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第六章 明かされた出自と失われた時間

24話 カーティス ダート視点

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 シオリという人物に身体を奪われているレースがこっちを見ながら微笑んでいるけど、その雰囲気がどう見てもこっちを見下しているように見えて気持ち悪い。
多分この人は自分以外の存在を無意識に格下だと思っているのかも、それに誰の事も信じていないんだと思う。

「ダートお姉様っ!これはいったい何があったんですか!?」
「姫ちゃんっ!今の状況を見て聞く前に判断するんだよっ!今この場でダートが武器を向けているのは誰だい!」
「それは……」

 騒ぎを聞きつけたのかカエデちゃん達が遠くからこっちに走って来ると、トキさんが戦斧を持ってレースに飛び掛かるけど……、空中に出現した雪の壁に阻まれてしまう。

「硬い壁だねぇっ!壊しがいがあるってもんだっ!」
「トキさんっ!まずは様子を見ないとっ!、お姉様簡単でもいいので説明をっ!」
「レースが誰かに身体を奪われていて、カーティスさんが元に戻す手伝いをしてくれるって!」
「身体を?意味が分かりませんが、Sランク冒険者の方が味方になってくれるならありがたい話ですが……、ヴィーニ王子との件はどうなったのですか?」

 カエデちゃん達はさっきまでのやり取りをしらないからこういう反応をするのは当然の事だと思う。
ただこのやり取りをしている間も微笑んでこちらを見るだけのレースに違和感を覚える、この間に動こうと思えば幾らでもこちらに危害を与えられるのに……

「彼の事は見限ったからどうでもいいかな、俺はこのダートさんから依頼を受けたからね報酬分はしっかりとやるよ」
「……わかりました、今はカーティス様の事を信用させて頂きます、トキさんも彼を攻撃しないでくださいね?」
「あたいは敵じゃなければ何でもいいけど……、シン以外だと特性を使えないから戦力としては期待して欲しくはないね」
「分かっています、でもお願いします」

 カーティスさんが蛇の尾で畑に置いてある農具を器用に拾い上げると両手に鋤と鍬を持ったけど、もしかしてそれを武器にするつもりなのかな……

「あんたそれは農具だよ?まさか道具を武器にするんじゃないだろうね」
「そうだけど?俺は武器を使うのは得意じゃないからね、こういう物しか使えないんだよ」
「武器として使おうとしてるなら立派な凶器だけどね……まぁいいや、そういう事なら頼んだよSランク様っ!頼りになる所を見せて貰うよっ!」

 トキさんが戦斧を持ってレースへと向かっていくけど再び現れた雪の壁に阻まれてしまう。
これだとさっきと同じたと思ったけど、武器を手放すと両手で壁を殴り出す。

「……まるで野生の獣みたいだね、私怖くなっちゃいそう」
「あんたがそんな硬い壁を作るのが悪いんじゃないかい?」
「作るもなにもこの長杖が勝手に作ってくれてるんだよねー、心器なのに不思議だね……まるで意志があるみたいで私魔術が使えないのに魔術師になったみたいっ!」

 確かに雪の壁が砕かれる度に新たな壁がその場に作られて行って、これではレースの元に辿り付く前にトキさんの体力が尽きてしまうかもしれない。

「勝手に魔術を使う……?ダート、彼の心器の特性は何だい?」
「えっと……、確か【高速詠唱、多重発動、空間移動】だった筈です」
「既に三つあるんだ……?それにどれもかなり強力な物が揃ってるね」
「レースのお母様から受け継いだ物らしくて、そのおかげで強い特性が付いてるらしいです」
「受け継いだ……って事は、成程後三つあるわけだね」

 カーティスさんのその言い方だとまるで、能力が六つあるって言ってるように聞こえるけどそんな事あるのかな……。

「後三つって……、心器の能力は三つまでじゃないんですか?」
「そっか今の人達は知らないんだね、受け継いだ場合はその心器の一つ前の所有者の能力も使えるようになるんだよ……、もし君が知ってたら前の所有者の名前を教えて貰っていいかい?」
「スノーホワイト・ヴォルフガングです……、でもカーティスさんは戦わないで何で私にそんな事を聞くの?」
「前衛が二人もいたら邪魔になるからね、それなら今俺に出来る最善の仕事は情報を得て確実に相手を倒す手段を見つける事だよ、あのトキって人もそれが分かってるからあぁやって時間を稼いでくれてるのさ、力をおさえた俺の団にスカウトしたい位だね……、それにカエデって子は見る限り後衛のサポート特化に見えるけど正直言って足手まといだね……、それにしてもスノーホワイト・ヴォルフガングか、北の大国の【氷姫】と言われた王妃だね、過去に何度か戦場で敵対したり一緒に戦った事あるから覚えてるよ」

 何で戦わないんだろうと思っていたら私から情報を得ようとしていたみたいだけど、これが本当に参考になるのかな。
それにレースのお母様と何度か敵対したり一緒に戦った事あるって言ってるけど、傭兵として雇われて戦ったって事だよね。

「そこのカエデ君も説明をするからこっちに来て欲しい」
「はい……、カーティス様先程の能力の話は本当なのですか?」
「本当だよ?、俺の記憶が間違いでなければレース君は【自動迎撃、魔力暴走、怪力】を持ってる事になるね、自動防御は今目の前でトキ君を止めてる雪の壁がそうだけど、あれを発動中は異常な速さで魔力を消費するらしくて動く事や攻撃を行う事が出来なくなる、魔力暴走は自身の魔力を文字通り暴走させる事で、一度の魔術に全ての魔力を乗せる事が出来る変わりにその後魔力欠乏症になるという危険な能力だけど……、奥の手らしいから来るなら最後だね」
「えっと、つまり今の状態を維持すればレースさんは魔力が尽きて勝手に倒れるという事ですか?」
「そうなる前に俺が知ってる中で一番危険な怪力を使ってくるだろうね……、あれは脳のリミッターを外して肉体の限界を超えた身体能力を出す代わりに徐々に肉体が内側から損傷していくリスクを抱える危険な物なんだけど、治癒術と併用する事でそのリスクを消して近接戦闘をしてくるんだ……、スノーホワイトは肉体強化の適正が低かったけどその能力のおかげで心器の長杖で相手を一度でも殴って当てる事さえ出来れば一撃必殺だよ」

 その能力を聞いて感じたけど、ミュラッカちゃんと同じでレースのお母様も大分戦闘狂の気があったのかもしれない。
いやこの場合は、彼女がお母様に似たのかも……?

「そんな相手にどうすればレースを取り戻せるんですか?」
「まずは彼の意識を奪って身体を奪っている彼女を追い出してしまえばいいよ、あれは基本的に本当の名前を呼ばれて存在を定着させる事が出来なければ一度しか操る事しか出来ないから、それか……彼女本体に直接傷を付ければいい、ダート君にはレース君の魔力に重なって黄金色に輝く魔力があるのが見えるかな」
「黄金色に……?」
「トキ君と雪の壁で見辛いと思うけど、眼に魔力を集中させて彼を良く見てみると良い……、心器を顕現させる程の練度があるなら見える筈だよ、眼に魔力を集めて相手の魔力を見るようなイメージをしてみるんだ、例えるならそう夜道で誰もいない道を歩いてる時に人の気配を感じて振り向いたけど誰もいなかった時に、暗闇を良く見て見えないものを見ようとするような感じだね」

 カーティスさんに言われたようにしようとしてるけど、見えないものを見ようとするという意味が今一掴めないでいる。
でも……何となくだけどレースに重なるように金色の人影が見えるような気がした。

「黄金色の人影が見える……、気がします」
「そこまで見える何て凄いね、どうやら君は飲み込みが早い子みたいだね……、そうあれを彼から切り離す事が出来れば意識を奪わなくても取り戻す事が出来るよ、それに彼女に手傷を負わせることが出来れば暫くは傷を癒す為に動けなくなるけど……、ダート君やカエデ君は切り離す事が出来るかな」
「それならお姉様の魔力特性が【切断】で心器の能力が【次元断】ですから当たりさえすれば行けると思います」
「……ならそっちの方で行こうか、今から俺はトキくんと前衛を後退してレース君の身動きを封じるからそのタイミングで彼女との繋がりを切り離してみよう、失敗したらそのまま彼の意識を奪うから気負い過ぎないようにね」

……カーティスさんが蛇の下半身を動かしながら土の上を素早く移動してトキの元へ行くと『前衛変わるよ、頑張ってくれてありがとう可愛いお嬢さん』と言いながら勢いよく鋤を雪の壁に突き立てて動きを止める。
そして蛇の下半身をレースの周囲に巻き付けると彼の周囲に現れた雪の壁と一緒に締め上げて行き彼の身動きを封じて行き、徐々に壁にヒビが入って割れて行くけど突如として内側から外へ向かって雪が弾け飛んで拘束が解かれてしまうのだった。
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