氷翼の天使—再び動き出した時間の中で未来に可能性を見出せるのだろうか―

物部妖狐

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第一章 目覚めたらそこは……

第22話 どうすればいいのか

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 再び宿に戻った私達は部屋を取ろうとしたが……

「イフリーゼ御一行様ですよね?、それでしたらこちらをご利用なさる時はこちらの部屋を使うようにキク様より申しつけられております」
「それはどういう事だ?」
「どういう事かと言われましても、私は上からの言伝をお伝えしているだけなので……」

 というやり取りの後、再びあの部屋に戻って来たけれど、どうしてキクは私達を特別扱いするような事をしたのだろうか。
色々と考えてはみたけれど、これと言って答えがでてくることは無い。
ただ、それ以上に大きな問題が起きている以上、この好意は大人しく受け取った方がいいのだろう。
現に、ミコトは家族を喪ったショックから精神的に不安定になっている。
この状況でゆっくりと休める個室を使わせて貰えるのは、助かるとしか言いようが無い。

「あ、またこの部屋なんだ」
「さっき受付で案内されたろ?」
「……ごめん、聞いてなかった」
「……そうか」

 とはいえ、宿に着いたはいいが……この後、私達は何をどうしたらいいのだろうか。
冒険者として、昇格試験を受ける準備をするべきか、だがそれだと先程の悲惨な出来事が解決しないだろう。
それとも現場をもう一度確認する為に戻るか?、だが……もしそれで三人を殺せる程の実力を持つモンスターに遭遇してしまった場合、私一人ではどうしようもない。

(リーゼちゃん、これからどうする?)
「……私は取り合えず、一回宿を出て外に行く」
「外にって、兄貴まで何かあったらどうするの?お願いだから何処にもいかないで、ここにいてよ」
「そうしたい気持ちは山々だが、こうなった以上私達今ここで何が出来るのかを見極めなければいけないからな……分かってくれ」

 ミコトの事だ、こんな事を言ったら逆上するだろう。
けどそうなると分かっていても、言わないといけない時もある……それにだ、手が付けられなくなったら、セツナの能力で意識を無くして、無理矢理にでも休ませた方がいい。
今は冷静な判断が出来なかったとしても、暫くして頭が冷えて冷静さを取り戻せば問題ない筈だ。

「でもっ!それで兄貴までいなくなったら!?私とセツ姉はどうすればいいの!?」
(ミコトちゃん落ち着いて!大丈夫だから!)
「でも……でもっ!」
(……セツナ、頼む、ミコトを眠らせてやってくれ)
(……うん、でも後で怒られてもしらないよ?)

 確かに目を覚ました後、私の顔を見たら怒られるかもしれないが、それ位なら甘んじて受け入れよう。
そう思いながら無言で頷くと、セツナがミコトを優しく抱きしめる。

「え?セツ姉、急にどうしたの!?」
(……ごめんね?ミコトちゃん)
「え?……あ……」

 すると、先程まで興奮して手が付けられない状態になっていたミコトが、人形のように力が抜けると、そっと床に横たわらせる。

(……ん、じゃあ後はお姉ちゃんがミコトちゃんの事見てるから、リーゼちゃん……いってらっしゃい)
「あぁ……出来るだけ早く戻る」
(うん、ちゃんと帰って来てね)
「……分かっている」

 そうして宿の職員に外に出る事を伝えた後、何処に行くか決めずにあてもなく歩き出す。
……とりあえずはミコトの事は、セツナに任せておけばいいだろうし、眼が覚めのも能力で眠らせた以上は、最短でも一日は目を覚まさないだろう。
長かったらどれくらい眠り続けるのかは分からないが、きっと問題無い……筈だ。

「……とはいえ何処に行くべきか、冒険者ギルドに行く理由もとくにない、洞窟に戻るのも危険だ」

 思わず口から独り言が出てしまったのか、すれ違う人に怪訝な顔をされたが、これに関してはしょうがないだろう。
初めてこの街に来た時のように、都合良く天族に出会うなんてことも無い筈だ。
なら……今の私に出来る事は?ここ最近あった事を思い出してみる。
すると……

『その時はこの街の中央に栄花騎士団の本部と貴族が住む区画があるから、そこにある俺の屋敷を訪ねてくれ、……そうだな、周辺を警護している者にこのハンカチを見せてライを訪ねに来たと言えば俺の住んでいる屋敷を教えてくれる筈だ』

 という言葉と共にハンカチを渡して握手をして来た、ライと名乗った落ち着いた雰囲気の金髪碧眼の男と、赤い髪を後ろで束ねて三つ編みにしたハスと名乗った元気が取り柄とでも言いたげな男の二人組とのやり取りを思い出す。

「……確かこの街の中央にある栄花騎士団の本部と貴族が済む区画だったな、行ってみるか」

 とはいえ、街の中央が何処なのかがそもそも分からない。
だからここは道行く人の中から、誰かに話しかけて道を聞いた方がいいだろう。
そう思い誰でもいいから話しかけようとすると

「……ねぇ、あなた何をしてるの?」
「っ!?」
「……聞こえてないのかしら、ねぇ……何をしているの?」

……いったい、いつ背後を取られたのか。
咄嗟に振り向くとそこには、長い前髪で片方の目を隠した赤目で色白の少女が立っていた。
そして……『ねぇ、もしかして……私の言葉が分からない?』と不安げな声で話しかけて来るのだった。
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