治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第十一章 盗賊王と機械の国

22話 周囲の視線

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 アキが出て行った後、宿泊施設に戻る事にしてライさんと一緒に冒険者ギルドを出たけれど……この雰囲気をどうすればいいだろうか。
思い悩んだような表情を浮かべながら隣を歩くライさんと、そんな彼に何て声を掛ければいいのか悩んでいる姿を見て、どうすればいいのか分からなくなる。
けどここで何もしない訳にはいかないし、でもここで何かをしないというのも……

「……レース君」
「ライさん?」
「あぁ、いや……何か用があって呼んだ訳ではないのだけど、何て言えばいいかな」
 
 名前を呼ばれたから反応をしたけれど、用があって呼んだ訳では無いと言われると、どんな反応を返せばいいのか尚更分からなくなる。
けど……こういう時に必要な事は、ライさんが悩んでいるのなら言葉にして吐き出させてしまった方がいい。
以前のぼくはそれが出来なくて、色んな失敗をして来たけど……今回は彼が悩み苦しんでいるのなら力になってあげるべきだろう。

「……取り合えず何か言ってみたら気持ちが落ち着いたりするんじゃないかな」
「まさか君に気を遣われてしまうなんてね」
「ライさん、レースさんの言うように何か悩みがあるのでしたら、私達が相談に乗るので話してくれてもいいんですよ?」
「カエデ姫……、分かった君達がそこまで言ってくれるなら、宿泊施設に着いたら話すよ」

 ライさんはそう言葉にすると、胸ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認する。
そして何かを考えるように上を向くと

「マーシェンスには久しぶりに来たけれど、この国はやはり空気がまずいね……君達もそう思わないかい?」
「え、えぇ……メセリーと比べたら何て言いますか、空気が濁っているような気がして……ちょっとだけ息苦しいですね」
「レース君もそう思うかい?」
「うん、暮らしは凄い便利だけど、道行く人に余裕が無いように見えるし……、何だか生きづらそうだなって」

 そんなぼく達のやり取りを聞いている人達から、刺さるような視線を感じるけどこれに関してはしょうがないと思う。
ライさんの真似をして空を見ると相変わらず雲っているし、この一ヵ月まともに晴れ間を見たような記憶が無い。
それに蒸気機関という物を使っているからか、湿気のせいで首都全体が何だか息苦しく感じるし、夕方になると濃い霧が出て遠くが見えづらくなる。
マーシェンスにずっと住んでいるのなら慣れているから問題無いだろうけど、他国から来たぼく達からしたら、余りにも環境が悪いと感じてしまう。

「……こんな話をしてしまったせいで、周囲の視線が集まってしまったね」
「ライさん、これは宿泊施設に直ぐにでも戻った方が良いのではないですか?」
「……そうしようか、取り合えず続きはそこで話そうか」

 そうして周囲の視線を気にしないようにしながら足早に宿泊施設に向かうけれど、ライさんの宿泊施設は何処だろうか。
ぼく達はミオラームに用意して貰った場所を使わせて貰っているけれど、栄花騎士団の最高幹部であるライさん達は、もしかしたら別の場所を利用している可能性がある。
だからこの場合、彼等の利用している施設の方にこのまま移動した方がいい気がするけど、ここは一度確認をした方が良い、その方がスムーズな行動が出来るだろうし。

「ライさん」 
「……ん?レース君どうしたんだい?」
「宿泊施設は何処を使ってるの?」
「……?【賢王】ミオラーム・マーシェンスから俺達の事を聞いていないのかい?」
「いや……聞いてないけど?」

 宿泊施設の件についてミオラームからは何も聞いていない。
もしかして連絡をし忘れたのだろうかとは思うけれど、それならあの子の変わりにフィリアが伝えに来ると思うけど、もしかしたら聞いてはいたけど記憶から抜けてしまったのだろうか……。

「カエデはミオラームから聞いてる?」
「……協力要請の書類を書いて頂いた際に、対応可能な栄花騎士団の団員について私達が利用している宿泊施設を拠点として利用する事を約束して貰ったので、私は知ってますよ?」
「そういう大事な事は、予め教えて欲しかったかな……」
「それに関しては、ライさん達を宿泊施設へと案内するついでに言おうと思ってたので……」

 ……なるほど、これがメイディでライさんが言っていた事後報告を受ける側の気持ちかと思うと、何とも言えない気持ちになる。
理由は分からなくは無いけれど、出来ればそういうのは事前に教えておいて欲しかったなって思ってしまう。
けど、同じ場所を使うという事は何かがあった時に、通信端末を使わなくても直ぐに連絡が取り合えるという事だから、結果的には良かったのかもしれない。

「ライさん……、ぼくこれからは事後報告だけは絶対にしないように気を付けるよ」
「……俺の気持ちを少しでも分かってくれる相手が出来て嬉しいよ」
「あの……えっと、何て言うかごめんなさい」
「カエデ姫、君は父親に似てそういう後出しで情報を出すてところがたまにあるから気を着けなさい」
「……はい」

……そんなやり取りをしながら宿泊施設へと入ると、ライさんを連れて自分達が使っている部屋へと向かう。
そして壁に取り付けられた魔導具を操作して人数分の飲み物を取り出すと、用意されている椅子に座るのだった。
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