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第一章 非日常へ

16話 治癒術師

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 患者の状態を診察用の眼鏡で診る。
意識はなく浅い呼吸を繰り返している……これは早めに処置をしなければ危険だ。
ぼくは長杖を患者に向けてまずは患者の腕に当てる。

「せんせぇ!早く助けてあげてくだせぇ!」
「オラたちの仲間なんだ!頼むよぉ!」

……うるさい、こういう時外野がいる事にとてつもないストレスを感じる。

「申し訳ないのですが……、レース先生が治療している間静かにして貰えますか?」
「けどよぉ……」
「静かに出来ないなら村に帰って待機していてください。レース先生の邪魔です。」
「……分かったよ。せんせぇこいつの事助けてあげてくれ!ぜってぇだぞ!」

 ダートさんがうるさい外野を村に帰るように説得してくれて彼等はおとなしく帰って行く。
この範囲のモンスターは基本的には弱いから一般人でも楽に倒せるから彼等だけでも問題ない。
それにダートさんが見たモンスターの話から習性を考えると獲物が死んだ後にゆっくりと食べるのを好むのだろうし、今も近くに潜んで獲物が死ぬのを待っている筈だ。
そういう意味でも彼等に近くに居られたら邪魔でしかなかった。

「邪魔だと思ったから奴等帰したぜ?……でこいつどうすんだ?」
「こいつじゃなくて患者です……、まずは空間収納から麻酔の瓶を取り出して貰えますか?」
「おっおぅ、これでいいか?」
 
 ダートさんに麻酔の瓶を取り出して貰う。
それを長杖の先端に取り付けると患者の魔力と溶け合わせていく……、治癒術は自身の魔力で相手の魔力と肉体に干渉する学問である為、相手の魔力に波長を合わせる事が出来ればこういう芸当も可能となる。

「ばばぁがやってんの見た事あるけど……、処置が早いな…」

 あの人の弟子なのだからこれくらい出来て当然だ。
本来ならこの麻酔を気体にして吸わせる、静脈に注射する等様々な処置の仕方があるしその方が一般的なのは知っている。
ただその処置よりも、こっちの方が麻酔が回るのが早いからこれでいい。
患者の魔力に麻酔が行き渡り徐々に呼吸が弱くなって行く。
麻酔が効いて来たのが確認出来てから長杖を患者の口に付け酸素の流れを作って体内に酸素が自然と行き渡る道を作った。

「後は……こういうの苦手なら他所を向いていてください。」

 そういうと患者の身体に長杖を当て、意識を集中すると煙を上げている部位に魔力を通して勢いよく切り落とす。
彼女からしたらいきなり気が狂ったように見えるかもしれないが治癒術師ではないから仕方がない。
いきなり患者の腕を切り飛ばしているヤバい人に見えているかもしれないが構わない、それにぼくの眼鏡には診えている。
このままでは毒のせいで切り離した部位から心臓に向けて壊死して行くという結果が、こればっかりは薬だけではどうしようもない。
患部を切り離して体内に回る毒を減らすのが先決だ。

「おまっ!何で腕をっ!」
「すいませんが黙っててくれますか?」

 それにこのまま死んでしまうよりも部位を取り除いて延命した方が良いだろう。
腕はまだ義手とかを付ければ何とかなる。
今は生かす事を専決するべきだ。
切断面から勢いよく血が噴き出る為、急いで長杖に魔力を通して切断面を焼き止血をしつつ骨を削り形を整えて行く。
そして一連の処置の後に患部を清潔な布で縛り上げる。

「これで義手を付けるようになっても問題無く付けられる筈です」
「ばばぁが同じの見た事あるけどよ……。お前ら躊躇いなくやんなよ……」
「それがぼくたちの仕事ですから……」

 ただ今回は大量に血を流し過ぎている。
この村では必要な設備がない為輸血などの処置を行う事が出来ない。
……患者の身体にかかる負担が大きくなる為、あまりやりたくはないけれどこれは必要な処置だろう。
長杖を患者の胸に当てると患者の魔力を血液に変換していく、魔力は体内で生成されるものでイメージ次第ではどのような形にでも出来るからこそ出来る荒業だ。
ただやり過ぎると魔力が欠乏してしまい弱っている患者の様態を悪化させる原因になってしまう。

「………今できる処置は終わりました。」
「ほんと手際が良いなお前」

 処置が終わり緊張の糸が切れたのか体から大量の汗が噴き出す。
何とか間に合って良かった……、後少しでも到着が遅れていたら患者の命は危なかっただろう。

「ぼくにはこれくらいしか出来ませんから……」
「いや、充分すげぇよ?」
「師匠と比べたらぼくはまだ……」

 そう言いながらも上手くできた事に安心して胸をなでおろす。

「あぶねぇっ!避けろっ!」
「っ!」

……頭上に何かが声も上げずに落ちてくる。
治療が終わり気が抜けていたのもあったんだろう……、モンスターの存在を忘れてしまっていた。
患者が生きているのに何故襲ってきたのか疑問に思ったけれど、もしかしたら麻酔の効果で患者の気配が感じられなくなったのを感じて獲物が死んだと錯覚したのかもしれない。
彼女の声を聴いて急いで患者さんを背負い後ろに下がれたからこそぼく自身の命も拾えたのだった。
ただ…ここから先の命を拾えるかは不安しかない。
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