氷翼の天使—再び動き出した時間の中で未来に可能性を見出せるのだろうか―

物部妖狐

文字の大きさ
16 / 23
第一章 目覚めたらそこは……

15話 不釣り合いな宿の部屋で

しおりを挟む
 宿に入るとキクが低ランク冒険者用の部屋を取って案内してくれ、今はそこで座って休んでいるが……

「低ランクって言う割に広い部屋だな……、冒険者になりたての者はこんなに良い部屋で泊まれるのか」
「兄貴もやっぱり疑問に思う?私もさ、複数人用で休む部屋ってあったから足が延ばせない位に狭いのかなって思ったんだけど……」
(もしかしてキクちゃんが気を遣ってくれたのかも?優しい子でお姉ちゃん嬉しいな)

 冒険者ギルドで見たEランク冒険者達の姿を見ると、到底このような広い部屋に泊まれる程の稼ぎがあるとは思えない。
正直そこまで収入が良いのなら、ライやハスのように服装などの見た目に気を使ったり……それ以外にも自身の使う武器の手入れ等に時間を使うだろう。
その中で余った金額を使い宿を取ると言うのなら分かるが……、低ランクとなるとやはり難しいだろう、という事はやはり気を遣われた可能性がある。

「……何故気を遣われたのか気になるな」
(リーゼちゃん、多分だけど……ミコトちゃんが色んな人達の怪我を治して来たのが理由じゃないかなって思うの、そのお礼に良いお部屋を貸してくれたのかなぁって)
「セツ姉、それは無いと思うよ?だって私お金ちゃんと貰ってたしさ」
「……誰かが来たみたいだ、少しだけ私と二人で話している振りをしろ」

 部屋の外に意識を向けると床が軋む音がする。
とは言え不快という訳ではなく、敢えて音が鳴る様に細工をされているような手の込んだ感じだ。
そう思っていると部屋の扉がゆっくりと開き、見覚えのある女性が入って来た。

「セツナは喋れない筈なのに、まるで何を言ってるのか分かるかのようにやり取りをするのね、やっぱり家族だから言葉が話せなくても分かったりするのね……羨ましいわ」
「聞き耳を立てていたのか?」
「いえ、耳が特別良いだけよ、だから室内の声が聞こえてしまうの」
「……それでは安心して話を出来やしないな」
「宿泊者の秘密は絶対に外には漏らさないわ、守秘義務は守るから安心してちょうだい……それよりも一つ言いかしら?」

 眼を鋭くして私達の方を見ると足を指差して……

「外の国から来た人には分からないかもしれないけど、この国では宿泊施設の室内や個人の家に入る際は靴を脱ぐ決まりがあるの、床が汚れるから直ぐに脱いでちょうだい」
「そのような決まりがあるのなら、部屋に案内された時に言って欲しかったかも……」
「そ、それは……言い忘れてたのよ、ミコトちゃんごめんね?……正直何回かこの街に訪れてるミコトちゃんなら知ってると思ってたの」
「ほら、私は治療のお礼に貰ったお金で食料を買いに来てただけだから、家に入ったりとかする事無かったし……」
「……だよね、私ってばいつもこうなの一度思い込んじゃったらダメでね」

 そう言って小さく笑うけど、まずはその両手で持っているトレイを降ろした方が良い気がするのは気のせいかと思うがこれは触れた方がいいのだろうか。
折角ミコトに友達が出来たのに楽しそうに話してる所を止めるのは良くない気がするが、取り合えず今は靴を脱いでキクに指定された木で出来た棚に置く。

(もうキクちゃんったら、手に重そうなの持ってるのに立ち話なんかしたら疲れちゃうよ?)
「あれ?セツナどうしたの?」
(それ私が持つからちょうだい?)
「え?これが欲しいの?ってちょっと待って今テーブルに置くから大丈夫」

 靴を脱いだセツナが立ち上がって床に着いた汚れを、能力を使用して綺麗に消しながらキクに近付くとトレイをキクから受け取ろうとして近づく。
それに気付いてテーブルの上に置くと、飲み物が入っているだろう陶器を4個並べて、何故かその場に座る。

「……何故座る?」
「何故ってあなた達とお話をしたいなと思って、飲み物を持って来たんだけど?……もしかして嫌だった?」
「……嫌ではないが」

 返事を待つ前にその場に座って既に寛ぐのはどうかと思うが、まぁ気にしすぎない方がいいだろう。

「ありがとう、なら寛がせて貰うわね」
「へぇ……、ふぅーん」
「ん?ミコトちゃんどうしたの?」
「えっと、二人って相性良さそうだなぁって思って」
「え?何言ってるの!?ミコトちゃん」

 本当に何を言ってるんだ。
それにキクも何故そんなに顔を赤くしているのか、これではまるで私に対してそういう気があるみたいに見えるから止めて欲しい。

「……ミコト、貴様は何を言ってるんだ?」
「そうよミコトちゃん、誰がこんな初対面で人の事じろじろと嫌らしい目で見て来るような人と相性が良いものですか!」
「それについてはすまないと反省しているが、過去の事を気にし過ぎるのは良くないと思うのだが?」
「過去の事ってあなたねぇっ!ほんの少しの事を直ぐに過去に何て出来るわけないでしょ?」
「ならなんでそんな私達に宿を貴様は紹介してくれたんだ?しかもこんな明らかに低ランク用ではない部屋を……」

……私の問いかけに顔を真っ赤にしたまま俯くと、暫くして『だって、冒険者に良くしてくれたミコトちゃんだけじゃなくて、自分の国が無くなっちゃって辛い思いをしてる人達がいたら優しくしてあげたいじゃない』とぼそぼそと小さな声で口にするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...