S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

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2章

黒い獣人

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「あっ!アレスさんが戻ってきましたよ!」

ディーネを葬るために海へ向かったアレスを待っていたソシアたち。
3人が神妙な面持ちで海を眺めていると、しばらくしないうちにアレスがゆっくりと歩きながら戻ってきたのだ。

「悪いな皆、待たせちまって」
「アレス君!もう戻ってきたの?」
「ああ。別れの言葉はもう事前に済ませてあったからな」
「無事に戻ってきてくれて嬉しいよ、アレス。実はほんの少しだけ君がこのまま戻って来ないんじゃないかという考えが頭を過ってしまってね」
「まだ疑ってたのかよ。大丈夫だって、俺を待っててくれる友達がいるんだからな」
「はい。それでアレスさん、これでもうエメルキア王国に戻るだけですか?」
「うーん、そうだな。初めはそのつもりだったけどお前らに付いてきてもらってそれは悪い気がするんだよな」

もともとアレスはディーネの弔いを済ませた後は国に直帰する予定ではあった。
だがソシアたちに付いてきてもらって何もせずに帰るのは3人を無駄に連れ回したような気がして帰りにくい気分となっていたのだ。

「それならシャムザロールの首都にでもいかないか?私たちならすぐに行けるよ」
「私はあまりこの国について詳しくないけど、なにがあるんですか?」
「正直私もよく知らないよ。でもその方が楽しそうだからね」
「いいですね。シャムザロールの首都なら観光には適していますし、どうですかアレスさん?」
「いいね。んじゃ行こうか!」

アレスたちは現在長期休暇の真っ最中なのだ。
ハズヴァルド学園の長期休暇は1カ月以上ありシャムザロールを刊行するには十分な期間ということで、アレスたちはエメルキア王国に帰る前にこの国の首都に寄っていくことにしたのだった。



「ひぃ~……隣町までそんなに遠くないと思いましたけど、実際に歩くと違いますね……」

アレスたちは先程までいた漁村から離れシャムザロールの首都、テスクトーラへと向かっていた。
しかし先ほどの漁村からテスクトーラへの最短距離には魔物の住処となっている山を越える必要があり、整備された街道で行くとかなり時間がかかってしまうのだ。
なのでアレスたちは時間短縮のため魔物が住む山を突っ切って進むことにしていたのだ。
道のりはそこまで険しくなく、魔物もそこまで危険な個体は存在しない。
体力のないジョージは多少苦労しているようだが、他3人は家の近所を散歩するような感覚で進んでいた。

「大丈夫かジョージ?きつかったら俺が背負ってやるぞ?」
「いいえ、僕も本ばかり読んでないで体力を付けないといけないと思っていたので……」
「無理はしないでね?いつでも休憩するから」
「それにしてもアレスがすっかり元気そうで安心したよ。私は君を励ますつもりで王都に寄るつもりだったんだが」
「いつまでもくよくよしてたっていいことないだろ?あいつのことを忘れるつもりはないが、それでも気持ちは切り替えて前に進まねえとな」
「ああ。せっかくの観光なんだ。どうせなら楽しまないと」
「そういえば前に2人で、いつか皆で旅行にでも行きたいって話してたしちょうどいい機会だったかもな」

魔物さえ出なければ程よい山道に美しい緑の木々の景色が素敵なハイキングのような道。
アレスたちは雑談をしながら山越えを目指していた。

「そんな話をしていたんですか?お二人は流石ですね」
「ん?なにがだ?」
「旅行なんて普通の人は簡単には出来ないんですよ。魔物や盗賊に襲われないよう護衛を雇わないといけませんし」
「そうだね。旅行って言うと貴族様の特権って感じだね」
「そんなつもりはないんだがな。ただ何が出て来ても自分で倒せばいいと思ってるだけで」
「ただソシアたちの言う通りだろう。いつか貴族以外も気軽に旅行が出来るような平和な国にしていければいいなと……っ!」
「アレス君!この感じ……」
「ああ」
「え?え、何ですか急に!?」
「お前たち少し話を聞かせてもらうぞ!」

雑談をしながらもいつ魔物が飛び出してきてもいいよう警戒をしていたアレスたちは、離れたところから聞こえてきた馬の足音に気付きその足を止めたのだった。
少ししてアレスたちの元に現れたのは馬に乗った2人のよりを装備した騎士。
手入れの行き届いている綺麗な鎧を身に纏った騎士たちの方に見えたのはこの国シャムザロールの紋章だった。

「あれは……」
「シャムザロールの騎士たちだな。しかしなぜこんな山の中に」
「お前たち、身分証などを出してもらおう」

シャムザロールの騎士はアレスたちの元にやってくると、馬を降りアレスたちに身分証の提示を求めたのだ。
断る理由などあろうはずがなく、アレスたちは入国時に貰った入国許可証とハズヴァルド学園の生徒手帳を出した。
緑聖国シャムザロールは古くから他国との争いを好まず平和主義を貫いてきた。
そのためエメルキア王国との関係も悪くなく、エメルキア王国で由緒正しい歴史のあるハズヴァルド学園の生徒となればある一定の信頼を得られたのだ。

「これはこれは。あのハズヴァルド学園の学生でしたか。本日は何故こんな魔物が出没するような山の中を?」
「さっきまで南方の漁村に居たんですが、エメルキア王国に帰る前に首都テスクトーラに観光に行こうと思いまして。戦闘の心得はあるのでこの山を突っ切たほうが速いなと」
「なるほど。わかりました。ですが今はあまりこの山に立ち入るのはお勧めできません」
「何かあったんですか?」
「最近、この山とその周辺の集落では人語を話す魔獣の被害が多発しているのです」
「人語を話す魔獣?」
「ええ。なんでも黒い影のような魔獣が人を襲っているらしく、人を襲っては馬車の積み荷を奪っているらしいんです」
「確か3、4年前にも同様の被害があったな。あの時の犯人も捕まってなかったし、非常に狡猾な相手だ。気を付けるんだな」
「そうだったんですか。ご忠告感謝します。十分に注意しますね」

身分証のおかげですぐに騎士たちの信頼を得られたアレスたちは、こんな山の中で騎士が警備をしている理由を聞くことが出来た。
騎士たち曰く、どうやら現在この山の周辺で人語を話す魔獣が馬車の積み荷や民家の食糧などを狙っているというのだ。
そのため騎士たちは魔獣の捜索と付近の住民や旅人への警告もかねて山の中を巡回していた。
しかし戦闘に関して心配の一切ないアレスは騎士たちの警告をありがたく受け取りながらも、そのまま予定通りテスクトーラを目指すことにしたのだった。

「人語を話す魔獣なんて……ちょっと怖いね」
「大丈夫だって。何百体魔獣が出て来ても全部斬り捨てればいいんだし」
「流石アレスさん、頼りになりますね……」
「だが警戒するに越したことはないぞ。ソシア、ジョージ。あまり私とアレスの傍から離れないように」

騎士たちと別れたアレスたちはそのままテスクトーラに向けまっすぐ歩きはじめる。
しばらく進むと山の勾配が先ほどよりも急になり、生えている木の大きさも太陽の日差しを遮るほどに大きなものになっていた。

「一般人が避けて通るわけだ。さっきよりも魔物の気配が強くなってやがる」
「流石にこの森の中で野宿するのは避けたほうが良い。日が暮れる前にこの森はぬけてしまおう」
「ソシアさん?さっきから様子がおかしいですが体調でも悪いんですか?」
「えっ?あ、ううん。でもさっきからなんだか見られてるような気がして……」
ガサガサッ!!
「っ!?」

魔物の雰囲気が濃くなっていく森の中。
ソシアが誰かの視線を感じその場に立ち止まった次の瞬間、なんとソシアの傍に会った草むらから黒い何かが勢いよく飛び出しソシアに襲い掛かったのだ。

「きゃぁ!!」
ガキィイイイン!!
「っ!?」
「俺の前でそんなことが許されるわけねえだろ」
「ぐぅうう!!!」

草むらから飛び出した影は一直線にソシアに向かう。
鋭く真っ黒な爪が生えた影のような手でソシアの顔に爪を立てようとする魔獣。
しかしその爪がソシアの肉に喰らい付くことはなかった。
直前でアレスがソシアと魔獣の間に割って入り、剣を逆手に持ち魔獣の攻撃を受け止めたのだ。
攻撃を受け止めたアレスはそのまま流れるように魔獣の腹に横蹴りを繰り出す。
鋭い蹴りが腹に突き刺さった魔獣は苦痛の声を漏らしながら激しく後方へ吹き飛んだのだった。

「っ!ソシアさん大丈夫ですか!?」
「うん、平気。ありがとうアレス君」
「いいよ。それよりもあれがさっきの騎士が言ってた……」
「ぐぅ……はぁ、はぁ。お前ら、荷物を全ておいていけ。さもないと命はないぞ」
「っ!!人語を話す魔獣!!」
「いや、騎士たちが言ってた人を襲ってる奴なのは間違いないが、こいつは魔獣じゃないぞ」
「ああ。獣人のようなシルエットだがアレは恐らく……人で、しかも子供だ」
「っ!?」

アレスに蹴り飛ばされた獣人は地面を転がるも、すぐに体勢を立て直して獣のような低く構える前傾姿勢をとった。
その様子にアレスとティナは冷静に相手を分析していた。
獣のようなフォルムの敵だが、それは黒い影のようなものを纏っているだけ。
その中身はアレスたちと同じ人間……しかも子供だったのだ。
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