治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第三章 戦う意志と覚悟

18話 闇天の刃 ダート視点

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 レースがジラルド達と行ってしまってから暫く経つけど帰って来ない。
直ぐ終わるって言っていたのに遅くて不安になる。
相手は男性だから彼の事を取られる訳では無いと分かっている筈なのに……どうすればいいのかな。
クロウさんは気付いたら居なくなってるし、コーちゃんは皆が何をしているのか気になるとかであっちに行ってしまったから一人になってしまったからか色々と変な事ばかり考えてしまう。

「……私どうしちゃったんだろ」

 護衛が複数人付く事なんて良くある事なのに気付いたらレースが他の人に取られてしまうんじゃないかと言う考えが浮かんでしまって自分の気持ちを抑えられなくなってしまった。
自分では分かっているのに感情が抑えられない、彼の隣にいるのは私なのに他の人が近くに居るというのが許せないという感情をどうすればいいのか分からなくて困ってしまう。
それに気付いてくれたコーちゃんが私を連れ出してくれて、ジラルドさんとアキラさんの所で皆で話し合ってくれたおかげで落ち着けたけど周りに迷惑をかけてばかりで嫌になる。

「ジラルドさん達が私の気持ちに関してレースと話し合いをしてくれるって言ってくれたけど大丈夫かな……」

 ただ私が異世界から人間である事を二人にも話さなければ行けない事になったのは正直怖かった。
周りに秘密を明かすという事はそれだけレースの耳に入る可能性があるという事で、彼が知った時にどう思うのか嫌われてしまうんじゃないかと思うと怖くなる。
……それに出来れば人伝じゃなくて私からしっかりとレースに伝えたい。

「――い、おーいっ!ダー聞いてるぅ?おーい!」

 誰かが私を呼んでる気がする。
今大事な事を考えてるから邪魔しないで欲しいのに誰だろう。
確かめる為に俯いていた顔を上げると目の前にコーちゃんがいた。

「えっと……どうしたの?」
「ダー、良かったねレースが好意に気付いてくれたよ?だからもうそんなに不安で震えないで大丈夫だよ」

 コーちゃんがそう言うと私の手を両手で優しく包み込んでくれる。
どうやら私は無意識に不安に押しつぶされそうになっていたみたいで……震えていたらしい。
でも、レースが私の気持ちを分かってくれたって言う言葉に泣きそうになる。

「ほうら、そんな泣きそうな顔しないでええんよ?後はレースが勇気を出してくれるまで待っとき?」
「うん……」

 これで彼が私だけの人になってくれるんだろうかと言う変な感情が出て来てしまう。
この気持ちは何なんだろう……。

「ねぇ……コーちゃん、レースがこれで私だけの人になってくれるんじゃないかって言う気持ちがあっておかしくなってしまいそうなの……どうすればいいのかな」
「あぁやっぱり拗らせて来ちゃってるなぁ……、ダーは初恋拗らせやすいタイプやもんねぇ……あんな?この人なら大丈夫だって感じた相手なら信じてあげないと駄目だよ?それにあんたらは上手く行くってうちが保証したるから安心しぃ?だから大丈夫、大丈夫だよぉ」

 コーちゃんが私の事をあやすような声で話しかけながら優しく抱きしめてくれて、ゆっくりと片手で背中をとんとんと叩いてくれる。
確かに言うとおりだ……私が信じたて惹かれた人を信じてあげないでどうするんだろう。
しっかりしないと……

「ダー、落ち着いた?」
「うん……、ありがとうコーちゃん……大好き」
「うちもダーの事大好きだよー、かわいい妹分やからね」

 そういうと二人で笑い合う。
そうだ、私はもうこの世界では一人じゃないから大丈夫だ。
レースがいて、コーちゃんがいる……そしてこれからはジラルドさんもいるしもう独りぼっちじゃない。

「あなたがダートであってる?」

 その時だった、いつの間にかコーちゃんの隣にはまるで染めているかのような程に不自然な黒い髪色で、同じような色の黒いロングコートを着た女性が居た。

「あんた、ダートに何か用なんか?」
「えぇ、とある人にこの町に滞在しているから捕まえて連れてくるように言われて探しに来たのよ……もう一度聞くけど、そこの珍しい髪色をしている子がダート?」

 感情を映し出さない黒い瞳に私の顔を映しながらそう聞いてくれるこの人は誰だろう。
しかも捕まえて連れてくるようにって私は捕らえられるような事をした記憶もないし……、

「あの……私を捕まえるって何かその人に対して失礼な事をしてしまったのですか?」
「それに関しては本人に直接聞けば良いんじゃないかしら?」
「直接って仰られても、誰かもわからない人の所に行きたくないです」
「出来れば手荒な真似はしたくないの……さぁ、一緒に行きましょう?」
「あんた、ちょっと待ちぃや!」

 私の意見に興味が無いと言わんばかりに、いきなり私に向かって魔力の光を灯した手を伸ばして来た彼女の手をコーちゃんが横から叩いて弾いてくれた。

「いきなり表れて捕まえるだの手荒な真似をしたくないだのあんたいったい何なん?……とある人言うくらいやから言えんのやろうけど、せめてあんたの名前くらいは言うたらどうなんよ」
「そうね、確かにあなたの言う通りだわ……ごめんなさいね」

 彼女はそういうと私達から数歩後ろに下がって距離を取ると丁寧に頭を下げて謝罪をする。
……いったいこの人は何なんだろう。
さっきの魔力の光もそうだ、手荒な真似をしたくないと言っているのに何らかの魔術を使おうとしてきたし言ってる事とやってる事があってない。

「私はAランク冒険者の【闇天の刃】ミュカレー」
「なっ!」
「えっ?」

 私とコーちゃんが同時に距離を取る。
ミュカレー……、世界の禁忌を崩す禁忌を犯そうとして冒険者ギルドから冒険者資格を剥奪されて討伐命令が出されていた人物だ。

「どうしたの……?」
「……あんたもう冒険者やないやろ?冒険者ギルドに指名手配されとるの知っとるんやで?」
「こんな辺境の田舎町に知っている人がいるなんて厄介なものね……なら隠さないで言うけど、マスカレイドの研究にダートが必要だという事で捕まえに来たわ。先程言ったように手荒な真似はしたくないのだけれど、抵抗するなら手足全部切り落としてでも連れて行かせて貰うけど構わないわよね?」
「マスカレイドが私を……?」

……どうしてあの人が私を必要としているのか分からないけど、彼の元に行く気は私にはない。
この世界に来た時に色々と面倒を見てくれた恩はあるけど今の私にはレースがいるし何よりも彼の元を離れようとは思わないからコーちゃんと二人で抵抗させて貰おう。
私が指先に魔力の光を灯して抵抗する意思を示すと、コーちゃんも短剣を抜いて構える。
そうしていつ戦いが始まるか分からない緊迫した雰囲気の中で暗示の魔術を使おうとした時だった。
話し合いが終わったのが三人がかまくらの中から出て来たと思うとアキラさんが心器の刀を取り出してミュカレーの名前を叫びながら斬りかかったのだった。
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