S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

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1章

波打ち際の宝石

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「ぷはっ!!はぁ……はぁ……なんだぁ!?」

ハズヴァルド学園の図書室に居たはずのアレスは、奇妙な海の絵を見た途端に青い空と海の狭間に投げ出されてしまっていた。
その景色は自分が先程までいた薄暗い図書室とはまるで別物。
アレスがそう認識するよりも早く、アレスの体は重力に引かれて海へと落下したのだ。

「なんだよ……これ。息が……溺れ、る……」

アレスは泳ぎが得意ではない。
そもそもエメルキア王国では泳ぎ方を学ぶ機会は極端に少なく、そんなアレスが突然海に投げ出されてまともに浮かぶことすらままならなかったのだ。

(落ち着け……これは焦れば焦るほどまずいやつだ。一度冷静になって、呼吸を整えれば……っ!?)
「なんだこの気配は!?」

それでも運動神経は抜群のアレスは、初めて海に投げ出されたにもかかわらず溺れないコツをつかみつつあった。
必要以上に水を怖がらず、余計な力を抜きゆっくりと呼吸する。
そのような方法で何とか体勢を整えようとするアレス。
しかしそんな時、アレスは突然水の中から背筋が凍り付くような異様な気配を感じたのだ。
まだ水に浮かぶことすらままならないが、命の危険には変えられないとアレスは必死に呼吸を止め水の中に潜ってみる。

「グァアアアア!!」
(っ!?嘘だろ!?魚の魔物!?)

アレスが海の中に潜ると、そこには不気味な目をした巨大で蛇のように長い水生の魔物が鋭い牙が生え並んだ口を大きく開けていたのだった。
魔物はすでにアレスの真下に迫っており、泳ぎ方もよくわからないアレスがその魔物から逃げきるのは明らかに不可能だった。

(んにゃろうが!!喰われてたまるかってんだ!!ふんっ!!!)
「グォオオオ……」

魔物に喰われる直前、アレスは水中に潜ったまま渾身の力でその魔物に斬撃を浴びせたのだ。
アレスが放った斬撃は一直線にアレスに向かって来ていた細長い魔物の体を一撃で真っ二つにしてしまう。

「ぶはァ!!」
(まずい……息が……)

しかし無理に水中に潜り斬撃を繰り出したアレスは、魔物を倒した直後に息が続かなくなってしまったのだ。
剣を鞘に納め、必死に浮上を試みるアレス。
だが出鱈目に手足を動かしてもアレスは水面に顔を出すことが出来なかったのだ。
空から見た海は太陽の光を反射してキラキラと眩かったが、ひとたび海へ沈んでしまえばそこは暗く冷たい場所であった。
上を見れば輝く水面が見えるが、手を伸ばせど決して届くことのないその光は溺れ行く者にとっては絶望そのものでしかなかった。

(ああ……くそ……俺、ここで死ぬのか……)

ついにもがくことも出来なくなったアレスはしずかに、ゆっくりと酷く孤独な深海へと沈んでいった。
意識が遠くなり、視界が失われていく。
そんなアレスが最後に見た光景は水面の向こうに見える光と、その光をバックに自身に近づいてくる人影だった……



「ど、どど、どうしよう!?溺れてる人を助けたら何をすればいいの!?」
(あ……。俺は……助かった、のか……?)

気を失ってからどれくらいの時間が経っただろうか。
海の底に沈んでいったはずのアレスは遠くから聞こえてくる女性の声で意識を取り戻したのだ。

「心臓マッサージ!?でも心臓は動いてるから……人工呼吸、かな」
(誰か助けてくれたのか……でも一体誰が……)
「どうやってるんだっけ!?確かこう……くっ、口と口をあわせて息を……///」
「っ!!」
「きゃぁ!?」

眩い太陽の日差しに目が開けられずにいたアレスは倒れたまま周囲の音を探っていた。
どうやら自分を助けてくれた女性が意識を取り戻さない自分の周りで慌てているらしく、バタバタと動き回っていた。
これ以上心配させるのはまずいとアレスは起きて助けてくれた彼女にお礼を言おうとする。
しかしその時アレスは自身の顔に影がかかったのを感じ、人工呼吸される前に起きようとして目の前に迫って来ていた女性と頭をぶつけてしまったのだ。

「いったぁ~~……」
「いっつつ……ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

女性はアレスの頭の上の方向からのぞき込んできており、アレスが勢いよく飛び起きたはずみで額を激しくぶつけてしまった。
額を抑え蹲る彼女に、アレスは赤みがかった額をさすりながら声をかけたのだった。

「だ、大丈夫です……それにしてもよかった。溺れて気を失っちゃっていたから心配してたんです」
「!!」

頭を抑える彼女を心配しアレスは声をかけたのだが、顔をあげた彼女の姿にアレスは驚きを隠せなかった。
腰のあたり程まである絹糸のようなブロンドの美しい髪に、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳。
穢れのない純真さを表すような白い服を身に纏った彼女の美貌はアレスに言葉を失わせるには十分すぎた。

「あの、どうかしましたか?」
「いや!助けてくれてありがとうございました。あなたに助けてもらえなかったら俺は今頃海の底でした」
「海を眺めていたら突然空から人が降ってきてビックリしましたよ。私はディーネっていいます。よろしくお願いします」
「俺はアレスです。ところでディーネさん、いくつか聞きたいことがあるんですが」
「はい。なんですか?」
「ここは……本の中、もっと言うと絵の中の世界なんですよね?」

ディーネと名乗ったアレスと同年代くらいに見える少女に、アレスは溺れていた所を助けてもらったお礼を言う。
そしてアレスはずっと気になっていたこの世界のことについて彼女に質問してみることにしたのだ。
アレスもハズヴァルド学園の生徒をすべて把握している訳ではないが、それでも彼女のような人を学園の敷地内で見たことはない。
さらに完全に直観になるのだが、アレスにはどうもディーネがハズヴァルド学園の生徒であるとは思えなかったのだ。
ハズヴァルド学園の生徒ではない……つまりはあの本が学園に来る前にこの世界に入った人か、もしくはもともとこの本の世界の住民かもしれない。
アレスは何かしらの情報が得られることを期待して話を聞こうと考えたのだ。

「絵の中……?すみません、私もここがどこなのかよくわからなくて」
「ディーネさんもあの本を読んでこの世界にやってきたんじゃないんですか?」
「それが……実は私、この砂浜で目を覚ましたんですけど、それより前の記憶が少し抜け落ちてしまっていて……」
「もしかして記憶喪失ですか?」
「はい。すべてを忘れてしまった訳じゃないんですがここで目を覚ます数日前の記憶がないんです」
「そうだったんですか……」
(でも元の世界に居た記憶があるってことは少なくともディーネさんは元からここに居たってわけじゃなさそうだな)

この海の世界に来る前の数日の記憶がないということで、アレスはディーネからここがどこかという情報を聞くことが出来なかったのだ。
しかし彼女が自分よりも長くこの世界に居ることは確実。
アレスはこの世界の情報を少しでも集めようとディーネに質問を続けた。

「それじゃあ、ディーネさんはどれくらいの間この世界に居るんですか?」
「えっと。たぶん3カ月くらいかな?」
「この世界から出る方法とかは……」
「ごめんなさい。私もよくわからないんです」
「そうですよね。じゃあもう1つ。今から1日くらい前に、この世界にアリアって女性が来ませんでしたか?というか昨日から何人かこの世界にやって来てると思うんですけど。皆俺と同じハズヴァルド学園の制服を着ているはずです」
「っ!!」
「ディーネさん?」

彼女もアレスと同様にこの世界のことについてはあまり詳しくないらしく、有益な情報を得ることは難しそうだった。
だがアレスは最後にディーネに本来の目的である、行方不明となったアリアが来ていないかということを質問したのだ。
他にも行方不明となった学園の生徒たちの存在もあわせてアレスがその質問をすると、突然ディーネの表情に強張りが確認できた。

「ご、ごめんなさい。アリアさん……と、その服を着た人たちはこの世界で見かけてないです」
「そうか……」
(嘘だな。行方不明になった人たちは……アリアは間違いなくこの世界に居る。だがなんで急にそのことを隠した?ディーネさんは悪意を持って俺を騙そうとしてるようには見えないが……)

ディーネの反応からアリアがこの世界に居ることを見抜いたアレス。
だが同時になぜ彼女がアリアの存在を自分に隠そうとしているのかアレスには見当もつかなかったのだ。
ディーネの反応から嘘をついているのは明らかになったが、彼女が悪意を持って自分を騙そうとしているようには感じられなかった。
むしろ嘘をつくことを心苦しく思っているようで、アレスには彼女が悪い人だとは思うことが出来なかった。

「わかりました。最後にもう1つだけ。ディーネさんはこの世界で1人だけなんですか?」
「いえ、それは違いますよ。あっちのお城にたくさんの人がいて、その人たちと一緒に住んでいますよ」
「お城?」

最後にアレスはこの世界に彼女以外の人がいるのかと質問したのだが、その質問にディーネはとある方向に真っ直ぐ指をさしたのだった。
ディーネが指さす方向の先には砂浜から続く1本の道が伸びており、その先には海の上に浮かぶ青く美しいお城がそびえたっていたのだ。

「よければあのお城を案内しましょうか?そこには私もいろいろとお世話になってるエリギュラ女王もいますし」
「女王……はい。ぜひ案内して欲しいです」

城を案内してくれるというディーネの提案に、アレスは情報を求めてあの城の城主であるエリギュラに会わせてもらうことにしたのだった。
アレスのその返事を聞いたディーネは立ち上がり、スカートについた砂をぽんぽんと払い落とした。
そうして歩き始めた彼女の後をついて行き、アレスは海の上の青城を目指すこととなったのだ。
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