治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第六章 明かされた出自と失われた時間

25話 スノーホワイト

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 意識が途切れたと思ったら気付いたら真っ暗な空間の中にいる。
おかしいなさっきまで外でダートと一緒に死絶傭兵団のいる場所へと向かっていた筈なのに途中から記憶が無い。

「ここは……?」
「あなたの心の中よ」
「誰?」

 声がした方を見ると、白い髪に青い瞳をした何となく雰囲気がぼくに似た女性が立っている。
その隣には錆浅葱の髪色に宝石のように綺麗に輝くアクアマリンの瞳の少女が立っているけど……、前者は何となく誰かは分かるけど、この人は誰なのか分からなくて反応に困ってします。

「えっと本当に誰?」
「……あ、あーしの事は今は気にしないで?、あなたのお母さんを連れて来た一般ハーフ天族だから」
「いや、気にするなっていう方が難しいんだけど……、まぁでもやっぱりあなたがスノーホワイト、ぼくの母さんなんだ?」
「えぇまぁ……、ここは大きくなりましたねって言ってあげた方が良いんでしょうけど、まさか一度でも会いたかったと思っていた子にこんな形で会う事になる何て思わなくて何て言葉にすればいいのか分からないのよ」
「それはぼくもだよ……、これってどうなってるの?」

 亡くなった人には会う事が出来ない筈なのに、実際にこうしてぼくの目の前にいる母さんに困惑してしまう。
母さんも反応に困っているみたいだしどうすればいいんだろうか……

「そこにいる、マリステラさんが心器の中に残っていた魔力の残滓から少しの間意識を再生させてくれたの」
「ついでよ、たまたまお母さんの事を見ていたら凄い事になってたから干渉してしまっただけ、それよりもだからあーしの事は気にしないでってば、あなたに残された時間は少ししかないんだから」
「そうね……、とは言え特に言う事無いのよねぇ、死ぬ前の願いだった一度でもこの子に会いたかったっていうのはこうやって叶っちゃったし、何となく何があったかはレースちゃんの記憶を見たから把握してるけど、私はもう死んじゃってるから未練何て無いし……、あ、そうだレースちゃんが聞きたい事があるなら答えるけど?」
「……それならどうしてぼくが捨てられたのか、ヴィーニの事をどう思ってるのか聞きたいかな」
「んーそうね、あなたが捨てられたのは能力適正の内、肉体強化の適正が私と同じように低くて間引かれたせいね……、王位継承する場合適正が低いと身体の中に封じられる存在に引っ張られてしまうのよ、詳しくはミュラッカちゃんに聞くと分かると思うけど、そこは気になったらでいいと思うかなぁ、ヴィーニちゃんの方は出来れば生かして欲しいけどヴォルフガングが許さないだろうから私から答えられる事は無いかな」

 ぼくの事は何となく止む追えない理由があるのは分かったけど、自分の子供であるヴィーニに対してその反応は良いんだろうかと分からなくなる。
生かして欲しいのに諦めてるというか……

「あなた、ヴォルフガングと一緒で感情が直ぐに顔に出るのね……、そういう所私達の元に居なくても似るのを見ると複雑な気持ちだわ……、あなたの成長を実際に生きてる間に見たかったもの」
「……ぼくもミュラッカ達の話を聞いて、捨てられなくてこの国で育っていたら皆とちゃんとした家族になれたんじゃないかと思う事はあったけど、こうなってしまった事実は変えられないから今を受け止めるしかないよ」
「あなたはそうやってありのままを受け止める事が出来るのね、そこは私達に似なかったみたいで安心したわ……」
「安心してくれたのは嬉しいけど、ヴィーニに対してはどうしてそんなに諦めているの?」
「諦めるも何も、死者が現世に介入する事なんてあっては行けないわ、だから私には出来る事が無いのよ……、まぁ生きていたらヴィーニちゃんをあんな風に歪ませる事なんてさせなかったと言いたいけど、親の愛情が必要な時期に居なくなったのは私だからそれを言う権利がないの」

 権利がないってどうしてそんなに割り切る事が出来るんだろうか……。
ぼくが同じ立場になったら母さんと同じようには出来ないと思う。

「そんな顔しないの、今こうして話せてるだけでも奇跡なんだから……、それにこうやって話してる間に外では戦いが起きてるみたいだからレースちゃんは早く起きる努力をしないと駄目だと思うわよ?」
「外で戦いってどういう事なの……?」
「レースちゃんの身体を一時的に乗っ取ったこの世界に唯一残っている神の末裔、【天魔】シャルネ・ヘイルーンがあなたのお嫁さん達と戦闘を始めたのよ」
「……Sランク冒険者シャルネ・ヘイルーンが?」
「えぇ、それにあなたが何れ使えるようになる筈だった、私が使っていた時の心器の能力まで解放しちゃって……、これじゃあ身体の負担が大き過ぎるじゃない、気に入らないわね……、レースちゃんまだ時間はあるけど私はこれで消えさせて貰うわ」

 そう言うと母さんの身体が薄くなって行く。
この人はいったい何をしようとしているのか分からないけど、出来ればもっと彼女と話しをしていたい。
もっとこの人の事を知りたいけどもう無理なようだ。

「母さん……、ぼくはもっとあなたと話しがしたい」
「そんな事言わないの、気持ちは嬉しいけどこの残された時間を使って少しでもあの女に痛い目を見せてあげたいのよ……、レースちゃんの可愛いお嫁さんを傷付けた代償はしっかりと払って貰うからね、手始めに私とレースちゃんの心器を自由に使えないように魔力の流れを【停止】してあげる、これを使ったら私は今の意識を維持出来なくなって消えちゃうけど今度は死者の世界でヴォルフガングと一緒にあなた達を見守らせて貰うからね」
「……わかった」

 母さんの姿が完全に消えてしまって何も見えなくなり、この場にはマリステラと呼ばれた修道女服に身を包んだ女性とぼくしか居なくなったけど……

「良い子ね、じゃあマリステラさん後の事は任せたわね?」
「だからあーしの事は放っとけって言うたんに……、んもうっ!もしレース君が現実で私に会う事があったら助けてあげるわよっ!それでいいよね!?」
「えぇ、宜しくね?あなたの願いが叶う事を祈ってるわ……、じゃあさようなら」

……と言う会話を最後に気配もなくなってしまう。
何ていうか思ったよりも普通の人だったなって思う反面、この人がぼくの産みの親だったのかという気持ちになるけどこうやって少しの間でも話せて良かった。
そう思いながらぼくはマリステラと呼ばれた彼女の方を見ると『それであなたは誰なんですか?』と問いかけるのだった。
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