治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第九章 戦いの中で……

15話 詠唱と無詠唱

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 何となくだけど、どうやって空間魔術が使われているのか感覚では分かったけど……

「一つだけ疑問があるんだけど……」
「え?どうしたの?」
「ライさんもそうなんだけど……どうして空間を切るのかなって」

 ライさんの方は短剣に付与されている能力のおかげで空間魔術が使えるようになっているけど、武器に魔力を通していれば使えるだろうし態々空間を切らなくても良い気がする。
そういう意味ではダートも、指先に魔力の光を灯らせたり心器の短剣を使って空間を切り開いたりしなくても使えると思うんだけどな……

「んー、それはイメージする為かなぁ」
「イメージ?」
「うん、空間って目じゃ見えないでしょ?だから頭の中で浮かんだ映像に干渉して繋げる為にやる儀式みたいなものかな、やらなくても詠唱をしながら頭の中で形にすれば出来なくは無いんだけど……それだと時間かかるでしょ?」
「でも……詠唱した方が効果が上がる時もあるよね?」
「うん、魔術は無詠唱の方が発動が早いし少人数においての実戦において有利だけど……、大規模な戦いになると詠唱して威力や効果を上げた方が良いって聞くかなぁ」

 でも……詠唱をする場合集中しなければいけないから動きが単純になりやすい。
アキラさんの切り札みたいに詠唱しながら魔術が発動して逃げ場が無くなる、そんな状況を作り上げる事が出来るならありかもしれないけど……、多分あの人なら何とか搔い潜って近接で攻撃をしても武器で反撃してくる気がする。

「でも実戦で詠唱してる余裕何てあんまりないよね?」
「うん、一応詠唱しながら空間魔術や呪術を使えるようにお父様やお母様から指導されて来たから出来るけど……、この世界で出来る人はあんまり見たことが無いかも」 
「確かに冒険者の魔術師とかを見ると詠唱をする人を見たことないね」
「……でしょ?でもアキラさんは切り札を使う時に詠唱するみたいだし、もしかしたら本当に強い人程詠唱しながら他の事を出来るのかも」
「……なるほど、確かにそれはあるかも」

 という事は……今まで出会ったSランク冒険者達は皆同じ事が出来るのかもしれない。
でも腹違いの兄である【福音】ゴスペルは、無詠唱で剣を生み出していたし……【薬姫】メイメイも詠唱をせずに地面から樹の根を出す等威力の高い魔術を使用している。
とはいえ……師匠である【叡智】カルディアは一度に複数の魔術を発動する事が出来るけど、詠唱をしている姿を見たことが無い……。

「でも、ぼく達が会ったSランク冒険者の人達ってアキラ以外は皆詠唱してないよ?」
「多分だけど……頭の中で詠唱してるんじゃない?」
「それって難しくない?魔術を使うのに必要な原理を頭の中に浮かべながら、更に詠唱とか出来るの?」
「やってみたことないから分からないけど……、とりあえずやってみるね?」

 ダートが集中する為に目を閉じる。
そして空間魔術を発動させようとするけど、ぼくの頭の中に浮かんでくる空間魔術を使う時に浮かんでくる光景が急に鮮明になったと思ったら歪みだしたり、更には白くぼやけたりし始めてしまう。
それだけならまだいい方で、ぼく達を視点に座標を合わせようとしているのにそれが変な方向にずれてしまったり、回転しだしたりして何ていうか乗り物に乗って酔った時の感覚を思い出してしてい凄い気持ち悪い。

「……んー、無理そうってレース顔色悪いけど大丈夫?」
「以前船に乗ったり場所に乗った時に感じたのと同じ、乗り物酔いみたいな感じで気持ち悪い……」
「ご、ごめんね?辛かったら精霊さんに頼んでバケツを持ってきて貰うから吐いていいよ?」
「いや……大丈夫、多分横になってれば良くなると思うからちょっとだけ休むよ」
「そう……?あんまり無理しないでね?」

 休むなら心器の長杖を魔力に戻して発動している能力を解除しないと……、そう思いながら立ち上がると力の加減が出来ていないのか、木で出来た床が割れてしまう。
でもこれ位なら暫くしたら直るから大丈夫だけど、後でメイメイに謝っておかないと……

「レース大丈夫?一人で歩ける?」
「んー、難しいかも……」
「だよね?凄い顔色悪いもの……、呪術の効果がまだ残ってるから私がベッドに運ぶね?」
「え?でも……」
「いいの、私がそうしたいって思ったんだからレースは私に甘えていいんだよ?だって夫婦なんだから」

 そう言って心器を消して怪力の能力の発動が消えたぼくを抱き上げると……

「……ふふ、えいっ!」
「……え?うわっ!」

 何故かベッドの上に放り投げられその隣にダートが倒れ込んでくる。
背中に弾力のある感覚と共に少しだけ身体が浮かび上がるけど、酔い以前に体に疲れが溜まってしまっているみたいで動くことが出来ない。
これは本格的にちゃんと休まないとダメかもしれないと思っていると、不意にダートの手がぼくの頭を撫でて来て、そのまままるで子供を寝かしつけるかのように胸に手を置いてトントンと優しく叩き始めた。

「レースは最近ずっと頑張ってるから、たまにはちゃんと休まなきゃダメだよ?」

……そう優しく耳元で囁かれながら一定のリズムで叩かれると、何でか分からないけど凄い安心してしまい自然と瞼が下りて行く。
そして薄れ行く意識の中で『……ご飯の時間まで一緒に私も寝るね?』と優しい声が聞こえて来て、そのまま意識が深く沈むのだった。
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