治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第十一章 盗賊王と機械の国

23話 一日の終わり

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 椅子に座ったぼく達は、ライさんの話を聞く姿勢を取る。
そしてどれくらいの時間が経っただろうか、互いに言葉を発する事も無く……時計の針の音と呼吸の音だけが、沈黙を支配する。

「……さて、俺がこの国の王族と遠い血縁関係にあるのは知ってると思うけど、何処から話したものかな」
「ライさんの話せるところからでも大丈夫ですよ?」
「気遣いに感謝するよ、なら……俺の祖先に関してなのだけれど、この国を追い出されたんだよ」
「王族がマーシェンスを追い出された……?それってどういう事ですか?」

 カエデが気になったのか、質問をするように手を上げる。
それを見たライさんが困ったような顔をすると……

「そこは知らないかな、何せ何世代も前の……それも先祖に当たる人物の事だからね、ただ……知っている範囲ではこの国を追われた後、栄花に移り住みマーシェンスから持ち込んだ機械工学の技術を使って貴族という立場を得たという言う事位だよ」
「……何で追い出されたのか、気になるから【盗賊王】の案件が終わったらミオラームに直接聞いてみる?」
「聞くのは別に構わないけれど、今の賢王が当時の事情を知っている可能性は低いと思う」

 ミオラームなら知っていてもおかしくはないと思う。
彼女から王城内にある魔科学の資料や蒸気機関に関する専門書に、マーシェンスの歴史書を全て読んだという話をメセリーの魔導学園の教師として働いていた時に、彼女から聞いた事がある。
だから、その中にもしライさんのご先祖様に関する情報が残されていたのなら、ミオラームがあのような行動を起こしたのも個人的には納得が行く。
それにライさんが

「けど……ライさんは、過去にマーシェンスに留学してた時期があったって以前言ってたよね、その時に先代の賢王に会ったりとかしなかったの?」
「顔を合わせた事は何度かあったくらいで、会話はした事無かったかな……けど、会う度にまるで人の事を物を見るかのような目で見て来たのは不快だったよ」
「……んー、あの、もしかしての話をしても良いですか?」
「カエデ姫、もしかしての話でも構わないよ」

 何かこのやり取りの中で、カエデなりに気付いた事があったのだろうか。
そう思って彼女の方を見るけど、隣に座っているぼくに向かって手が伸びて、袖を握って来る辺り何処か自信が無さそうだ。

「……ライさんのご先祖様を国外に追放したのは、神を封じる器の血筋を残す為だったのでは無いですか?」
「血筋を残す為……?なるほど」
「ライさんも何か気づいた事があったの?」
「カエデ姫のおかげで気付けた事があってね、血筋を残す為という意味ならマーシェンスの外で雷の魔術を扱える者が俺の家系以外には存在しない事の理由が分かった気がするよ」

 確かにライさん以外に、雷の魔術を扱える人物を見た事が無い……いや、もしかしたら出会って無いだけかもしれないけど、現状マーシェンスには、ミオラーム以外の王族は全員死亡している。
そう思うと、このような不測の事態を考えてもしこの国の王族が全員亡くなってしまい、【賢神 マリーヴェイパー】を封じる事が出来くなった時の為に、外部に血縁を残しておく必要があったのかもしれない。

「その顔、レース君も気付いたみたいだね」
「うん……、つまりライさんの家系はマーシェンスの神を封印する器の──」
「スペアという事だね、だから先代の賢王は俺の事を道具として見定めようとしていたのかもしれないって言う意味でも、あの時の行動の意味が分かって何だか長年の疑問が解けたような気がするよ」

 ライさんはそう言いながら笑うけど、その笑みの裏には言葉にしていないだけで複雑な心境の筈だ。
この話し合いで、例えもしもの話だったとしても自分が神を封じる器となる王族のスペアだと、結論が出てぼくが彼と同じ立場だったら、ここまで冷静ではいられないし……取り乱すと思う。

「マーシェンスへの応援要請を利用して連れて来た私が言うのもどうかとは思いますが……仮にこのもしもの話が事実だったとして、ライさんはミオラーム様と婚姻を結ぶ意思はありますか?」
「カエデ姫が必要だというのなら、その指示に従うよ……ただ、俺自身の個人的な事情を組んで貰えるというのなら断らせて貰いたいかな」
「……分かりました、けど理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「相棒のハスの妹……、アキが俺に対して好意を抱いてくれているのは先程の会議室での事で二人も知っている筈だよね、俺の事を考えて暴走してしまう彼女の気持ちに対して、はぐらかさずに答えてあげられていないのに、いきなり現れた相手と婚姻関係を結び、マーシェンスという国の為に子を生せと言うのは……ちょっとね」
「……分かりました、そういう事でしたら盗賊王の件が無事に終わったら私の方からミオラーム様に話してみますね?」

……カエデがそう言葉にすると、ライさんが椅子から立ち上がり『いや、この件については俺が直接、本人に伝えに行くよ……、その方が筋が通るからね』と言いながら扉へと向かって行く。
その姿を見て、何て声を掛ければいいのか分からずに見守ってたら『レース君、カエデ姫、後の事はシンが無事に帰ってやるべき事が終わってから話そう、あまり私情を挟み過ぎて任務に支障を来たす訳にはいかないだろう?』と、先程とは違い力強い表情をでこちらを見るライさんの姿があった。
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