治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第三章 戦う意志と覚悟

26話 新たな日々

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 新しい家に帰るとダートが眼を覚ましているようで、コルクと何やら楽しそうに話す声がする。
邪魔したら悪い気がするけど明日の事もあるから部屋に入らせて貰おう。
ドアの前に立つと二人に分かるようにノックをした。

「おっ?レース帰って来たん?ダートなら起きとるよー」
「コーちゃん!?……今顔を見られるの恥ずかしいから待って!?」

 コルクがドアを開けて迎え入れてくれるけど、何やらダートの様子がおかしい。
いったい彼女に何があったのだろうか。

「えっと……ダートどうしたの?」
「な、何でもない!何でもないのっ!ただ……顔を見られるのが恥ずかしいってだけで」
「ごめん、何を言いたいのか良く分からない」

 顔を見られるのが恥ずかしいって言われてもぼくには理由が分からない。
本当にどうしたんだろう。

「えっとな?レース、この家を買った事をダートに伝えてこれから新居で二人暮らしだよって伝えたら色々と考えてしもうたみたいでな?そのせいで意識し過ぎてるだけだから暫くはこうだと思うよ」
「色々考えるとか意識しすぎるとか今迄も一緒に暮らして来たんだから何も変わらないと思うけど……」
「変わるのっ!かーわーるーのーっ!この鈍感男っ!朴念仁っ!」

 朴念仁って……何か酷い言われようだなぁって思うけど、確かに今迄のぼくはそう言われる位に愛想が無かった自覚があるからしょうがないのかもしれない。

「……ダートごめんね?今まで君の気持ちにちゃんと向き合おうとしなかったせいだよね」
「えっ、違うそうじゃ……」
「んー、見てる分には面白いけど話が変な方向に行きそうだからあんたらこれ位で止めときなよ?……レースも何か話したい事があるんやろ?」

 確かにこのままだと話がいつまでも出来ないで朝になりそうだから止めてくれて良かったと思う。

「ありがとう、じゃあ話したい事何だけど明日のうちにあっちの家から必要な物を取ってこようと思うんだけどその時にダートにも来てもらって空間収納を使って欲しいんだ」
「それって直ぐ使ったりするのはある?ほら、私達の家ってキッチンの中とか便利な魔導具が沢山あるからこの家でも使うのかなって」
「確かにそれならここでも使えるね」
「ならちょっと待ってて?今繋げるから」

 繋げる?もしかして空間跳躍で直ぐに取って来るという事だろうか。
もしそうなら今頃アキラさんが使ってるだろうし大変な事になりそうだ。

「今アキラさんに使って貰ってるから跳躍で持って来るなら後にして貰っていいかな」
「今持ってくるわけじゃないよ?コーちゃんにこの家のキッチンの場所を教えて貰ったからそこにある魔導具とあっちの魔導具が置いてある空間を繋ぐ為の穴を予め開けとく感じかな」

 ダートはそういうと指先に魔力を通して空間をなぞるようにして切ると目の前には見た事が無いから分からないけどこの家のキッチンらしい場所が見える。
広さは前の家と比べると倍くらいの大きさがあるし魔導具はそれに合わせた大きさの物があるけど正直数世代前の型落ち品だ。
それなら直ぐにでも交換して使えるようにした方が良いだろう。

「とりあえずこの家のキッチンの座標は記憶したから後は明日あっちの家に行ってこっちと繋げれば直ぐにでも交換できるよ」
「ありがとうダート」
「どういたしまして、そういえばレースとコーちゃんに聞きたいんだけど……私の靴が無いのとどうして二人は素足のままなの?」

 そういえばそこらへんの説明をダートにしてなかった気がする。
聞かれた以上はしっかりと説明をしておいた方がいいかなぁ……

「実は――」

 この家の事を改めて詳しく説明するとダートの顔がどんどん嬉しそうになって行く。
いったい何があったのか……

「ダート、どうしたの?」
「あのね?この世界に来てから玄関で靴を脱いだりする事なんてもう無理だと思ってたから凄い嬉しくて……」
「ダーの居た世界って、栄花に近い所だったんかもしれんね」
「栄花……?行った事無いから知らなかったけどそうだったんだね……、知ってたらこの国を出てそっちに行ってたかも」

 ダートが知らなくて良かったと思う。
もしそうだったらぼくは彼女に出会えなかった気がする。

「でも、あっちに行かなくて良かった……だって」
「だってってどうしたの?」
「栄花に行っていたらレースとコーちゃんに出会えなかったもの」

 そういうとダートは花が咲くような程に明るい笑顔でぼく達の事を見る。
かわいらしい見た目に綺麗な笑顔、思わず顔が赤くなりそうだ。

「ほんっと、ダーは可愛い子やなぁ……、そんな事言われたら感動して泣きそうになる位嬉しくなってまうやんっ!」
「そんな……、だって本当の事だもの」
「ぼくもダートに会えて良かったと思ってるから大丈夫だよ」
「っ!?」
「あんた……そこでそれを言うのはどうなん?」

 ……本当の事なのに何故そんな事を言われているのかぼくには意味が分からない。

「もうっ!そんな事より明日あっちの家に行くんでしょ!私はもう寝るからレースも早く休んでねっ!」

 そういうと顔を真っ赤にしたダートは布団を頭からかぶってしまう。
さっきまで気を失っていたんだから眠くないと思うんだけど……

「んじゃ、うちもそろそろ眠いから家に帰るわー、変な事して明日寝不足にならんよう気を付けるんよーって……ダー枕投げんのやめーやっ!あぶないって!」

 コルクはそういうと枕を避けながら部屋を出て行く。
何かいつもの流れが戻ってきた気がして安心するね。

「うちも明日はジラルド迎えに行くからまた明日ねーっ!」

 そして玄関からコルクが自分の家に帰って行くとさっきの騒がしさが落ち着いて二人だけの静寂が訪れる。

「じゃあ、ぼくはもう寝るからダート明日は宜しくね」
「うん……、でもその前にちょっといい?」

 ベッドから上半身を起こしてぼくの事を見るダートの顔を見る。
何か伝えたい事があるのだろうか。

「もう知ってると思うけど、私はあなたの事好きだから覚悟してね?……捕まえたら絶対に逃がさないから」
「わかった、ぼくも伝えたい事があるんだ、ぼくは君の事が……」
「……今は私の思いだけ聞いて、周りに言われて自覚した思いと行動じゃなくてもっと自分で考えた答えで伝えて欲しいの」
「……わかった」

……そう言われるとわかったとしか言えないけど、確かにアキラさんとジラルドに言われて思いに素直になろうと決めて直ぐにダートに伝えようという思いに流されていたのかもしれない。
それならぼくなりに考えて、ぼくのタイミングで伝えてみようと思う。
そんな事を思いながら空いてる部屋に入りゆっくりと眼を閉じて行く、明日になったら引っ越し作業とかで忙しくなると思うから早めに休まないと……、そんな事を考えながら眠りに落ちて次の日になったけど特に何かが起きる訳も無く。
あの後ジラルドはコルクに連れられて家に戻り、アキラさんは新しいぼく達の家に招待した後に町の宿屋で部屋を取ると言い直ぐに出て行ってしまった。
そしてぼくとダートは町での新しい生活になれる為に、住み慣れた環境という日常から新たな環境という非日常へと変わったけど、彼女がいるなら大丈夫だ……そう思いながらこれから新たな日々を過ごして行こう。
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