治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第四章 師匠との邂逅と新たな出会い

8話 おばあちゃんの悪戯

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 目の前にある廃墟を見て開いた口が塞がらない様子の師匠を見てなんて声を掛ければいいのか迷ってしまう。
これは事故だったんだよって言っても何かダメな気がするし、風通しが良くなりとても良い家になったよねって言ったら煽ってるみたいで余計に良くない気がする。
これはほんとどうしたものか……

「これって間違いなく私のせいよねぇ……」
「カルディア様……、えっとその」
「慰めの言葉はいらないわ?この場合それを言われてしまったら逆に悲しくなるからねぇ」

 良かった、危うく慰めの言葉を言う所だった。
でもなら何を言えばいいんだろう……、こういう時に必要な言葉をぼくは持っていない。

「でもカルディアさん……」
「ダート、あなたはお義母様又はお義母さんと呼びなさい、将来家族になるのでしょう?」
「あ、はいお義母様、ボロボロになってしまったけど良かったと私は思うよ?」
「……それは何故かしら?」
「天井が吹き飛んだ結果、風通しが良くなったけど将来的に診療所で働く人がカエデちゃん以外にも増えるんだとしたら、将来的な事を考えて増築して二階を作った方が良いからその場合屋根を取らなきゃいけなかったし」

 あぁ成程こうやって派生させれば良かったのか、確かにこれなら師匠がやってしまった事のフォローにもなるし将来的にこうしたいって意見も伝える事が出来る。
ダートには教えて貰ってばかりだ。

「それならぼくもなんだけどこの家って正直人が住めて二人が限界だと思うんだ、だからこの場合一階部分も増築して広いリビングを作ってその隣にキッチンを置く事で皆で食事をする為の場所を確保したり仲の良い職員達が交流する為のフリースペースを作ったりしたらどうかな、そして二階を居住スペースにすれば皆のプライベートも守れるだろうし……それに今の診療所の状態だとカエデを除いたら後三人位は欲しいから二階に四人分の部屋を作って欲しい」
「レースちゃん、話が長いわよ?後そんな早口で言われたら頭に入る物も入らないわ……、まぁ私だから内容を理解出来るけど他の人にはしないようにね」
「……はい」
「でも私はちゃんと自分の考えを相手に伝えようと努力してくれる姿は好きだから大丈夫だよ?」

 その慰めは逆に落ち込むから止めて欲しい……。
師匠はそんなぼくとダートのやり取りを見てほほ笑むと心器の鉄扇を顕現させ六つの魔術を同時に展開する。
始めに土属性の魔術で家を覆ったと思うと、中で何かがせりあがる音がする。
その後周りから樹を風の魔術で切り倒すとそのまま風に乗せて運び、土の中に沈めて行く。
中では何かが削れる音と、打ち付ける音がなるが中がどうなっているのかが分からない。
いったい……何をしているのか。

「師匠、これって何をしてるの?」
「何って、魔術で家を壊して余った木材を使えるように再度加工、基礎部分を土の魔術を使い引き延ばし延長する事で弱くなった所を土と水の魔術を使って作り上げたコンクリートで補強、その上に木材を使って骨組みを作成し足りない分を周りの樹を伐採し加工する事で足して組み立てている感じね」
「ごめん……わからない」
「そりゃあなたじゃ分からないわよ……、詳しく知りたかったら建築を生業にしてる魔術師に聞きなさい?彼等なら私よりも丁寧に教えてくれると思うから」
「別にそこまでして知りたいわけじゃないからいいや……」

 取り合えず専門的な事をしてるって事は理解が出来た。
ダートも同じようで難しそうな顔をしているけど、カエデは興味深そうにメモを取っている。
取り合えず終わるまで見守っていた方がいいか……。

「……終わったわよぉ」
「うわぁ……、カルディア様凄いですっ!」

 時間にして一時間位だろうか……、覆われていた土がなくなるとそこには建て直す前と比べると倍の大きさになった家があった。
外装は白く染め上げられ綺麗に仕上げられており窓の形も職人が手掛けたかのような綺麗な両開きの四角窓、玄関のドアは素材の色が活かされている。
師匠は何てものを作っているんだ……、こんな立派な二階建ての家が辺境の田舎町にあったらいくら周囲を樹々に囲われている小高い丘に建っているとはいえ浮いてしまうだろ。

「凄いでしょお?ついでに一階にも細工がしてあってね?家の中から外に出る為に玄関のドアを使う時に……」

 そういうと師匠は玄関のドアを開けてぼく達を家の中に招き入れる。
中はぼくの家と同じ靴を脱ぐスペースと靴箱がある……中に入るならここで靴を脱げという事か……

「家の中は空っぽだから後で必要な物をあなた達で買って運んでちょうだいね……?」
「それならレースさんっ!お姉様っ!私ベッドとクローゼットが欲しいですっ!後勉強机っ!」
「……その話は後でお願いね?カエデちゃん」
「あ……ごめんなさい」
「いいのよぉ、嬉しくなって舞い上がっちゃんだものねぇ……、さて話に戻るけど玄関から外に出る時にドアの真ん中にあるスイッチを押してから開くとね?」

 師匠がそう言ってドアを開くと診療所の姿が見える。
これはまさか……

「診療所を見に行った時に細工しちゃった♪、帰りは一度一階の物置部屋に入って出る時に同じ事をすればこの家に帰れるわよっ!」
「お義母様……やるなら言ってくれないかな」
「いやよぉ、そんな事したらサプライズにならないじゃない」
「これ本当に凄いですよっ!通勤時間約0分っ!あぁ、栄花騎士団の本部にも欲しいですっ!」
「カエデちゃんはほんと褒めるのが上手な良い子ねぇ、おばあちゃん嬉しくなっちゃったからもし騎士団から要請があったら作ってあげるわね……さてこのまま玄関で立ち話も良く無いからレースちゃんとダーちゃんの家に帰るわよー」

……この人勝手に物置部屋のドアを魔導具に改造してこの家と繋げたんだなと理解はしたけど、ぼく達の事を考えての行動だと思うから何も言えない。
そんな複雑な心境のまま家に帰ったけど何ていうか今日は本当に疲れた気がする。
出来れば今日はもう休みたいという思いを抱きながら二階のリビングに皆で座るのだった。
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