治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
452 / 600
第九章 戦いの中で……

70話 大事な取引

しおりを挟む
 そのまま部屋に戻る事にしたけど前、その前に確認したい事がある。
だから……

「……ダリア、ガイスト、悪いんだけど先に部屋に戻って貰っていいかな」
「ん?どうしたんだよ」
「栄花騎士団の人達と話したい事があるからさ」
「……なら我も行かせて貰おうかのぅ」

 どうしてガイストが着いて来ようとしているのか理解が出来ないのだけれど、きっと彼女なりの事情があるのかもしれない。

「なら俺だけでも先に部屋に戻って母さん達の様子見て来るかな……」
「悪いのぅ、姪っ子よ」

 ぼくの返事を待たずにダリアが走って行ってしまう。
そして……

「レースよ、やっと二人に慣れたな」
「……特に話すような事は無いと思うけど?」
「そう突き放すような事を言うでない、弟よ」

 白い髪を指で遊びながら寂しそうにはにかむ彼女を見ると、本当にこの人がストラフィリアの前王ヴォルフガング・ストラフィリアを殺した人だと思えなくなりそうになる。
けど……話すような事は無いとは言ったけど、ガイストが戦闘に乱入して来た時にダートとの契約がどうのとか言ってた気がする。

「そういえば一つだけ聞きたい事があるんだけどさ」
「おや?我とは話すような事が無いのではなかったのか?」
「……めんどくさいな」

 ……姉という存在というのはここまで面倒なのだろうか。
ガイストの事を良く知らないから、反応に困るのもあるけど……一々揚げ足を取って来るのは正直言って不快だ。

「……そんな不機嫌な顔をするでない、で?何が聞きたいのだ?」
「ダートと契約したって言ってたけど……どういう事?」
「あぁ……それはのぅ、レースはマリステラの事を知ってると思うが、奴と契約したのじゃよ」

 ダートがマリステラと契約をした?、あの人の形をした相容れる事の出来ない化け物と……いったい彼女は何をしているのだろうか。

「契約って、あの化け物とどんな内容で?」
「そりゃあ、我を家に居候させるって事だのぅ、その契約を呑む事でレースを助ける事にしたんじゃよ」
「ぼくの家に居候って……、そんなに広くないんだけど」
「それなら増築したらよかろう?それか新たに家を買うとか……または他に家を借りて住まわせてくれても良いのだがのぅ?」
「ちょっと言っている意味が分からない」

 ぼく達の家に、サリッサやルミィが家にいるのにこれ以上人が増えるのは正直難しい気がする。
特にこれから先子供が産まれた時の事も考えたら、尚の事無理だろう。
とはいえ……ダートが契約してしまった以上は邪険にすることは出来ないし……

「……そもそもどうして、ガイストと一緒に住まなければ行けないの?マリステラとの間で結んだ契約でしょ?」
「む?まぁそうなのだがな、我も奴に……天魔の【精神汚染】という支配から解放して貰った際に、【悪星の器】として契約させられてしもうてなぁ」
「悪星の器……?」
「うむ、レースよ……おぬしも王族の血を継いでおるから分かると思うが、我らは皆神をその身に封じる為の器としての役割がある、つまり……今の我の中にはマリステラの分霊がおるのじゃよ、しかもこやつが悪質でな?我の自由を約束してくれてはおるが、我が見た物、感じた物全て本体に送るという役割を持っていてな」
「……つまり監視されてるって事?」

 最悪だ、つまりマリステラはぼくがまた彼女の事を誰かに話さないよう……監視する為にダートを利用してガイストを側に置く契約をしたという事になる。
しかも、器として彼女の中にいるという事は……もしぼくが断った場合、【神器開放】を使い宿主を殺し自由になった分霊が、ぼくかダートのお腹の中にいる子供の中に入るだろう。
そうなった時の事を考えると恐ろしさしかない、特にメイメイの例があるからこそ、尚の事恐ろしいとしかいない。
彼女がエルフの身体に転生して、あそこまで善良な存在になったのは封じられている間に起きた心変わりとかもあったし、人として生きてみたいという気持ちがあった。
けどマリステラはどうだ?、あの自身の悪意に従順な化け物の場合、ただ見たかったから……楽しそうだったからという理由で、子供の身体を奪い現世で制約無く動ける身体を得たら何をするか分からないし、それ以前にぼくとダートの子供が産まれる前に体を奪われて死ぬという最悪な結果になる。

「……最悪だ」
「なぁにそんな辛そうな顔をせんでも良い、我が悪い事はさせんよ……何せ弟を守るのは姉の仕事じゃからのぅ」
「え?」
「知ってると思うが、我には半分ドラゴンの血が流れておる……つまり寿命に関してもエルフのように永遠に近い程に長いからのぅ、そう簡単に死ぬ気は無いし家族に迷惑を掛ける気は無い」

……そうガイストは笑顔を作りながら言葉にすると『それにじゃ……やっと正気に戻れたのじゃから、弟や妹達が生きている間はおぬしたちの為に時間を使いたいんじゃよ……、正気を失った結果、復讐心に囚われ父をヴォルフガングを殺したせめてもの罪滅ぼしじゃな』、と静かに呟き。
反応に困っているぼくを尻目に『さて、栄花騎士団の元へ行くのじゃろ?ついでに我がおぬし達の味方になった事を説明して、指名手配を解く手伝いをしておくれ……かわいい弟よ』と豪快に笑うのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...