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第一章 目覚めたらそこは……

11話 先輩冒険者とミコトの異常

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 ライとハスと名乗った目の前の二人がそこまで強いとは思わなかった。
現にこうやって話していても強者特有の気配が無い……、もしかしてだが何らかの方法で実力を隠しているのかもしれない。
その可能性を考えると警戒してしまうが、相手に悟られる可能性を考えたら深く考えない方が良いだろう。

「しかし聖女ちゃん達は冒険者になったばかりだって言うし、何か困った事があったら俺達がいつでも相談に乗るから頼ってくれよ?」
「……あぁ、その時は頼らせて貰う」
「おぅっ!ライもいいよな?先輩としてしっかりと後輩の面倒を見るのは大事だってお前も言ってたろ?」
「確かにそうだが……、初対面の我々にいきなりこうやって距離を詰められるのは良くないと思う、確かに上のランクの冒険者が下の者の面倒を見るのは大事だが、相手の事を考えないと――」
「だぁもう、そんな難しい事考えんなって!、俺達がこいつらを助けたいっ!相談に乗ってやりてぇって思ったら感情のままに動けばいいじゃねぇかよっ!それにイフリーゼも頼るって言ってんだからそれでいいじゃんかよ、なぁ?お前もそう思うだろ?」

 ハスと言う男とやり取りすると良い奴だとは思うが、個人的には苦手な性格をしている。
こうやって自分の感情に任せて動く人間は戦場だと危険な事が多いから、もしパーティを組む事があったらミコトの身は私がしっかりと守らなくてはいけないと思うが、世話を焼くのが好きなようだから利用するだけ利用されて貰う事にする。
逆にライの方は慎重な性格のようで、こちらとの距離感を考えて悩んでいるようだが……こういう性格の持ち主は友好関係を築く事が出来れば、何かしらのトラブルに見舞われた際に率先して力を貸してくれるだろう。
……考えれば考える程、相性が悪そうな二人がどうして組んでいるのか分からないが、対極であるからこそ上手く行っている部分があるかもしれない。

(兄貴、そんな初対面の人に頼る何て言って大丈夫なの?、弱みとか握られたら危なくない?)
(……弱み等幾らでも握らせたらいい、その程度で身の危険に晒されると言うのなら私達がこの時代において弱者だったという事だ)
(そうなんだ……、なら二人とのやり取りは兄貴に任せていい?、正直人の顔を覚えられる自信がなくて、ほら私達と違って皆同じ顔してるように見えるしさ……)
(顔の特徴や髪色が違うから見分けが付くと思うが……それに以前なら顔の見分けが出来ただろう?)

 私の記憶違いで無ければ人の顔を見分けられていた筈なのに、何故か今は同じ顔に見える……もしやと思うが、私の味覚やセツナが言葉を話す事が出来なくなったようにミコトにも何らかの異常が出ている可能性がある。

(……もしかしてだがミコト、顔が認識出来ないのか?)
(え?……あぁ、いやそんな事ないよ?)
(誤魔化すようないい方をするな……何時からだ?何時から分からくなった)
(目を覚ました時からかな……、あ、でも兄貴達の顔はちゃんと分かるよっ!それにこの時代の人達の容姿も完全に分からない訳じゃなくて、顔全体を見ようとするとぼやけて入らないけど鼻や目のパーツだけなら認識出来るから頑張れば何とか見分けられるかもしれないし……、いや、ごめんこれは嘘、本当は顔のパーツもぼやけて分からない、だから一応相手の魔力の波長で頑張れば見分けが付くだろうけど……難しくて)
(……そうか、ならその事に関しては私の中だけにしまっておく、ミコトはいつも通りにしていろ、貴様が出来ない所は私が補えばいい、その為の私達だろう?)

 頭の中で会話をしながら、ライ達との会話を続けて行くが確かにミコトは一生懸命二人の顔を見て話そうとしているが、声以外では誰か分かっていないようだ。

「――って事でさ、イフリーゼって言ったっけ?後聖女ちゃ……じゃなくてミコトちゃんっ!二人がDランクになったら一度教えてくれよ、俺達はこの街に住んでるから割と融通利くし」
「その時はこの街の中央に栄花騎士団の本部と貴族が住む区画があるから、そこにある俺の屋敷を訪ねてくれ、……そうだな、周辺を警護している者にこのハンカチを見せてライを訪ねに来たと言えば俺の住んでいる屋敷を教えてくれる筈だ」
「なるほど、有難く受け取っておく、その時は世話になると思うが……尋ねたら何をしてくれるんだ?」
「何をってそりゃあ、なぁ?ライ、あれだよなあれ」
「……あれじゃ分からないだろ、すまない、ハスが言いたいのは二人がDランクになったら昇格祝いをしようって事だな、ここで会ったのも何かの縁だろう、出来れば無事生き延びてくれる事を祈る」

……そう言ってハンカチを手渡して来たかと思うと何故か私の手を取って握手をしてくる。
何故二人はこんなに私達に気を使ってくれるのだろうかと警戒をしてしまうが、使える者は使った方が良い。
そう思っていると二人の順番が来たのか呼ばれるとハスがこちらを見て『んじゃっ!また今度なっ!』と言うと受付へと向かって行く。
という事は後少しでこちらの番かと思っていると、少し前に見た緑色の髪の女性が歩いて来てすれ違い様に『……次からは値踏みするような見方はやめてよね、不快だから』と言って去って行くのだった。
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