S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

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3章・前半

フォルワイル家奥義

「ユガリ帝国……これは大変なことに……」

ネレマイヤ家の屋敷に攻め入った仮面の襲撃者たち。
その正体が隣国ユガリ帝国の工作員であったと聞かされたティナは、その事態の深刻さに声を震わせた。

「ぐぉ!!」
「ッ!父上!」
(くそ!とんでもない情報だが今はそんなこと考えてる余裕はない!!)

しかし父親のうめき声に、ティナはそんなことを考えている余裕はないと我に返る。
振り返るとそこには全身を血に染めたゼギンの姿があった。

(俺だけが血まみれか。しかもまだ速度が上がる……だがティナが奴等を遠ざけたおかげで少しは戦いやすい!)
「――岩棘!!」
「……ッ!」
ズガァアアアン!!!

男の目にもとまらぬ斬撃を受け続けたゼギンはもう全身を真っ赤に染めていた。
だがティナが近くに倒れていた兵士たちを移動させたおかげで彼らを気遣う必要がなくなる。
次の瞬間、ゼギンの足元から出現したのは鋭い岩の棘。
その攻撃を直前で察知した男は余裕を持って後方へ飛び退いた。

「父上!」
「まったく。全身くまなく切り刻んでくれおって」

ゼギンのスキルは大地の覇手グラウンド・オーダー
大地の神の加護を受けると言われているそのスキルは意のままに大地を変形させ、槍のように敵を貫いたり岩の壁で敵の退路を断つことが出来るスキル。
そのスキルによりいったん敵との距離を確保したゼギンにティナが合流する。

「やはりここは逃げたほうが……」
ボォオオン!!
「ぐッ!?」
「ッ!また来るぞ!!」

ゼギンが繰り出した岩の槍は床を破壊し天井を貫いた。
先程は周囲への被害は最小限に抑えろと言ったゼギンがそんな余裕もない程に追い詰められていることを強く実感させられたティナの表情がまた一段と曇る。
だがそんなティナが再び撤退を提案したその時、先程ゼギンが生成した岩の棘を貫き男の斬撃がゼギンを襲ったのだ。

(最短最速の突き……まずい、体勢が……)

男が放ったのは刺突による斬撃。
間一髪でその斬撃をのけ反り回避したゼギンだったが、その直後男は岩の棘を回り込み再び間合いを詰めてきた。

「くッ……私が相手だぁあ!!!」
「……」

顔面目掛けとんできた斬撃を躱したゼギンは男を迎撃できる体勢になかった。
そんなゼギンを庇うため、雄叫びをあげ己を奮い立たせたティナが命を懸けて男に刃を向けたのだ。

(大技を出せばあの見切りが来る!まずは奴の足を止めねば……)
「はぁああああ!!」
「……」
(ッ!?なんだ……この違和感は……)

死の恐怖を押し殺し男との斬り合いにもつれ込むティナ。
だがその時ティナは男の斬撃にある違和感を覚えた。

「岩砕閃!!」
「……っ」
「父上!」
「2対1で押し殺すぞ!!」

父親に反発しつつもまだ自分の実力はゼギンには遠く及ばないことを自覚していたティナ。
しかしそんな彼女の剣技はゼギンを圧倒したこの男の攻撃を凌いでみせたのだ。
さらにそこへ体勢を整え直したゼギンが加わり2対1で男を追い詰める。

「うぉおおおお!」
「はぁああああ!」
「……っ」

同時に男に迫った2人はそのまま嵐のような乱撃で攻撃を開始した。
流れるように繰り出される2つの刃は男の剣と交錯し無数の火花を舞い散らせる。
2人の決死の猛攻に男は完全に受けに徹する。

(このまま……)
(押し斬る!!)
「岩棘乱舞!!」
「氷華昇刃!!」
「……ッ!」

2人の圧にたまらず1歩引いた男にゼギンとティナは畳みかける。
地面から無数の岩の槍が飛び出し、ティナが刀を斬り上げ地面から無数の氷の刃が伸びる。
男の姿は2人の攻撃に飲み込まれ姿を消す。

「まだだ!!さらに追い込むぞ!!」
「ああ!!」
(フォルワイル家奥義、岩刃……)
(フォルワイル家奥義、氷刃……)
「「百花繚乱!!!」」

敵を見失った2人だが、ゼギンは先程までの戦いからあの男がこの程度で倒せるとは到底考えてはいなかった。
岩と氷の棘で閉ざされた空間に、ゼギンとティナは渾身の奥義を叩き込む。
2人が繰り出した100を超える斬撃は眩いまでに辺りを照らし、岩と氷を粉微塵に斬り刻む。

「はぁ……はぁ……」
「はぁ……くっ、化け物が……」

しかし花火のように広がった斬撃が晴れた先に居たのは剣を構えた男の姿……
そう、男は今の2人の攻撃を完全にしのぎ切ってみせたのだ。
男の腕や脚、仮面の端には先ほどの攻撃で掠った斬撃の痕が刻まれていたが、到底致命傷と呼ぶには程遠いものだった。

「……っ」
「ッ!!来るぞ!!」
(ッ!あの構えは……まさか!!)

2人の攻撃を耐えきった男は攻撃に転じようと構えを取る。
それを見たゼギンは顔色を変え警戒レベルを最大まで引き上げる。
だが、ティナはその男の構えを見てあることに気が付いたのだ。
右足を大きく前に踏み出し、左後方に剣を置いた特異な構え……

「がぁああ!!」
「なッ!?父上!」

直後、男は地面を踏み割らんほどの勢いでスタートを切る。
そのスピードはもはやゼギンの動体視力を完全に凌駕した。
直感により刃を滑り込ませるも、男の放った一撃はゼギンの剣を半ばから折り、ゼギンの胸に深々と傷を負わせる。

(速すぎる……ほとんど何も見えなかった……)
「がはッ……」

その一撃をまともに食らったゼギンは地面に膝をつき血を吐き出す。

(そうか。さっき感じた違和感の正体はこれが原因だったのか……)
「やぁあああ!!」
「待てティナ!単独で突っ込むな……」

男の攻撃を食らったゼギンはよろめきながら1歩2歩と後退する。
そうして1対1で男と向かい合ったティナだったのだが、なんと彼女はここにきて素直に正面から男に戦いをしかけたのだ。

「ぐッ!」
「……」

だがそんな愚直な攻撃はその男に通用しない。
甲高い金属音が響いた瞬間、刀身は容易く弾かれていた。
衝撃で腕が痺れた次の刹那、敵の手が彼女の手首を掴む。

「がぁああ!」
「ティナぁ!」

腕を捻じられた痛みで刀を手放したティナの背後に、男は一瞬で回り込んだ。
男はティナの右腕を背中へと捻じり上げ一切の抵抗を許さない。
さらにそのまま剣をティナの首筋に押し当てたのだ。

「……」
「……今更、そんなことをして何になるというのだ」

その様子を見せられたゼギンは目を大きく見開き、震える足に力を込め立ち上がる。
男にティナが人質として価値があると思わせたくない。
なんとか平静を装い強がって見せたゼギンだが、その声は自分でも驚くほどに震えていた。

「……」
「うッ……」
「待て!!どこに行くというのだ!?」

そんなゼギンに対し、男はティナの首元に剣を押し当てたままゆっくりとどこかへ移動を始めたのだ。
それを見たゼギンが反射的に声を上げる。

「大……丈夫だ父上!」
「ッ!?」
「私に構うな……こんな状況、私1人で切り抜けられる!」

だがその時ティナは男に捕まったままゼギンに自分を助ける必要はないと言い放ったのだ。
それを聞いたゼギンの剣を握る腕が大きく震える。

「馬鹿なことを言うな!貴様に何ができるというのだ!?」
「私だって戦場に立つ以上命を捨てる覚悟はあるさ!私を救うよりジゼル様を優先しろ!私が貴様に助けてもらいたいと思うのか!?」
「……ッ!」

ティナの言葉にゼギンは言葉を失う。
娘が連れ去られる様子を目前にし……鬼と評されるほどに恐れられた総軍団長の心が揺れる。
結局ゼギンは男を追いかけることが出来なかった。
奥歯をかみ砕かんばかりに噛みしめながら、力なく剣先を地面に落とした。



そうしてティナを人質にゼギンの前から立ち去った男だが、男はティナを連れたまま少し離れた部屋へと入っていった。

「ふぅ。父上を騙す必要があるとはいえ、もう少し手加減してくれても良かったんじゃないか?」
「悪かったって。下手に加減するとあの人にバレそうでさ」

部屋に入ると男はなんとティナをそのまま解放してしまう。
それどころではなくティナは緊張の糸を緩め、気さくに男に話しかける。
そう……男の正体はユガリ帝国の工作員などではない。
仮面を取ってティナの前に素顔を現した男、それはなんとアレスだった。
自身が屋敷に潜入する前に謎の集団がネレマイヤ家の屋敷に襲撃をしかけたのを見たアレスはその中の1人を捕え、服や仮面を奪いその一味になりすましていたのだ。

「しかしよく俺だって分かったな。俺はおまえにもバレないつもりで動いてたのに」
「私が君の剣を見間違えるはずが無いだろう。刃を交えてみて感じたし、あの構えを見て確信した。それに私に対しては防戦一方で傷つけようともしてこなかったし」
「へへっ、さすがだな」
「だがこれで納得がいったな。どうりで君よりも強いと感じたわけだ」

ティナは普段からアレスと稽古を行っていたが、その中で本気で戦うなんてことはしてこなかった。
アレスが本気で戦闘を行う際もティナにとってアレスは頼れる友であり、その敵意を向けられたことはない。
だから今日初めてアレスを敵としてみることとなり、倒すべき相手としてアレスを見た時に普段見ている彼よりも手ごわいと感じたのだった。

「それにしてもまさか俺がジゼル様を連れ出す当日に屋敷が襲撃されるなんてな。まあおかげでこそこそ忍び込む必要がなくなったわけだが」
「笑ってる場合じゃないぞ。初めは君と気付かなかったわけだから信じられないほど手強い敵が現れたと死を覚悟したんだぞ?」
「ああ……それに関してはほんとに悪かったよ」
「君が存外戦闘狂だからな。大方私の父上と一度本気で戦ってみたかったとかだろう?」
「1番の理由は違うけど……まあその気持ちもあった。とにかくすまなかった。お前の親父さんを傷つけちまって」

人気のない薄暗い部屋の中で、アレスは正体を隠しティナの父親を傷つけてしまったことを謝罪した。
だがそれに対しティナは意外にもケロっとした態度をしていた。

「他の兵士たちは皆素手で制圧されていた。私にだって攻撃はしてこなかったわけだし、父上にだって手加減してくれていたんだろう?」
「手加減してた、ってわけじゃないけど。それでも殺さないよう気を付けてた。それにゼギン様はたぶん回復ポーションを持ってるだろうってわかってたから多少の怪我は大丈夫って思ってたし」
「あれが多少の怪我か?まったく……だが私も父上もいい刺激になったよ。追い詰められた父上を見て少しあいつへの嫌悪感も消えた気がする」

普段、ゼギンはティナに対し高圧的な態度を崩すことはない。
しかし今日は自分をはるかに上回る敵を前にし、父親の普段見せることのない顔をティナは見ることが出来たのだ。
命の危機が迫りながらも決して折れない総軍団長としての父の顔。
そして自分が捕まった時に隠そうとしても隠しきれていなかったゼギンの自分を心配する顔……

「にしてはさっき、だいぶキツイこと言ってたよな」
「ん、何のことかしら?」
「私が貴様に助けてもらいたいと思ってるのか、とか」
「ああ。昨日までの私なら本心だったんだろうが……君との戦いを経て流石に本気でああは思っちゃいないよ。本人に言うつもりはないが」

父は完全に自分のことを毛嫌いしていると考えていた。
だから先程ゼギンが見せた父親としての顔に、ティナは内心戸惑いを隠しきれなかった。
自分のことを嫌うなら徹底的にそうしてくれれば清々するのに。
そう考えていたのか、ティナは腕を組みながら不機嫌そうな顔をしていた。

「とにかく、俺はそろそろ行くよ。帰るのはちょっと先になると思う」
「ああ、不要な心配だとは思うが気を付けてな」
「おう!……と、その前に。ティナ、1個いいか?」
「なんだ、そんな改まって」

ティナに別れを告げ部屋を出て行こうとしたアレスだったが、あることを思い出しドアノブに伸ばした手を引っ込めた。
アレスは急いでいる状況でありながらある提案をティナに持ちかけたのだった。



それから数分後、ティナとの会話を終えたアレスは部屋を出て屋敷の中を風のように走っていた。
すでに屋敷の外には王国軍の援軍は到着している。

(ちょっと時間を使いすぎちゃったな。最悪な場合ジゼル様を連れて強行突破もありえそうだな)

アレスは凄まじい速度で廊下を駆け抜けていく。
前回この屋敷に来た際にジゼルの部屋の位置は完全に把握している。

「この先を抜ければ……」
(ッ!!この気配は!)

足音を消し最速で廊下を走るアレス。
しかしジゼルの部屋まであと少しと迫った廊下の曲がり角の手前で、アレスはただならぬ気配を察知したのだ。

「――冥華・骸牡丹」
「シュッ!!」

廊下の角を曲がったまさにその時、無慈悲な刃が正確にアレスの首めがけ振り下ろされた。
正確無比に迫る刃をアレスは回転するようにギリギリで回避する。

(……っ!思ったよりギリギリだった。普段の様子からは想像できない技のキレですね……)
「侵入者はこの私が、フォルワイルの名に懸けて排除します」
(ルシーナさん!)

不意打ちのその一撃を回避したアレスだったが、振り下ろされた刃の風圧を間近に感じ想像以上の実力に仮面の下で口角を上げた。
アレスの前に立ちはだかったのはハズヴァルド学園の生徒会書記にしてティナと同じフォルワイルの名を冠するルシーナ。

(技の鋭さで言ったらもしかするとゼギン様を超えるかもな……流石、フォルワイル家相伝のスキルの継承者だ)

子が授かるスキルは完全なランダムではなく、親のスキルを一定の確率で受け継ぐとされている。
そのため貴族家では貴重であり格式の高いスキルをその家の相伝のスキルとして重んじ、そのスキルを持った子供を優先的に跡継ぎにするということが多くあった。
フォルワイル家の相伝のスキルは天華煌刃。
次の世代を担うフォルワイル家の若者の中で、相伝のスキルを継ぎ1番実力が高いと言われていたのがこのルシーナ・フォルワイルだったのだ。
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