からしたら異様な光景に見えるだろう。
三人で見つめ合って無言でうなづいたり表情がころころと変わる、どう見ても怪しいし、受付の職員が急いで何処かへと行ってしまったという状況はどう見ても異常だ。
それに……、低ランク用冒険者の受付で複数あるとはいえ何時までもその一つを占領しているのはどう見ても状況的に良くない、冒険者になったばかりの新参が目立ちすぎるのはまずいのではないか?、私は別に良いがミコトやセツナに何かがあった場合冷静でいられる自信がない。

「……大変お待たせいたしました」
「問題無い、それよりも確認したい事とやらは済んだのか?」
「はい、此度の件をギルド長に確認したところ提出されたゴブリンの耳の数から判断し、とても広大な巣である事と判断出来たので、可能であれば場所を教えて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」
「場所か……」
「それなら私達が戦闘をしている最中に崩れちゃって……」

 戻って来た職員が地図を広げながら聞いて来たが、私達の反応を見て困ったかのように固まってしまう。
とは言え場所を聴こうとしたら、崩れてしまったありません何て言われたら当然だろう……、とは言え実際にゴブリンが住み着きそうな洞窟はあるが、そこは私達が拠点として使う予定だからこれに関しては黙っていた方が良い。
仮に正直に答えて周囲を探られたらめんどくさい事になりそうだ。

「……残念ですが、実際に狩って来た方達が言うのでしたら事実なのでしょう、一応確認なのですが巣の中に女性が捕らわれていたりとかはしましたか?」
「いや、そのような者はいなかったな……とは言え、もし私達が気付いていないだけだったと場合申し訳ないが……」
「いえ、問題ありません、優秀な冒険者は生存を優先するものですから、むしろ良く生きて戻って来てくれました……、ところでそこの人はずっと黙ったままですがどうかしたのですか?」
「病で声が出せなくなってしまってな、出来れば気にしないで貰えると助かる」
「なるほどそうでしたか、気遣いが足りず申し訳ございません……ではお話はこれ位にして報酬の話になるのですが」

 職員は受付のテーブルの上に大量の硬貨の入った袋を置くと、更に書類を私達へと手渡して来る。
いったいこれは何なのだろうかと眼を通すと……

「ギルド長からあなた達パーティ全員に、実力が高い者達を何時までも低ランクに居させるわけにはいかないから、例外としてDランク冒険者への昇格試験を受けさせるという事になりまして……、この書類はパーティの方達を含めた全員分の昇格試験への案内です、書類に記載されている日付にて試験を行いますので宜しくお願い致します」

……そう言って私達に頭を下げ『では、報酬の件については以上となります……、そして此度のやり取りは冒険者ギルドの受付に備え付けられている魔導具の効果により録音され、そして会話の内容は外部に聞こえないようになっておりますのでご安心ください』と言葉にすると、受付に置かれているベルを鳴らし次の冒険者の名を呼ぶ。
多分だが、あの音で魔導具とやらの効果のオンオフを切り替えているのだろう。
そう思いながら私達は受付から離れると宿を探すのだった。
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