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第六章 明かされた出自と失われた時間

31話 傭兵団のお財布担当

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 この人はいったい誰だろうと思っていると、ミュラッカが彼女を見てすっかり忘れていたと言いたげな顔をしている。
もしかしてぼくやシンの事で頭が一杯で忘れていた?、ミュラッカに限ってそんなことは無いと思いたいけど、この反応を見るにそんな事があったんだろう。
更にダートやカエデの方を見ると、『あ、そういえばいたっけ』とでも言いたげな雰囲気を感じるから、尚の事この人が誰なのか分からない。

「えっと……、君は誰?」
「君は誰だと言われたら、答えた上げなければいけませんねっ!」

 虹色の髪の子が左手で帽子を抑えながら礼儀正しく頭を下げると、ぼくの方を見て自身有り気な顔をする。
その姿は歴戦の勇士を思い立たせる程に堂に入っていて、かなりの実力者である事を感じさせはするけど、何だろう見せかけというか強く見せようと自分を大きく見ようとしている気配を感じて違和感しかない。

「ストラフィリア第一王子レース様、お初にお目にかかり後衛でございますっ!僕……、いえ私は死絶傭兵団の副団長であり皆のお財布担当サリアと申します、この度はパパじゃなくてっ!団長であり、この世界で数少ないSランク冒険者の一人【死絶】カーティス・ハルサーから皆様に力を貸すように指示されました、宜しくお願い致しますっ!、レース様が傭兵団に仕事を頼みたい時がございましたら私に話を通して貰えればいつでもお力になりますので、その際はいつでもご連絡下さい」
「あぁうんサリアさんね、名前をちゃんと覚えたからこれから宜しくね」
「おぉっ!さっそく名前を覚えて頂ける何て何たる光栄でしょうかっ!これは置いて行かれた甲斐があったのいうものですっ!」

 傭兵団のお財布担当が置いて行かれたってこれって結構まずい事何じゃないかなと思って、ダート達の方を見ると彼女達も複雑な顔をしているけど本当に大丈夫なんだろうか、特に傭兵団ってお金使いが粗そうなイメージがあるんだけど……

「お財布担当が置いて行かれたって事は……、何処に行ったのか分からないけど傭兵団のお金を散財されたりしたらどうするの?」
「……そ、そんな事はぁ、無いって思いたいなぁ」
「死絶傭兵団が滞在した国はお金を沢山落としてくれるおかげで経済的に助かるって有名ですからね……、サリア様が居ないと言う事はお財布を管理する人がいないので金銭的にまずい事になるのではないですか?」
「いや、それは無いと思いたいなぁっ!だってそのお金は奴隷として不当な扱いをされている、私達と同じ魔族、いえ獣人族の子供をお金の力で救ってるだけなので多分、きっと、大丈夫なんだよねぇっ!」
「奴隷って?」
「あぁ、レースさんやダートお姉様は知りませんよね、メセリーやトレーディアス、メイディでは禁止されているのですが、ストラフィリアとマーシェンスでは奴隷制度という物があって、分かりやすく説明をすると借金を抱えた人が返済の為に返済するまで強制的に労働させられたり、犯罪を犯した人が死ぬまで労働させられるというのもありますが、ストラフィリアの場合は更に周辺諸国との争いで滅ぼした国の国民を奴隷と言う名の労働力にしたりしていますね」

 ストラフィリアに奴隷がいるって言われても見た事が無いから実感が湧かない。
それにそんな人の事を物みたいに扱う何て事が許されていいのだろうかと思うと複雑な気持ちになる。

「ミュラッカ、この国に奴隷がいるって本当なの?」
「いるにはいるけど、どちらかというと今のこの国では犯罪奴隷と侵略して来た国の騎士や兵士達を捕えて戦争捕虜とした者を奴隷とする位ね、昔はもっと酷かったらしいけどお父様が奴隷制度を嫌っているおかげで年々減りつつあるわ、でもいきなり全ての奴隷を禁止してしまうとこの国の貴族達から反発を受けてしまうから、その二つだけは残してる感じね」
「そうっ!だから私達傭兵団はその中にいる獣人族の奴隷でまだ小さい子達を買い取ってるんですよっ!お金は殆んど養う為に使われてるので大丈夫なんですぅっ!……多分っ!」
「多分って……、そこはもっと自信を持つべきでは?」
「だって、パパがお金に困ってる人達を見ると直ぐにお金を渡したりしちゃうから、だから僕が管理してるのに、その僕がいないってなると心配になっちゃってっ!」

 ……サリアって子は何ていうか苦労人なんだなぁって感じるけど、本当にこの子を団長は置いて行って良かったのだろうか、今にも目に涙を浮かべて泣き出しそうな姿を見て心配になってしまう。
特に一人称が私から僕に変わっていたり、喋り方がもう素に戻っているのも予定に心配にさせるのかもしれない。

「まぁ、お金が無くなったら再度稼げばいいだけだから別に良いんですけどねー、って事で本題にそろそろ入るんだけど、ヴィーニ王子達の所に行くのは明日の明け方にしようと思うんだよね、今から行くとあっちに着くのは丁度明け方だし休みながら行っても充分な休息が取れて無いから上手く動けない筈、それなら明け方に出て昼前に着くようにすれば馬車の中で充分な休息を取れるし、周囲も明るいから待ち伏せされても対処しやすいっ!」
「成程、それならその案で行った方が良さげね……、レース兄様達は今日は夕飯を食べたら明日に備えて早めに休んでちょうだい、明日は直ぐに馬車でヴィーニ達の元へ向かうわ」

 ミュラッカの発言にぼく達はそれぞれ返事をするけど、早めに休んで馬車か……また酔わないか心配だ。

「後は戦力の方だけど私達死絶傭兵団がヴィーニ王子の元を離れた以上、主な戦力は覇王ヴォルフガングの悪い噂を聞いて討ち取ろうと集まったこの地域の領民と領主の館に滞在しているSランク冒険者【福音】ゴスペルと、グロウフェレスっていう狐の獣人にガイストっていうレース様やミュラッカ様に何となく顔付きが似ている女性位ですからね、領民は正直数に入れる必要が無い戦力だから、三人に気を付けて置けば問題無いかと」
「ゴスペルがいるという時点で何ていうかこちらが不利な気がする……」
「レースさん、そこはトキさんとシンさんの二人でゴスペル様の対処をして貰うので問題ありません、ただ変わりに私達五人で指名手配中の二人と交戦する事になると思うので、多少不利かもしれませんがやるしかないですね」
「五人ってもしかして僕も戦力に入ってる感じ?戦うの苦手なんだけど?」
「戦うのが苦手でしたら私と一緒にサポートの方をお願いしますね、サリアさん」
「そ、そんなっ!僕戦いたくないんだけどぉ!?」

……そんなやり取りをしていると勢いよく扉が開き、トキさんが『あんたらっ!夕飯が出来たから迎えに来たよっ!』と言いながら入って来る。
驚いて跳び上がったサリアを見て『あんた何やってんの?……、ほら早く行くよっ!』と彼女の左手を掴んで通路に出て歩き出す。
その姿を見てぼく達は急いで食事を取りに向かうのだった。
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