治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
251 / 600
第七章 変わりすぎた日常

2話 残念な魔王

しおりを挟む
 どうしてここに魔王がいるのだろうか、師匠と暮らしている時に何度か連れ帰って来た時があるから顔とかは知っている。
それにあの綺麗な水色の髪と瞳にお洒落な眼鏡見間違う事無く、メセリーの王であり師匠の弟子という名の被害者【魔王 ソフィア・メセリー】だ。
彼女とは何度か話した事もあるけど……、このタイミングで会う事になる何て思ってもいなかった。
出来ればこのまま気付かれる事無く二階に行きたいけど……

「「あっ」」

 目が合ってしまった、一番気付かれたくないタイミングで魔王と目が合ってしまった。
出来れば気付かれる事無く二階へとダートと二人で逃げたかったけど、魔王から逃げる事は出来なかったみたい。

「レ、レースさぁん!やぁっと帰って来たんですねぇ!?」
「あら、レースちゃん帰って来たのねぇ?心配してたのよ?」

 二人の声を聞いて、診療所に来ている患者さん達がぼくの方を見るけど……、アキラさん達はどうやら今はいないみたいで何とも寂しい気がする。

「すいません、色々とあって戻るのが遅くなりました……、そういえばアキラさん達がいないみたいですけど」
「栄花の人達ねぇ?、彼等なら本職の方が忙しくなったらしくて暫く留守にするそうよ?」
「あぁ……」

 確かにあの一件以来、カエデも栄花騎士団の仕事が忙しいみたいで姿を見ていない。
何でもマスカレイドが言っていた【南東の大国マーシェンス】周辺の国に潜伏するという発言をヒントに捜索をしているらしいけど、アキラさん達がいないという事は彼等にも団長から命令が下ったのだろう。

「それならスイは?、ダートからぼくが居ない間診療所で働いてくれるって聞いたんだけど」
「あぁあの子ねぇ?、治癒術の腕は確かに優秀だったけど注射は上手くできないし、治癒術以外の基本的な技術が独学だったせいもあるのか滅茶苦茶で酷かったから、私の家のレースちゃんの部屋にもある治癒術師の基礎に関する本を渡して教育してるのよぉ」
「あっ……」
「でねぇ?、人体の基礎を教える為に一度手を握って貰って内側から破壊した後に治癒術で治すって事を繰り返してたら、可愛らしい悲鳴上げちゃってとっても可愛かったわぁ」
「お義母様何やってるんですか?それにこの綺麗な女の人はもしかして……」

 ぼくがそうやって治癒術を教わったりして来たから当時はこれが普通だと思っていたけど、カエデに教えたりしている内に、これは普通じゃないと気付けた。
正直、普通の人なら麻酔無しで身体の内側を破壊されたら気が狂う程の痛みがあるだろうからやるべきものじゃないだろう。
カエデには、やりたいと言われたからやったけどね……

「大事な治癒術の教育よぉ……、あら?そういえばダーちゃんはこの子に会った事無かったわねぇ、ほら自己紹介してソフィちゃん」
「あ、はい、私はこの国の王【魔王ソフィア・メセリー】と申します、ダート様の事はカルディア様から何度もお話しを聞いております」
「やっぱり魔王様!?何で魔王様がここにいらっしゃるのですか!?」
「それはですね……、レースさんがストラフィリアへと連れて行かれた後カルディア様が我を忘れたように怒り狂い、国境を越えて突撃しようとしたりしたので何とか頑張って止めた結果……『ならレースちゃんが帰って来るまでの間、診療所で働きなさい』と言われてしまいまして、公務を何とか朝と夜の間で終わらせては直ぐにここに通う生活……、私、私もう嫌だよぉ!王城のお部屋の中で本に囲まれて、紅茶の香りを楽しみながらゆっくり休みたいよぉ!」
「あら?、そういうけどソフィちゃんがこの都市にいるのは視察の為でしょう?」

 都市?ここは町だった筈だけど……、聞き間違いだろうかそれに視察ってぼくがいない間に一体何が?

「レースちゃん、考えが顔に出てるけど詳しくはソフィーちゃんが答えてくれると思うから私は仕事に戻るわねぇ?、患者さんを放置は良くないでしょ」
「あぁうん、ありがとう……」
「今日は私が全部やっとくから、レースちゃん達はソフィちゃんと上でゆっくりしててちょうだい」
「ありがとうございますお義母様」

 師匠が心器の鉄扇を広げて優雅な足取りで患者達の元へ行くと、多分診察の効果がある治癒術を使ったのだろう。
周囲の人達に魔力を送ると恐ろしい速度で同調させて一瞬で治療を終えてしまった。
そんな光景を見ながら三人で二階に上がると懐かしいリビングとかが見えて安心してしまうけど、三階への階段が増えていたりしてダリアの部屋とかが出来たんだなって気持ちになる。
でも……、これでぼくとダートの部屋が繋がっているのかと思うと夜どんな気持ちで寝ればいいのか分からない、朝起きたらまた腕が変な方向に曲がっているのだろうか、それならまだいいけどもしかしたら折れてしまうかもしれない。
後は頭を何故か腕の上に置かれた結果、感覚が無いあの腕が無くなってしまったのではと感じる嫌な不快感を味わう事になったりするのかもと思うと夜が不安だ。

「レース?何か今迄に無い位難しい顔してるけどどうしたの?」
「あ、いや、色々と考え事してただけだから大丈夫だよ、その何ていうか辺境の町の事を師匠が都市と呼んでたりとか、ソフィアさんが視察に来てるとか状況が呑み込めなくて……」
「……それは確かにそうかも、私がこの前一度戻って来た時も何だか妙に人が多かったりお店が増えたりしてて凄い違和感があったもの」

 ……上手く誤魔化せたようで安心するけどこれが顔に出ないように必死に我慢する。
ただ、そんなぼくの方を見て二人が変な生き物を見るかのような顔をしているけど、多分今のぼくは凄い表情をしているのかもしれない。

「えっと、苦悶に満ちたような顔が凄い気になるけど見なかった事にしますが、レースさん達はここが【王室属領:辺境開拓都市クイスト】に先々月程前から変わったのですよっ!」
「……王室属領?」
「あら、分かりませんか?、えっとですね、私が直接管理する領地になったという事です、本来であれば領主を変えたくなかったのですが、ここに冒険者ギルドや教会に商人ギルド等という都市や街に必ずなくては行けない物を建てようとしたところ、何故か冒険者崩れの荒くれ者達を連れて私の元へ脅しに来るという意味の分からない事をされたので、サクッと拘束して斬首した後に彼の一族の中で比較的まともな人を新領主にしましたが……、都市を治められる器では無いので頂いてしまいました」
「頂いたってソフィアさんあなた……」
「……少しだけ待ってください、下に声が漏れないようにするので」

 ソフィアの全身に魔力の光が灯ったかと思うとそれが二階全体を覆っていく。
すると下から聞こえていた、患者さん達や師匠の気配が無くなりぼく達の呼吸の音しか聞こえなくなる。

「これで良しっと……、さて聞いてくださいよぉっ!だってレースさんしょうがいんですよぉっ!西の大国【トレーディアス】との約束でミント王女とその旦那様のジラルドさんがこの都市に滞在する様になってしまいましたし、しかも旦那様に関してはここで冒険者ギルドの長をやるっていうんですよっ!?、それに来週には南東の大国【マーシェンス】から【賢王ミオラーム・マーシェンス】様が五大国会議でいきなり『辺境の都市ってどういう所か気になるから是非遊びに行かせてちょうだいっ!』って言いだした結果、来週に来ることになっちゃったし、そんな色んな意味でヤバい状況の時に新領主にここの管理お願い何て言ったら、間違いなく夜逃げされちゃうんですぅっ!そうしたら私の仕事増えて更に忙しくて本が読めなくなっちゃうですぅっ!そんなの嫌なのぉっ!」
「えっ!?レース、魔王様の様子が急におかしくなったけど大丈夫なの!?」
「……あぁ、いつもの事だからほっといてあげて、騒いで吐き出せば勝手に落ち着くから」
「本当は新領主さん、凄い能力高くて都市を任せられる程に優秀だけど、そんな人を潰したくないのぉっ!むしろこんなに能力高いなら首都に来てよぉっ!王城勤めしてあわよくば私の旦那様になって欲しいのにぃっ!私カルディア様のせいで婚期逃して絶賛行き遅れなのっ!、あわよくば私の事を良く知ってるレースくんと……とか考えてたら、ダートさんっていう可愛いお嫁さん貰っちゃうし辛いよぉっ!」
「……あぁ、うん相変わらず残念な人だね」

……あぁ、久しぶりにこの人と話して思うけど、普段はお淑やかで知的な美人なのにどうして素が出るになるとここまで残念な人になるのだろうか。
それに相変わらず凄い早口で殆んど何を言ってるのか殆んど分からなかったけど、ダートの雰囲気が一瞬怖くなったから凄い事を言ったのかもしれない、そんな事を思っていると『それに来週になったら、ルミィ王女を留学させたいからお願いします何て新しい覇王に言われて急に決まるし勘弁してよぉっ!』と半泣き状態で叫ぶ魔王ソフィアを見て、ぼく達は何とも言えない顔をするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...